異世界で魔王を倒した俺、平穏を求め元の世界に帰ったら、地元がヤンキーだらけで治安最悪になってました〜ゴブリンより弱いくせに喧嘩っ早いやつらばかりなので、実力を隠すのも一苦労です〜
第4話 三十年ぶりの高校生活は波乱の幕開け。
第4話 三十年ぶりの高校生活は波乱の幕開け。
俺の戸籍と、追加でお願いした編入手続きは、女神によって迅速に済まされた。
おかげで、元の世界に戻ってからたったの二日目。
俺は留学生として、薫…くんの学校に入学することになったのだった。
こちらの世界にも、女神古賀以外の神がいるので、本当は彼女に頼るのはよろしくないし、ひとまず人が神を使いっ走りにするのなんて本来あり得ない。
これからは、自分の力で生きていかなくてはならないだろう。
当然、薫くんとの仲直りだって、自分でやらなくちゃいけないわけだ。
「なぁ、薫くん、そろそろ機嫌を直してくれよ」
「…………」
薫くんはむすっとした顔でご飯をかきこむと、「ごちそうさまっ」と言って、スカートをはためかせながら居間を出て行った。
「ちょっと! 食器洗ってけ!」という響子の言葉も無視だ。
俺は深々とため息をつきながら、納豆をかき混ぜご飯にかける。くっさぁ♡。
どうやら薫くんは、男の子でありながら女の子に勘違いされていたことに怒っているらしい。
しかし、顔は女の子で、格好もセーラー服だったし、あれで男の子って気付けるほうがおかしいと思うんだけどな。
大体、女の子の格好をしてるってことは、つまりは気持ちは女の子ってことじゃないのか?
それならむしろ嬉しいはずでは……まさか。
俺は響子の方を見る。すると響子もこちらを見たので、慌てて視線を逸らした。
「ねぇ、お兄ちゃんも早く学校行ったほうがいいんじゃない? ちょっと遅い時間でいいって言っても、ホームルームの時には学校にいなくちゃなんでしょ?」
「え? ああ、やっぱり行っとくよ。あんまり後回しにすると怒られそうだし」
俺は、居間から襖一枚先の和室にある、おばあちゃんの仏壇に視線を送る。
両親から俺たち兄妹を引き取り、一人で育て上げてくれたおばあちゃんは、五年前に亡くなったらしい。
つまり、後五年早く魔王を討伐できていたら、死目に会えていたわけだ……その事実に動揺していない自分に、少し動揺してしまう。
おばあちゃんとはあまり仲が良くなかったのは事実だが、原因は完全に俺にあるので、俺の方からおばあちゃんに悪い感情は一切ない。
やはり、異世界生活によって、人の死に慣れきってしまっているのだろうな。
「髪、染めていったほうがいいかな。おばあちゃんが見たら、チャラチャラすんなって言われちゃうか」
「いやいや、それ地毛でしょ? 別にいいんじゃない? 大体、人の見た目言える立場じゃないでしょ。もう骨だけなんだから」
「はは、それでも言うよ、おばあちゃんは」
ちなみに、響子、生前、おばあちゃんはこんなことも言っていた。
お前が、中学生でありながら、同人誌なるものを書いている。
しかも内容が、女装した男同士が、まぁ、絡み合うようなアレだから心配だ、と……関係の悪い俺に相談するくらいだから、相当追い詰められてたんだろうな。
いや、性癖自体は、別にいいと思う。
ただ、その性癖が溢れ出た結果、息子を女装させるなんてこと、してないよな?
その問いかけをするには、元勇者でありながら、少し勇気が足りなかったのだった。
⁂
響子の運転でおばあちゃんのお墓まで行ってから、その流れで俺が通う学校まで送ってもらう。
地理感を思い出すためにも歩いていってもよかったんだけど、何せ普通に遅刻だ。
異世界じゃ時間を守る奴なんていなかったが、日本では通用しないだろう。
向かうのは、豊塚高校。
俺が通っていた高校だ。俺の頃は、偏差値最底辺の男子校というのもあって、ヤンキーの巣窟だった。
窓ガラスは全部割れて修繕の気配もなし、校門や校舎には下品な言葉がペイントされていた。
校門に『ア○ル』とデカデカと書いて、一人大爆笑していた松田は元気にやってるんだろうか。
「へぇ、綺麗になったもんだ」
対して、今の豊塚高校は、そんな落書きひとつなく、なんならゴミ一つ落ちていなかった。
金髪リーゼントを見た時は、この十六年間で治安が再悪化した可能性も考えたが、偏差値底辺公立校がこの様子なら、そういうわけではなさそうだ。
逆に、彼らみたいなのにとっては、随分と居心地の悪い時代になってるんだろう……。
⁂
結論、そうではなかった。
だが、そんなことはどうでもよくなるくらい、異常な光景を目の当たりにして、俺は動揺しきっていた。
「え〜、え〜っと、その、あー、柏木ユーリって言います!……あはは、はは」
俺が所属することになる二年一組は授業中だった。
先生は授業を早めに切り上げて、自己紹介の時間を作ってくれたのだが、俺は頭が真っ白になってしまった。
……なんだ、このクラス。
まず、昨日俺の腹を殴り骨折した金髪リーゼントが同じクラスいて、「あ、お前、あの時の!」みたいなリアクションをしてる。
生憎リーゼント相手にフラグを建てる予定はないので無視するとして。
まず、男子生徒……この区分は正確じゃないけど、ここは男子生徒とする。
なんと、金髪リーゼントが目立たないほど、絵に描いたようなヤンキーだらけなのだ。
髪の毛の色は、金髪はもちろん、赤、ピンク、緑、紫、銀色もいれば、そんな色が全部詰まったような髪色もいる。
小学生の頃買ってもらったクレヨン程度のバリエーションがありそうだ。
髪色だけでなく、耳、鼻、唇あたりにはピアスが光り、学生でありながらバチバチの刺青を入れているものもいる。
ファッションも、長ランや短ラン、ボンタンやピッチピチのスキニー、中には上下ジャージなど、制服などあってないような物。釘バットやらナイフやらを持っているものもいる。
十人十色のまごうことなきヤンキー供が、俺にメンチを切っていた。
そして、女生徒、と言うか、セーラー服を着ている方。
俺からすれば、このヤンキー連中よりこっちの方が異常だ。
ほとんど、男、だよな?
薫くんみたいな、完璧な女装をしている人はごくわずか。
ほとんどは、セーラー服を着ているだけのただの男。いや、ただの男ということもない。皆、顔がボコボコに腫れているのだ。
そういう時代、では、流石に説明つかないだろう。
「ユーリは、薫の親戚だそうだ。ちょうど薫の隣が空いているから、そこに座ってくれ」
「あ、は、はい」
ヤンキーたちのメンチを一身に受けながら、薫くんのもとへと急ぐ。
そして、席に着くとすぐに、薫くんの方に身を寄せ、彼に耳打ちした。
「ねぇ、薫くん。どうなってるのこれ?」
「ご、ごめん、説明忘れてた! て言うかおじさん、渡部くんと知り合いだったの!?」
「渡部? ああ、あの金髪リーゼント? 昨日たまたまね」
チラリと渡部に視線を送ったところで、渡部もこちらにガンをつけていた。
ああ、何が何だかわからないが、少なくとも想像していた平穏な学生生活は送れそうにない……。
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