第17話 触手の技構成
エロ触手の『たいあたり』!
相手のスライムには、効果がないようだ……。
「……ん?」
思わず、ボクは首を傾げる。
近くの地面に置いたランプのオレンジ色に照らされながら、外套を良い感じにバサッと広げていた。果物ナイフで恰好は付かないけれど、ボクは腰を落として片手を突き出し、できるだけ華麗に構えていた。木の棒だって子供にはヒーローの剣になる。誰にも見られていないから、いいじゃない。キメキメに恰好を付けてみても、いいじゃない。
……恰好付けてからの、このオチは笑えないぞ。
「えー、嫌な予感がするけれど――ポチ、『たたきつける』!」
1ターン目の『たいあたり』について、エロ触手はボクの命令(コマンド)を忠実に実行してくれた。触手はスライムに向けてまっすぐ伸びていき、頭から突き刺さるようにぶつかっていた。『たたきつける』も文字通りである。エロ触手はグングンと伸び上がった後、鎌首をハンマーのように勢いよくスライムに叩きつける。見た目には、クリティカルヒット……らしく云うならば、きゅうしょにあたった!
相手のスライムには、効果がないようだ……。
おいおい。
予感を通り越して、ほぼ確信だ。
めちゃくちゃ焦り始めたボクは、思いつくまま、手あたり次第に命令を出して行く。
頼むぞ、エロ触手――。
まずは、『つつく』!
意表を突いて、『かみつく』!
優しく、『すいとる』!
母性を刺激しろ、『じゃれつく』!
どさくさに紛れて、『くすぐる』!
一気に行くぞ、『したでなめる』!
準備はいいか、『かたくなる』!
さあ、『あなをほる』!
えー、『しおふき』……下品でしたごめんなさい!
「はあはあ……」
死力を尽くしたボクは倒れ込みそうになる。まあ、実際はギャーギャー技名を叫んでいただけなんですが……。途中からわけがわからなくなって来て、魔物とのバトルではなく、50分30000エーンのノーマルコースのプレイ内容みたいになってしまった。
そして、結果。
相手のスライムには効果がないようだ……。
ヤバい。
これは、ヤバい。
ボクは悲鳴のように叫んだ。
「いけっ! ポチ、『10万ボルト』だ!」
残念ながら、エロ触手は「えっ?」みたいな反応でこちらを振り返るだけだった。そりゃそうだ。
ここで改めて、スキル『エロ触手』の神託内容(スキル説明文)を見ておこう。
× × × × ×
スキル名:エロ触手
スキルレベル:50
スキルポイント:368
スキルツリー:未解放
スキル効果:
あなたは「エロ触手」を召喚できる。
召喚された「エロ触手」は、あなたの選択する対象にエロいことができる。
× × × × ×
これまで意識して来なかったものの、厄介なのはおそらく「エロいことができる」という効果部分。
逆に考えるならば、「エロくないことはできない」。
……んー、さっきの一連の命令は、そこはかとなくエロいのではないかと屁理屈を云いたくなるものの、ひとつひとつ単体で見ればエロスとは無縁なので納得しておこう。とにかく、『攻撃』という目的で命令を出しても、それがエロを目的としていない以上、エロ触手の与えられるダメージは絶対に【0】なのである。
え、物理法則に反しているって?
叩きつけられたら、普通は痛いだろうって?
何をおっしゃるか、スキルってそういうものですよ。
仮に、エロ触手の先っぽにナイフを結び付けて突進させても、相手にはチクリとした痛みすら与えられないと思う。女モンクはスキル『拳聖』の効果にある「多段ジャンプ」で、空中の何もない所でもジャンプしてみせる。それに対し、どうやっているのか、何を足場にしているのか、なんて真面目に考え出すのはナンセンス。それはもう、そういうものなのだ。
この世界がそう在ることを認めているのだから、仕方ない。
だから、エロ触手も、そういうものなのだ。
スキル『エロ触手』では戦えない。
「ボクは、スライム一匹も倒せないのか……?」
人生初のバトルは、まさかの敗北――あ、いや、スライムからは攻撃されていないため、せめてドローの判定で許されるか。両者、ノーダメージでフィニッシュです。……いや、もしかして、スライムは自分が攻撃されたとも思っていないのでは? ボク、そもそも敵だと認識されていない? あれれ、ボクが一人で空回りしていただけで、バトルは始まってもいなかった?
ショックのあまり、ボクは夜の草原でぶっ倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます