第3話 勇者来店
大歓楽街の帝王に君臨するようになってから、早数年。
敬意というか畏怖のような感情を向けられることは時々あるけれど、ボクの暮らしに大きな変化はなかった。
収入は多いが、あまり使い道も思いつかない。一人寂しく、質素と呼んでも差し支えない生活を送っている。
うーん、ネコでも飼おうかな?
でも、店舗に居る時間の方が長いから、ちゃんと世話できないかも知れない。いっそ、プレイルームに連れて行けば良いのか。ネコを抱っこして優雅に撫でながら、エロ触手を呼び出す……マフィアのボスみたいだな。うーん、どうだろうか。需要あるか、いや無いか。
日々の悩みは、まあ、そんなものだ。
さて、ある日、ボクは寝起きにカレンダーを見て、違和感を覚えた。
しばらく考えて、今日が誕生日であったことに気付く。二十歳である。おめでとう、晴れて名実共に、薄汚れた大人の仲間入り。祝ってくれる友人なんて一人もいないので、うっかりもうしばらく十代の気分のまま過ごす所だった。
仕事帰りに、ケーキでも買ってみるか。いや、虚しくなるだけだ。
誕生日のプレゼントなんて最後に貰ったのは、いつになるだろうか。数年振りに、故郷のことを思い出す。家族には村を出てから一度も会ってないし、今後も二度と顔を合わせることは無いだろう。
ボクは独りぼっちだ。まあ、それが気楽で良いと思えるぐらいに、現在の生き方に慣れてしまった。
誕生日だからと云って、特別なことは何も期待していなかった。
しかし、出勤してみると、神様がサプライズプレゼントを用意していた。
「あ、あの……。すみません、こんな感じの店は初めてで……」
お店で用意している建前だけの紙の下着を身に着けて、初心な様子でベッドに横になっているのは、ボクと同年代の少女だった。
王国が事あるごとに喧伝しているので、世の中に興味を持てないボクでも知っている。街中にベタベタ貼られているポスター、新聞で一面を飾っていることも多い。
ある時は夜中のラーメン屋で、ボクが仕事終わりの疲労感でぐったり休憩していると、魔術通信のニュースでインタビューされている様子をたまたま目にした。
ボクとは違う少女。
否、誰とも違う少女。
世界を救うという唯一無二の人生を歩む者は、やっぱり若くしても、大人以上にしっかりしているのだと思った。それこそ、小説の中の登場人物みたいな人間だと思っていた。
フィクションの中から飛び出して来たみたいに。
彼女は、ここにいる。
当代の女勇者。
世界に一人だけのヒーロー。
「……おいで、ポチ」
この日、触手は最高記録を更新して十本コンニチハ。
◆ ◆ ◆
END
【プロローグ】
NEXT
【第1章 勇者と仲間たちとボク】
はじめまして、作者のペンギンと申します。
ここまでプロローグでした。
前書きの代わりに、ほんの少しだけ。
まずは、タイトルに『エロ触手』なんて入っているニッチな作品に目を通していただき、大変ありがとうございます。全体の八割ぐらいは、こんな調子でふざけた内容ですが、二割ぐらいは真面目なシーンもあったりします。よろしければ、この先もしばらくお付き合いいただければ嬉しいです。
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今後も、よろしくお願いいたします。それでは。
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