第35話 スケバンと一緒にお店を開く。


 法務局で「未成年者登記簿」を取得し、開業届を出してから、商店街の空き店舗を借りるため不動産に行った。

 結果、姫乃がSランクヤンキーというのもあり、あっさりとカシワ食堂の隣の空き店舗を借りることができたのだった。


 カフェの居抜き店舗だったようで、前の所有者が残してくれた設備がそのまま残されていて、後少しの準備で開店できそうだったのも非常に都合が良かった。


 俺と姫乃、そしてなんだかんだ参加を表明した薫くんの三人で、店舗の掃除をしてから、ダイニングバーに二人を座らせる。


「それで、悠人様、一体どんなお店にするつもりなんですか?」


「あ、それ気になってた。うちはそれなりに繁盛してるとは言え、ここでお店って相当難しいと思うよ?」


 二人の質問に、俺はパンと手を打つ。


「ああ、よくぞ聞いてくれた!! 実は、薫くんと響子が寝静まった後、こっそり台所で試作品を作っていたんだ!! 俺にしてはすごくうまくいったんだよ!!」


 俺はこれからの展望にワクワクしながら、家からもってきたタッパーから例のブツを二人に差し出し見せた。


「これって……お肉?」


「ああ、そうだよ! これは、俺が異世界でよく食べていた干し肉の塩漬けなんだ! ほら、どうぞどうぞ!!」


 俺はカシワ食堂からパクってきた皿に干し肉を盛り付けて、二人の前に置く。

 二人はなんとも言えない表情で干し肉を見つめてから、恐る恐ると言った様子で手を伸ばした。


 まずは姫乃がパクリと干し肉を口にする。


「……すっ、すごく美味しいです!」


 口ではそういうが、顔はまるで酸っぱい梅干しを食べた時のようにキュッとしている。続けて薫くんがぱくつき、やはり顔を顰めた。


「そ、その、なんていうか、結構辛いね……」


「そうなんだよ! こんなの三日も食べたら病気になっちゃうよね! で、これが、よく飲んでたスープなんだけど」


 続いて取り出したスープを、二人は口に含む。


「すっ、すごく美味しいです!」


「こ、これは……その、逆に味がしないと言うか」


「やったぁ!!!」


 俺は渾身のできに、思わずガッツポーズをしてしまう。二人がもの不思議そうに俺を見るので、俺は喜びを分かち合うため説明した。


「まさしく俺が異世界転生をしたときに覚えた感想だからね! つまり、異世界の味を完全再現できたってことだ!」


 全く、響子の奴、これで俺が料理の才能ないとか言い出すんだから見る目ないよな。


「名付けて、異世界喫茶! 異世界の味が安価で味わえる喫茶店となったら、きっと県外からもバンバンお客さんがやってくるに違いないよ!」


 二人は再び顔を見合わせる。笑みはなく、チラチラとこちらを見ては、どうする? と言いたげな視線を交わしてから、意を決したように薫くんが俺に向き直る。


「おじさん、多分だけど、これ、流行んないと思うよ?」


「……え?」


 あまりに意外すぎる言葉に、俺はポカンと口を開けてしまった。薫くんは肩をすくめる。


「それこそ、異世界系アニメとコラボして、とかだったらまだ許されるかもしれないけどさぁ。単純に味が悪い飲食店なんか基本流行んないよ」


「……む」


「それに、みんなはおじさんが異世界から帰ってきたことを知らないし、言ったところで信じてもらえないからねぇ。まだ中世ヨーロッパ喫茶にした方が良さそうだけど……ここがずいぶん現代風の店舗だからね。中世風に改築するとしたら相当お金かかっちゃうし、そもそも需要があんまりないと思うしねぇ」


「……やれやれ。後継がこれじゃ、カシワ食堂の将来も不安だね」


 俺が大袈裟に肩をすくめると、薫くんはむっと顔を顰める。いつもなら謝るところだが、あまり甘やかしてばかりでは彼が成長しないだろう。


「いいかい、薫くん。ビジネスってのはね、リスクを犯さないと大きな成功ってのは掴めないんだ。すでに飲食業界はレッドオーシャン、その中で成功を掴むには、誰もやったことのないことをやるべきなんだよ」


「誰もやってないじゃなくて、誰でも思いつくけど成功しないのが目に見えてるからやらない、だと思うんだけど……おじさん、最近スマホでようつべばっか見てるけど、もしかして変なビジネス系ようつびゃー見てないよね?」


「はぁ!? 別にホリ○モンはようつびゃーじゃないし!」


「ああもう、だからおじさんにはスマホとか与えない方がいいってお母さんに言ったのに!」


 まるで物を知らない小学生男子かのような扱いに、流石に俺も腹が立ってしまう。 


 俺は薫くんの皿を片付けて、ふんと鼻を鳴らした。


「そんなこと言うなら、別に協力してもらう必要はないよ。リスクを犯せない人に足を引っ張られてもなんだしね」


「な、何その言い方! 僕はおじさんのこと心配して言ってるんだよ!」


「その心配が足を引っ張ることもあるってことだよ」


「……もう知らない! 勝手にすれば!!」


 薫くんは、ダンと机を叩きつけると、怒肩で店から出ていったのだった。


 ……ふん。俺の店が繁盛してから仲間に加えて欲しいって言っても遅いんだからな!


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