7-4

「良い事を教えてやる。クリスタが死んだ事は知っているか?」


「……何だって?」


「その反応では知らぬようだ。つい先日、クリスタは謎の死を遂げた。原因は分かっていないが、遺言書にはロレンツィオが王位を継ぐよう書かれている。実の妹がいるにもかかわらず、だ。これはどういう意味か……理解できるな?」


 あまりにも衝撃的だったものだから、私は言葉を失った。


 クリスタが幼い娘を数年前に亡くしている事は知っている。夫も先立っている。妹がいる事も知っている。――完全にクリスタはロレンツィオの手で遊ばれていた、という事か。確かに白の大陸で最高戦力を持つユルゲンの頂点に立てば、ロレンツィオの世界征服も難しくはない。しかし、何故、彼は私にそんな事を告げたのだろうか。


「ロレンツィオがクリスタを殺したに違いない」ヴァロは言いきる。「このままではユルゲンだけでなく、ドミンゴもエッケハルトも、全てが奴の闇に呑まれる。あの男は既に死神ではない――」


 言葉が切れる方が遅かっただろうか。彼の胸部から細身の刃が突き出す。漆黒の鎧を貫き、破片が地面に落ちる時、私の視界に入ったのは、面白くない、とでも言いたげなロレンツィオの不満そうな顔。血液が伝う刃を掴み、ゆっくり顔を後ろに向けるヴァロは小さく「貴様……」と呟く。


「どうなっているかと思って見学しに来たら……何だ、僕の悪口かい?」


「違う」


「そう、じゃあアリウスに何を言っていた?」


「貴様を……」ヴァロは自ら刃を抜くために前に出て、振り返りざまにロレンツィオの首をがっちり掴んだ。「死神の試作品でしかない貴様を殺してくれと頼んでいたところだ」


 一瞬目を細めたロレンツィオは再び剣を彼に突き刺し、足で蹴飛ばして引き抜く。


「死に損ないが」仰向けになって崩れ落ちるヴァロに向かって言い捨てた。「暴走しない奴は用済みだ。理性が崩壊してこそ真の死神となるのに……君の精神力の強さは認めよう。だが、必要なかった。ただそれだけの事さ。そう……君が悪い」


「貴様は消える」ヴァロは最後の力を振り絞り、手元に引き寄せた槍を掴んで立ち上がり、ぶつかるようにしてロレンツィオに突き立てる。「竜が――深い闇をも打ち砕く光の竜が貴様を暗黒に葬るだろう……」


 地面に伏せる直前、ヴァロの仮の肉体は砂となって散った。中から現れた白い魂はガラスのように呆気なく砕け散り、何も残る事はなかった。これが違反者の結末なのだろうか。あまりにもむごい。


「反逆者が歩む道がどのようなものなのか、分かっただろう?」


 ロレンツィオは私に向かって不敵な笑みを浮かべた。


「エイニオでまた会おう。僕が神になる瞬間を、目の当たりにするんだ」


 そうして彼は霧となって消え去った。

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