最終章 親愛なる……

9-1

 ロレンツィオが引き起こした長きに渡る戦争も終戦し、我々ドミンゴ・エッケハルト連合軍は終焉の地エイニオを後にし、それぞれの国に無事帰還。勝利を称え合った。


 その後のユルゲンはというと、国は二つに分断され、片方はクリスタの実の妹クーオラが女王として国を引き継ぎ、もう片方はあのベルマン家が国を興して、現在はバーミン公国と呼ばれている。


 それから数ヵ月後、エッケハルトのエドワード国王が治療の甲斐もなく病によって死去してしまい、息子のハンス王子が若くして国のトップとして君臨する事となった。


 エドワード国王の死は国民だけでなく、その他の国々にも悲しみをもたらしたが、ハンス王子がそれに屈せず、凛とした態度で戴冠式に臨まれ、それを見届けていた私は嬉しく思っていた。


 そして私は、ヴァロ、ロレンツィオを消し去った事により、死神の王ペドロから特例で自由の身となった。任務という鎖に繋がれずに時を過ごせるはずだったが、私に与えられた最初の任務が消える事はない。


 これが終わるまで自由はお預け状態だったが、私は今でもヨエルを手にかける事はできなかった。任務の事は沈黙したまま、掟に触れないよう平穏な日々を過ごしていった。



 そして、時の歯車が動き始めた。



 戦争が終幕を迎えてから一八年後、春先にヨエルが病に伏してしまった。


 しかし、私は老いる事もなく、ただひたすらすっかり老いてしまった彼の側にいた。窓から柔らかい風が吹き込んでカーテンをゆらゆらと揺らし、果てしなく続く青空を舞台に雲が旅を楽しんでいた。


「アリウス、こうして床に伏すと年を取ったと感じる事ができるな」


「皆、そう言うものだ」


「お前はあの頃から全く変わらない。あの時からずっとその姿で……まるで時間が止まっているようだ」


 ヨエルは外を眺める。綺麗な茶髪は所々白くなり、瞳も若干だがくすんでいた。


「仕方ないさ、私はもう死んでいるのだから」


「そうだった」


 そんな他愛もない会話をして微笑むヨエル。私もぎこちなく微笑み返した。


 ヨエルが病を患ってから、私は朝から晩まで看病し続けた。


 彼が望む事はできる限りやってやったし、一日中、話し相手にもなった。


 調子の良い時は外へ散歩に一緒に出かけて、野花や小鳥など自然と触れ合えるように案内した。


 医者からは手の施しようがないと言われてしまい、私はそれをなんとかしようとしたのだが、ヨエルから「加担と見なされて違法者になってしまったら大変だから」と言われて手助けを拒否された。


 彼が眠っている時は痩せ細った手を握り、元気になるようにと祈り続けた。


 お守りを作ってプレゼントしたら、とても喜んでくれた。


 私ができる範囲の事は全てやり尽した。だから、治ると信じていた。


 ――だが、私達が知らないところで時は残酷にも流れ続けていた。

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