ハズレスキル『エロ触手』で人生終了……からの、勇者を快楽堕ちさせてしまいゴメンなさい。ドン底からフツーにマジメに成り上がります。

プロローグ

第1話 スキル『エロ触手』

　子供の頃、未来は３６０度、無限に広がっていると思っていた。

　背が伸びて視野が広がってみると、そんなことは無いと気づかされた。

　才能だとか資質だとか、将来に向かう道は呼び名こそ立派であるものの、ひょろひょろと頼りない小道が幾本か見つかっただけである。

　どうやら生まれ落ちた瞬間から、可能性というものはパラパラと手元から零れていくものらしい。

　少なくともボクは、裕福な貴族の出身でもなければ、美しいブロンドでもなく、天才でも武芸の達人でもなかった。何処にでもいるような、田舎で鼻水垂らしながら走り回る馬鹿なガキの一人に過ぎなかった。

　昔好きだった絵本には、「みんな なりたいと ねがったものに なれる」なんて書かれていて、オンボロな女の子が最後には、キラキラしたお姫様に変身していた。世界はそういう風にできているのかと、子供の無邪気さで信じていた。

　残念ながら、願うだけでは何者にもなれない。

　まあ、物語みたいに甘くは無い。

　それが現実である。

　さて。

　とはいえ、ボクのような平々凡々な子供にだって、人生を一発逆転させる切り札は用意されている。この国では十五歳になると教会で神託を授かり、スキルをひとつ獲得できるのだ。

　スキルは、人生を大きく左右する。

　例えば、もし『鍛冶』スキルを得た場合には、どう足掻いたところで鍛冶師を目指すことになるだろう。『木こり』スキルや『狩人』スキルだって、その通りに生きるのが普通である。

　一方で、レアスキルを手にすれば特権階級の仲間入りである。

　幸せな未来へのチケット。神様から与えられるスキルを、そんな風に無邪気に信じていた頃は、やっぱり幸せだった。可能性が乏しい人間に、もう一度、道を与えてくれるもの……ボクはそんな風に思っていたけれど、実際は真逆なのだ。

　十五歳になった子供たちに降ってくる、神様からの祝福。

　それはある意味、無慈悲なギロチンでもある。　

　たったひとつの可能性だけを残して、それ以外の道はバッサリ断たれてしまうからだ。スキルが、ボクらの人生を最終的にひとつのものに決定する。残酷なことに、スキルは自分の意思で選ぶことができない。

　神託の日。

　運命の日。

　ボクは、期待と興奮に鼻血でも出しそうな勢いで、スキルを手にする瞬間を待ち望んでいた。

　同じく十五歳になった村の仲間たちと、「ほら、小遣いを全部賭けようぜ。一番良いスキルを手に入れたヤツが勝ちな！」「大したことないスキルのヤツは橋から川に飛び込むこと」「ハズレスキルはハダカで踊る罰ゲーム」「ハズレスキルなんて出るわけないよ、ありえない！」などとバカ騒ぎ。

　みんな同じようなことを考えるものだ。

　もしも『勇者』スキルなんて引き当てたらどうしようか、なんて。

　いきなり世界を救うヒーローを任せられて、上手くやれるだろうか……。恐ろしい魔物と戦うのは怖くないのか……。いやいや、さすがに『勇者』はあり得ないだろう。世界に一人だけのスキルが当たるはずがないよ……などと自重した後でも、レアスキルでチヤホヤされる妄想は止まらず、みんなニヤニヤ笑ってばかりだった。

　とはいえ、ほとんどの若者にとって、幸せな心配は杞憂に終わる。

　滅多にお目にかかれないからこそのレアスキル。一人の幸運は、その他の有象無象の不運で成り立っている。子供はみんな、世界のそうした悲劇的な仕組みを想像することもなく、唯一無二の何者かになってみせると傲慢だ。

　だから、ポンッと自分に手渡された平凡なスキルの中身を知った時、否応なく、無邪気な子供時代は終わりに向かう。

　ボクの子供時代もやっぱりそこで終了した。

　まあ、笑ってくれれば良いさ。

　別の意味合いでも、ボクは子供でいられなくなったのだから。

　スキルの名は、『エロ触手』。

「……え、なにこれ？」

　十五歳になったばかりの子供だったボク。

　突如として、十八歳未満お断りのスキルを手に入れてしまった。