4-2

 そう捨て台詞を残し、彼はエッケハルトの時のように霧となって私の刃から逃れた。ようやく親玉が消え去ったが、私の本当の試練はこれからだった。


 未だに全身を巡る激痛、心臓が誰かの手によって握り締められるような感覚、頭痛も酷く、右腕には熱して溶けた鉄をかけられているような……我慢できない私は頭を床に何度か叩き付け、それから部屋中に自身の体をぶつけて暴れ回った。


「アリウス、アリウス! どうしたんだ、やめろ! 落ち着け!」


 ヨエルが私の背後から両腕を掴む。しかし、私はもがいた。早くこのどうにもならない痛みから逃れたいのだ。既に理性というものは崩壊し、意識だけが残ったまま私の体は暴走している。


 もしこれが本当の肉体だったら、私はとっくに死んでいるだろう。仮の姿だからこそ、魂だけだからこそ耐えられるのだ。


「俺を見ろ、アリウス!」


 父が私の顔を両手で挟んで目を合わせようとする。しかし、暴れ狂う私は父の手を払って突き飛ばす。同様にヨエルの腕からも逃れ、怪物と化す右腕でヨエルの喉元を掴んだ時、そこで私の記憶は途切れた。







 ふと目を開ければ、私は自室のベッドに横たわっていた。白い病人服に着替えて右腕には大量の包帯、背中から胸部にかけても厚めの包帯がしっかり傷口を保護している。


 多少の鈍い痛みはあるものの苦痛で顔が歪むような激痛はもう治まっていて、私は体を起こして右側の窓から外を眺めた。暖かい小春日の光――戦争なんて忘れてしまいそうだった。


 だが、残念な事にこれからの戦いは更に激化するだろう。まさかクリスタの背中を押している人物が死神だった事には正直驚いたが、それはそれでもっと彼女達を危険視しなければならない。


 死神の力は人間を大きく上回るため、クリスタがどんな手段に出るか普通の目線で予想しては駄目だ。最大限に頭を活用し、どんな非行に手を出すか予測をしなければまた国を危険に晒す破目になる。


 しかしあの男……私に何の恨みがあるというのか。それだけが私の謎であり、怒りの根源だ。一体魂を何だと思っているのか? 道具以外の何ものでもないという言い方は異常者の決定的な証。奴を消せさえすればクリスタの行動はかなり抑え込めるはず。まずはロレンツィオをどうにかしなければ……。

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