第20話 美少女エルフスケバンと同居。


「うぅ……」


 薫くんが、やっとのことで目を覚ました。


「おはよう、薫くん」


 俺がそういうと、薫くんは眠気まなこを見開いて驚いた。


「なんで僕、おじさんと一緒に寝てるの?」


 俺は答える代わりに、ベッドの下で転がっているヤンキーたちを指差した。


 最初のうちは、櫛田の明らかにサイズの合っていない水着に色めきたったクラスの面々だったが、すぐにそんな場合ではないと悟ることになる。


「まずは二十五メートルをクロールで百セットだ。一回でも足突きやがったら殺す」


 体育教師が隅っこで震える中、授業の主導権を握ったのは櫛田だった。

 片手にメガホン、片手にそこらへんに転がっている木刀で、俺たちに無茶苦茶なメニューを強いたのだ。


 薫くんは早々に気絶して、デバフのかかった俺もヘロヘロで死にかけ。

 当然犠牲者は俺たちだけではなく、保健室のベッドは二人で一つを共有しても全く足りない。


 結果、女子が優先的にベッドに回され、ヤンキーたちは保健室の床に投げ捨てられている。なかなかの地獄絵図だった。

 

「やっと目を覚ましたか。どいつもこいつも軟弱だな」


 そんなヤンキーたちを容赦無く踏みながら、保健室に入ってきたのは櫛田だった。


「おい、とっとと行くぞ」


「ん? 行くって、もう放課後だけど?」


 まさか、まだメニューをこなしてないからプールに居残りなんて言い出さないよな。薫くん死んじゃうぞ。


「チッ、鈍いな。お前らの家に行くってんだよ」


「ああ、そうか。今日も食べにくるんだね」


「そうだが、それだけじゃない。今日から、お前の家に泊まり込むことになったということだ」


「……えぇ!?」


 薫くんが起き上がったかと思えば、再び白目を剥いて倒れたのだった。



        

 ⁂




「響子さん、お世話になります!!」


 我が家に到着するやいなや、響子に頭を下げる櫛田。響子はあくびを噛み殺しながらうなずいた。


「ヒメちゃんのお母さんがぜひって言ってるから別にいいけど、その代わり、もうそろそろ店開けるから、ちゃんと働くんだよ。タダ飯を食わせる余裕はうちにはないんだからね」


「…………」


 なんか、遠回しに俺のことを言われている気がして、なんとも言えない気分になる。

 「うっす! 当たり前です!」という櫛田の返答に、さらに気まずくなった。


「そうだね。部屋に空きがないから、あたしの部屋に来る?」 


「いや、それは大丈夫です。オレは、こいつの部屋で泊まります。こいつの監視、しなくちゃダメなんで」


 櫛田が俺を指差しながら言う。

 そして、まだ口も開いていない俺に「なんだ、文句あんのか?」とガンを飛ばしてくる。


「いや、まぁ、別にいいけど」


「ふん、当たり前だ。お前に一切のスキを与えないからな」


 そう言って、荷物を椅子に置くと、慣れた様子でエプロンをつける。

 その姿を見守っていると、響子が近寄ってきて、耳元でささやく。


「お兄ちゃん、薫はお兄ちゃんと違って純粋なんだから、せめてちゃんとした、人様に誇れるセ◯クスしてよ。獣みたいな声出させるのはNGだからね」


「おいおい、なに言ってんだ。俺今年で四十六だよ? JKなんか眼中にないって」


「はい、検索履歴〜」


「ああ!?」


 スマホを手に入れる前に借りていた響子のスマホに、JK物AVサンプル動画の履歴が残っていたようだ。

 俺は熟女ものの履歴も残っていることで反論を試みたが、響子は無視だ。


「それに、お兄ちゃんはそのつもりじゃなくっても、姫乃ちゃんはそのつもりかもしれないじゃん? 姫乃ちゃん、お兄ちゃんのファンなんだし」


「え? ああ、いや、薄々勘づいてはいたんだけどな」


 あのバイクにあの格好、【一匹銀狼】というあだ名など、学生時代の俺と類似する点が多すぎた。

 まぁ、だからと言って、今の俺を好きになるかといえば、全く別の話だろう。


「ともかく、抱くなら抱くでちゃんと避妊してよね」

 

 そう言ってコンドームを手渡してくる響子。

 異世界ではこんな便利なもんなかったなぁ……え、響子なんでこんなの持ってるの。お兄ちゃん怒るよ。


 開店。


 どこで聞きつけたのか、櫛田のファンにより店の前には長蛇の列ができていて、薫くんのJKウェイトレスも相変わらず好評で、ますます俺の肩身が狭くなっめしまった。


 店を閉めて遅めの夕食をとってから、各々の部屋に戻る。

 いつもは俺の部屋でゴロゴロしていく薫くんも、「それじゃあね!」と逃げるように自分の部屋に入っていった。


「えーっと、それじゃあ、どうぞ」


 俺が部屋に迎え入れると、櫛田はキョロキョロと部屋を見渡す。


「ここって、その、あれだ……元々使ってた人が、いるんじゃないのか?」


「ああ、俺のお父さんがね」


「……あぁ!?!?」


「柏木悠人、俺のお父さんなんだ」


 俺が柏木悠人であることを告げても、いいことなんて一つもない。

 当然信じてもらえないだろうし、魔法なんて見せようもんなら、櫛田に決闘の理由を与えてしまうだけだ。

 

 しかし、もう少し驚くかと思ったが、櫛田はむしろ納得したように頷いた。


「通りで、お前みたいな軟弱男と、悠人様の姿が被るわけだぜ……」


「え?」


 普通だったらスルーするところだが、櫛田ともなるとそうはいかない。


 彼女ほど魔力があれば、心眼のスキルに勝手に目覚めていてもなんらおかしくない。


 その心眼で、魂に定着した俺の前世を見ている可能性がある、というか、ほぼ確定だろう。


 櫛田本人はまだ確信には至っていないようだが、それこそ響子のように、一度確信してしまえば、俺が柏木悠人その人であるということを受け入れざるを得なくなるはずだ。


 そうすりゃすぐに仲間になってくれるかも……やってみる価値はあるな。


「それじゃ、俺はお風呂に入ってくるから」


「待て! 言っただろ、お前に自由な時間は与えない!」


「うん、だから一緒に入ろうかって言おうと思ってたところだったんだ」


 俺がそう提案すると、櫛田は鋭い目をまん丸にして驚いた。


 トイレに入った仲なのだからもう躊躇うこともないと言うのもあるが、この機会にぜひ、櫛田と素肌で触れ合っておきたい。


 肌と肌を重ね合うという行為によって、お互いの前世を知る、というのは結構あるあるだ。

 特に行為中、相手が前世でも愛し合った人だと確信することもある。


 櫛田が、俺が柏木悠人だと理解してくれたら、これ以上俺を苛立たせないでくれるだろう。

 正直、男だったらすでにボコボコにしちゃってる程度にはうっとおしいからな。


 と、櫛田がついてこないので振り返ると、櫛田は顔を真っ赤にして座り込んでいた。


「恥ずかしいならやめとく?」


 しかし、俺が挑発すると、櫛田はすぐさま「あ、あぁ!? ふざけんな!!」と飛び上がって俺をすごむので、すかさずその手を握った。


「あっ!?!? ああ!?!?!?」


 じっと櫛田を見つめるが、櫛田は顔を赤くするだけ。

 この程度の触れ合いではダメなようだ。ならばいっそ、抱いてやるのも手かもしれない。


 もちろん俺の正体をわかってもらうために仕方なくやることで、決して勇者時代は毎日のように女を抱いていたから、そろそろこっちでも女が欲しい、なんてゲスな理由ではないのだ。


「それじゃあ行こうか」


 俺が櫛田の手を引くと、櫛田はおとなしくついてくる……せめて、薫くんが寝静まってからだなぁ。


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