第33話 全校集会。

 

 結局、俺と姫乃の間に何かあっのではという噂は、その日のうちに全校に知れ渡った。


 それと、櫛田の召集が重なったものだから、まさかの交際発表か? と、体育館に集められたヤンキーたちは皆殺気立っている。


 正直、そおっとしておいた方がよさそうだ。が、薫くんはやる気満々なので、リーダーの決断を尊重することにしたのだった。


 集会は、体育館で行われた。姫乃は皆からの刺さるような視線の前で、堂々とこう宣言した。


「早速だが、オレはあるチームに入ることになった!」


 体育館に動揺が走る。当然だ。

 一匹銀狼と呼ばれ、Sランクヤンキーでありながら群れをなそうとしなかった姫乃がチームに入るとなれば、横浜のヤンキー勢力図は大きく変わるに違いない。


「そのチームの総長と副総長に、これから登壇してもらう!」


 続く言葉に、ざわめきは強まった。もちろんこの急展開への戸惑いもあるだろうが、そのチームの総長と副総長がこれから登壇する、と言うことは、つまりは姫乃はそのどちらでもないと言うことだ。


 姫乃が誰かの下に着く。つまり、姫乃が番をやっている豊塚も、実質そいつの下につくのと一緒だ。


 体育館の空気が一気に張り詰める。舞台袖でその様子を俺と一緒に見ていた薫くんが、緊張でガチガチになっている。


「ほら、薫くん、行きなよ」


 その背中を押してやると、薫くんは緊張のあまり、両手と両足が同時に出る歩き方で壇上に出た。え、何それすごい。後で教えてもらおう。


 薫くんの後に俺も続く。体育館は、しんと静まり返った。


「おら、薫、挨拶しろよ」


「ひゃ、ひゃいっ! この度、設立しました【ピース・ピース・ピース】の総長、柏木薫でぇす!」


「あ、薫くん、発音が全部同じだよ?」


「あっ、ごめん!! も、もう一回入場からやり直すね!!」


 俺たちは二人して舞台袖まで戻り、両手と両足を同時に出しながら戻った。よく考えたらただ前にジャンプしてるだけだなこれ。


「おい、二人とも、発音とかどうでもいいから、話を続けるぞ! 先ほども言った通り、オレは薫のチームに入ることになった! つまり、豊高の番も薫に継いでもらうのが順当だと思ってる」


 静まり返った全校生徒を見渡すと、姫乃はこう宣言した。


「そして、その薫からテメェらに命令だ! 明日から女装組は女装をやめること! そして、校内での暴力を禁止する! テメェら、分かったか!!」


 最初のうちは、引き続きの静寂。次第に姫乃のそれは、重苦しい沈黙に変わっていく。


 姫乃のカリスマ性を待ってしても、特に後者の提案を受け入れることはできないようだ。ここで薫くんがビシッと決めてくれたらいいのだが、


「質問があります!!!」


 すると、その静寂を切り裂いたのは、一人の女装組の男子だった。

 彼は、分厚いメガネを光らせてこう問うた。


「櫛田さんと、柏木ユーリくんが付き合っているという噂がありますが、これは本当ですか!?」


 すると、つい先ほどまでの堂々たる態度はどこへやら、姫乃は顔を真っ赤にして、モジモジし始める。


「つ、つ、付き合ってるなんて、そ、そんな、気の早いことを言うな!!」


「つまり、櫛田さんは、まだ処女ということでよろしいか!!!」 


 続けて、メガネをビカビカ光らせて、彼はこんなことを言った。

 もはやセクハラでしかない発言に、皆が息を呑む。

 

 しかし姫乃は、そのメガネの彼を殴るどころか、「……………………」と、顔からぷしゅーと音を立てて黙り込んでしまう。


 その反応を見た姫乃ファンの悲鳴が、体育館にこだました。


「その沈黙は、肯定ととってよろしいですね!!!」


「姉さん、嘘ですよね!? そんな漢らしさのかけらもない男に初めてを捧げるなんて!」


「あ、あぁ!? 何言ってんだ!! ユーリはなぁ、脱いだら凄いんだよ!!」


「ぬっ、脱いだら!!! ハレンチです!!!」


 このままでは暴動が起きかねない騒ぎにどうしたものかと頭を悩ませていると、混乱の体育館の中で、意思が統一された動きを見せた一団があった。


 渡部率いるリーゼント軍団だ。


 彼はニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべながら、俺たちの立つ壇上に上がってくる。


 当然、それを許す姫乃ではない。


「おい、渡部、今は集会の最中だ。何勝手に動いてんだよ」


 姫乃に凄まれた渡部は顔を青くしたが、すぐに強がった笑みを浮かべる。


「こんな集会、馬鹿馬鹿しくってな。ぶっ壊してやろうと思ってよ」


 随分と強気な態度に、姫乃の殺気が増す。しかし、殴ったりしないのは、薫くんとの約束を守っているのだろう。


「はっ、他の男のものになったお前なんて誰も興味がねぇんだよ!! その乳を使ってそのかわい子ちゃんの可愛いモノでも可愛がってやったらいいんじゃねえのか!!」


「馬鹿にしないで! おじさんのおちんちんはエイリアンくらいグロくておっきいんだよ!!」


「いや、薫くん、それは今いいからさ」


 なんで全校生徒にそんなこと知られないといけないんだ。

 ここらあたりのレンタルDVDショップから『エイリアン』が消え去るぞ。レンタルDVDショップ自体が今や消え去ってるか。なんだよネットフリッ○スって。最高すぎるだろ。


「櫛田、男に籠絡されて暴力を禁止するようなテメェは、もう豊塚の番長でもなんでもねぇってことだ!! いや、それどころか、豊高の敵だと言っても過言じゃねえ!!」


「……んだと、コラ。その喧嘩、今から買ってやってもいいんだぜ?」


 流石に耐えきれなくなったのか、姫乃が一歩前に出る。しかし、渡部の強がりは消えない。


「お前の弱点は、昨日の決闘で丸わかりだ。女装雑魚五十人に囲まれた程度でヘロヘロになるようなお前が、俺率いるリーゼントたちに勝てるか?」


 あの決闘に立ち会っていたのだから、姫乃の弱点はお見通しというわけだ。


「二度とこの高校に足を踏み入れんな。そしたら許してやるよ」


 ヤンキーたちがニヤニヤ笑いながら俺たちを囲おうとするので、俺は姫乃の肩を叩いた。


「姫乃、とりあえず逃げよう」


「ありえねぇ! こんな舐めたクチ聞かれて引き下がるわけにはいかねぇよ!!」


「まぁまぁ、そういうなって。今日は帰ったらいっぱいイチャイチャする約束だったろ?」


「はっ、はい♡」


 目にハートマークを浮かべた姫乃に、体育館は再び悲鳴に包まれたのだった。


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