3-5

「エドウィン王、ご無事ですか!」


「おお、アリウスではないか! 死んだと聞いていたのだが……」


「説明は後ほど、じっくりいたしましょう。その前に……始末せねばならぬ輩がいるのです」


 私は玉座の方に堂々と立つ白い男を睨んだ。この男こそ、今回の元凶だろう。


「おっと、僕は君に恨まれるような事をした覚えはないよ。それとも、マリオネットの事かな?」


 彼には危機感すらないようだ。顔を見るだけでも私の怒りは増し、心底憎悪が込み上げる。この男だけは許せなかった。百歩譲っても無理だ。私は彼を殺したくて仕方がなかった。


「そんな怖い顔しないでくれよ。同士だろう?」彼は不敵に笑った。「聞いているよ、君が僕と同じになった事を。しかし、今は残念ながら敵同士だ。……本当は“仲間”なんだけどね」


「……二度と同士と呼ぶな」私は低い声で言い放つ。「エドウィン王、下層へお行きください。ここは私に」


「す、すまぬ」


 エドウィン王が下層へ行った事を確認すると、私は奴に敵意を剥き出しにして激しく睨む。彼の表情には笑みが浮かんでいたが、赤い瞳は氷のように冷たく、一切笑ってなどいなかった。


「貴様、死神か?」


「君と同士って事はそうなるんじゃないかな?」彼は高らかに笑い声を上げる。「僕はロレンツィオ。いずれ世界の頂点に立つ男だ。覚えておくといいよ」


「殿下から名は教えられていたが……何を企んでいる?」


「さあね」ロレンツィオは素っ気なく言い捨てた。「僕はただ、僕の計画のために動いているだけさ。エッケハルト襲撃も、計画の一部分に過ぎない。まだ序盤だけどね」


「計画?」私は顔をしかめる。「世界征服のためのか?」


「それは教えられないよ。例え相手が君でもね。人殺しさん」


「貴様!」


 私は怒鳴って槍をロレンツィオに向かって突き出すが、彼は目に見えぬほど一瞬で私の背後に回り込んだ。早い……影すら見えなかった。動体視力を鍛えた私でも、どうやって後ろに行ったのか不明だ。


「もうここは用なしだ」彼は手の平の上で光る、白く濁った宝石を私に見せ付けた。「目的はこれだからね」


「それは……白の魔法石! 返さぬか!」


「これはもうクリスタの物だよ。彼女が望んでいる物だからね。それでは、また会おう」


 ロレンツィオは捨て台詞を残して霧のように消え去った。


 やはりクリスタは白の魔法石に手を出してしまっていたか……これは世界の命運を懸ける大問題だ。きっと近いうちにドミンゴの魔法石を狙ってくるだろうし、早く体制を立て直さなければ滅びてしまう!


「アリウス、大丈夫か!」困惑したような表情のピエルが私の隣にやって来た。「突然敵が消えたんだが……何があった? 人形どもも奇声を発しながら砂になってしまって……」


「大変だ、ロレンツィオがここの白の魔法石を奪い取ってしまったのだ! 何に使うかは知らないが、全てクリスタが仕込んだ事らしい。次はドミンゴの魔法石が標的になる。早く殿下にお伝えしなければ!」


「あの女々しい男か……」ピエロの眉間にシワが寄る。「俺はまだここに残って負傷者の処置に回る。お前はガルシアやヨエルにこの旨を伝えて、殿下のところへ急ぐんだ。今のドミンゴにユルゲンの大部隊が攻め込んで来たら……さすがにひとたまりもないだろう。部隊の撤退を命じるんだ。それしか手はない」


「了解。エッケハルトは任せた」

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