第61話 奴隷少年 VS チンピラ集団(3)

 奴隷少年の放った突きは、チンピラの一人を文字通り吹き飛ばした。


 住居内から庭まで押し出された形となり、その勢いのまま地面をゴロゴロ転がっていく。倒れた仲間を追いかけて、他のチンピラたちも慌てて外に駆けて行った。


 奴隷少年はゆっくりと、追撃のために歩み出す。


「ボクらも見学させてもらいましょう」


 女船長と連れ立って、ボクは野次馬根性で後ろから付いていく。


「て、てめぇ、いきなりの攻撃……。不意打ちとは卑怯やないか」


「不意打ち? まさか、今のが? おかしいな。僕は、ゆっくり手加減して打ったつもりですよ。最初に申し上げた通り、血でも吐かれて床を汚されると困りますから……。ええ、だから改めて、ここからは本気でいくつもりです。外ならば、遠慮はいらない。ご主人様を侮辱する言葉の数々に対して、手厚い御返しを差し上げましょう。ギャーギャー騒いだ分だけ、無残に、滑稽に、枯れ果てるまで泣き喚きなさい」


 奴隷少年は、正眼の構えを取る。


 チンピラは三人いる。最初の一撃を貰った男は、なんとか立ち上がろうとしていた。奴隷少年の云った通り、鳩尾にクリティカルヒットしたように見えたが、内蔵を痛めた様子はない。派手に吹っ飛んだ割に、ダメージは少ないようだ。


 おそらく、奴隷少年は敢えてそのように打った。


 体当たりのように間合いを一気に詰めて、零距離から木剣を突き出したのは、打撃による衝撃を貫通させるためだろう。ズドンと重たい一撃は、チンピラの身体の内には衝撃を残さず、背中の側にすり抜けさせた。それゆえ、チンピラは派手に吹き飛んだ。


 うーん、達人技ですね。


「ち、畜生が……。ツラの良いヤツが、さらに格好つけるんちゃうわ。くどいっちゅうねん。胸焼けするわ! ええか、あんまり舐めとったら、顔面ボコボコにするでぇ。オレをぶっ飛ばして良い気になってたらアカン。こっちのデカいヤツは、なんとなぁ、スキル『格闘家』を持っとんねん。バチバチの戦闘系スキルで、しかもレベルは20を超えとる。今度は、そっちを逆にぶっ飛ばしたる!」


 ペラペラよく喋るチンピラは、仲間の一人を指差していた。


 確かに、そちらのチンピラは図体も大きく、腕っぷしに自信がありそうだ。


「黙っておいた方が良い」


 奴隷少年は、冷ややかに脅した。


「思わず、その舌から叩き斬りそうになる」


 さて。


 せっかく奴隷少年がキレキレに格好良いシーンなので、改めて彼の外見描写を行っておこう。これは、ボクの義務である。


 銀髪に、褐色の肌。


 涼やかな目元に、怜悧な顔立ち。


 奴隷船では奴隷全員、ユニフォームみたいにシマシマの囚人服を着せられていたけれど、奴隷少年はその時から、持ち込み私物の黒マント(フード付き)を被っていた。今は、囚人服ではなく、完全に執事をイメージしただろう丈の短いタキシードを着こなし、その上から黒マントを羽織っている。……黒マントはお気に入りなのだろうか? まあ、似合っているけれど。


 ボクや他の奴隷たちと同じく、彼も身分的には奴隷のままだ。


 もちろん、だからと云って、何かしら自由が縛られることは無い。


 本当ならば、ボクの家来みたいなポジションも辞めてくれて問題なかった。ご主人様なんて呼ばれるのは、出会った頃から一貫して、むず痒い。ボクは、自分のことを人の上に立てるような器だとは思っていない。わざわざ上下関係を作らず、できる事ならば、対等な関係で今後も末永く付き合っていければ……うーん、ただし、奴隷少年の厄介な部分をひとつ挙げるならば、なかなかガンコな所である。自分自身の考えがしっかり存在しており、それは曲げさせてくれない。


 奴隷少年を手放したくないというのは、正直、ボクの本音。


 ご主人様と奴隷という関係性を崩してくれないのは困るけれど、それを前提に、新しく会社なんて立ち上げてウダウダ次の物語をスタートさせたボクにこれからも付き合ってくれるならば、まあ、文句は云えないよね。


「さあ、泣いて詫びろ。だからと云って僕は許さない」


 ……いやいや、奴隷少年よ。


 さすがに、バッチリ決まり過ぎ。


 物事には限度がある。


 あまり、ハードルを上げないでくれませんか?


 現在はスキル『エロ触手』を封印しているボクだけど、似たような状況で主人公っぽく振る舞うことだって今後あるかも知れない。スキル『エロ触手』を全力全開で発動させながら、奴隷少年みたいに威風堂々と格好良いポーズ。きゃー、ステキ。みたいな。そして例えば、ボクはこんな風に決め顔でセリフを吐くわけだ。


「泣き喚け(性的な意味)」


 ……。


 ……あれ?


 なんか、違うぞ。


 ボクが格好つけると、意味が変わるね。


 例えば、他にも、こんな感じだろうか。



「いい加減に黙らせてやる(エロ触手を口に突っ込むぞの意味)」

 

「どこを見ている、後ろだ(お前の尻にエロ触手が迫っているぞの意味)」


「これでも喰らえ(同じく、エロ触手を口に突っ込むぞの意味)」



 よし、オーケー。


 無限に思い付きそうなので、自主規制。ここでストップ。


 ……うん。


 誰か、ボクに主人公らしさってものを教えてくれませんか?


 剣術と併せて、奴隷少年から習うべきかも知れないね。


 そんな風にバカなことを考えている間に、奴隷少年の蹂躙劇が始まった。

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