第34話 寂れた商店街を盛り上げよう!


 交通違反丸出しの三人乗りで逃げるように家に帰った後、とりあえず姫乃の機嫌を治すために部屋で存分にイチャイチャしてから居間に降りると、薫くんは未だに机に突っ伏してぐすぐす泣いていた。


 隣で薫くんの背中を撫でていた響子が、「甥をほったらかして何してんの」とジト目で見てくるので、慌てて薫くんの肩をポンポン叩く。


「薫くん、そんなに気にすることないよ。もし薫くんが望むなら、俺と姫乃であいつら全員ボコってもいいしね」


 顔を突っ伏したまま、ふるふる首を振る薫くん。

 そして、涙目の上目遣いを俺に向ける。


「でも、どうしよう、このままじゃ僕たち、中卒になっちゃうよぉ……」


「えぇ? んなことないだろ。他の高校に転校しちゃえばいいじゃん」


「無理無理! そんなことしたら豊高のヤンキーたちを敵に回すことになるから、誰も僕たちのと受け入れてくれないよぉ」


「なるほどね……まぁまぁ、そうやって悩んでても仕方ないし、時間が出来たってプラスに考えればいいよ。俺もちょっと、やりたいことあったしね」


「もし、私にお手伝いできることがあれば、手伝わせていただきます!」


 すっかり機嫌の治った姫乃が、俺の腕にひしと抱きついて言う。


「お、それは助かるなぁ。ほら、この商店街、随分と寂れちゃっただろ? なんとか盛り上げたいと思っててさ。でも、響子はこの店の経営に俺を関わらせてくれないし」


「当たり前でしょ! なんでお兄ちゃんが帰ってきて家族一緒になれたのに、早速一家心中しなくちゃいけないのよ!」


 なんとも失礼なことを言う響子。こうなってくると、一刻も早く見返してやりたい。


「そこで、俺は俺で、この商店街に店を開こうと思ってるんだよ。俺の店が評判になって客が集まれば、貢献できると思ってね」


「絶対にやめといたほうがいいって。絶対閑古鳥が輪唱始めるから」


 俺は響子を完全無視して、話を続ける。


「問題なのは、お店を開く資金がないってことなんだけど……響子、貸してくれないかな?」


「絶対に嫌。お兄ちゃんから借りパクされたヤンキーたちの泣き顔を何度も見てきたからね」


「うっ」


 やっぱり、過去の行いっていつまでもついて回るんだなぁ。昨日も部屋掃除してたら「近藤」って書かれたゲームカセット見たかったし。問題なのは「近藤」ってやつにひとつも覚えがないところなんだよな。


「悠人様、もし良ければ、私が払いましょうか?」


 すると、姫乃が胸を押し付けながらこう言ってくる。


「払うったって、馬鹿にならないぞ。姫乃、今いくら持ってるんだよ」


「お金、は、もってないですが、代わりになるものは持ってます!」


 そう言って、スマホを俺に見せる。例の不良者ギルドを開き、ヤンキーポイントのところを指差す。


「ヤンキーポイントは、お金としても使うことができるんです! 今のレートだと一ポイント三百円で取引されています!」


「えぇ!?」


 てことは、百万ポイントもっている姫乃は、単純計算で三億円のお金を所有しているってことか!?


 そりゃ、ヤンキーが権力を持ってしまうわけだ。あの神様、本当無茶苦茶なことをしているな。


 じゅるり、と出てくるよだれを拭う。開店資金には十分すぎる。

 俺は褒めてやるため、姫乃の頭を撫でた。そして、長い耳に口を近づけこう囁いた。


「姫乃、悪いけど、いったん貸してくれ。お店がうまく行ってからすぐに返すから」


「櫛田ちゃん、それ、絶対に返さないパターンだから気をつけた方がいいよ」


「いえ、いいんです! むしろ返ってこない方が嬉しいです! 私が苦労して稼いだポイントが、悠人様の糧になるってだけで……最高です!」


 自分の身体を抱いて、ぶるりと震える姫乃。俺は感動のあまり、ひしと姫乃に抱きついた。


「見たか響子! これこそが本当の大和撫子というものだ!! 見習えよ!!」


「それ、お願いだから家の外でそんなこと言わないでね?」


 ジト目の響子に中指を立ててから、俺は姫乃の手を引き家から飛び出したのだった。


 



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