第40話 勇者、ヤンキー相手に無双する。


「……ころ、した……?」


 いまだにドレッドの頭が潰れた音が反響する体育館で、ヤンキーの一人がポツリと呟いた。


 どうやら目の前で人が死んだのは初めてのことらしい。出来の悪いドッキリにかけられたようなリアクションだ。


 仕方がないので、俺はドレッドの死体を蹴り上げて、ドクロマスクのほうに歩み寄る。


「ほら、どうした、いとしの姫乃様を汚した本人がいるんだぜ? とっととかっかってこいよ?」


「……う、うああああああああああ!?!?!?!?」


 ドクロマスクが俺目掛けて突進してくるので、その丸出しの腹を殴りつけると、拳は腹を貫通。ドクロマスクが真っ赤に染まるくらいの多量の血を吐き出した。


 やっと現実が見え始めたのか、ヤンキーたちの顔が恐怖に歪み始める。


 ここは、ご期待にお応えして、質の悪いスプラッタホラーをお届けしよう。


「……ふふ、ふふふ、はははっ!」


 俺はなるべく狂気的に笑ってから、こう宣言した。


「殺してやる」


 分かりやすすぎたのか、どうも反応が悪い。


「お前らみたいな低脳クソ猿どもが、この俺にたてつくってことがどう言うことか教えてやらねぇといけないからなぁ!!!! ぶっ殺してやるっつてんだよ!!!」


「……うわああああああああああ!!!!!」


 やっと現実を受け入れたようで、ヤンキーたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「何ももたもたしてんだぁ!!! 退け!!!!」


 扉にたどり着いたヤンキーが外に出ようとして、俺が事前に張っておいた結界魔法によって弾かれる。


「よっと」


 そいつに魔力の玉をぶつけて、頭を爆発四散させてやると、男も女も女々しい悲鳴をあげて、体育館の隅々に散らばっていく。


 まとめて殺してもよかったが、どうせ殺しちゃったのだから、せっかくなら楽しみたい。

 

 と言っても、まだ何が何だか分かっていない薫くんが我に返ったとき、止められては面倒だから、あくまで手早くだ。


 ということで、俺は悲鳴をあげるヤンキー供を一人一人目に止まらぬ速さで忙殺していった。

 二百人のヤンキーたちは一分もしないうちにみな粉々になり、体育館は血の海に染まったのだった。


「ふぅ!」


 そして体育館にいたヤンキーたちを全て殺し終えた後、呆然としている姫乃を置いて、壇上で恐怖のあまりしょんべんを漏らしている渡部の方に歩み寄る。


「……ひっ、ひっ」

 

 渡部は必死に奥に逃げようとするので、その脚を掴んで折ってやる。  


「あぎゃあああああ!!!!」


「辞めて!!!!!!!」


 悲痛な叫び。


 薫くんは、ガチガチと歯を鳴らしながら、俺と渡部の間に割って入る。まるで人間を見る目じゃない。


「おじさん、おじさん、嘘、嘘だよね、殺しちゃうなんて……」


 俺はかがみ込んで、薫くんの肩をポンと叩いた。


「大丈夫だよ。安心して、薫くん。俺には魔法があるんだよ」


「……いきかえ、るの?」


「うーん、いや、生き返るって言うのは、正確ではないかな」


 俺はポケットからスマホを取り出す。ちょうどいい時間になってきたな。


 きゅるきゅるきゅる。


 そんな音を立てて、体育館に飛び散った血と肉塊が蠢き始める。そんな地獄のような光景に、薫くんが声にならない悲鳴をあげる。


「今、この体育館の時間を巻き戻しているんだ。元から設定した範囲内、時間内に限定されるんだけどね。ここは範囲外だ」


 それでもかなり魔力を使ってしまう大技だ。

 わざわざここまでしたのは、植え付けたりなかった恐怖を、渡部にちゃんと与えるためだ。


 俺は足の痛みも忘れて愕然としている渡部にこう言った。


「わかったか? 俺は、お前みたいな一介のヤンキーが喧嘩を売っていいような存在じゃないんだよ……次は、本気で殺す」


 ガクガクと頷く渡部。うん、これで一件落着だ!


「ほら、薫くん、時間が完全に巻戻る前にここから出よう! 渡部は姫乃がやったってことにしとけばいいからさ」


 俺は、薫くんに手を差し出して、その手が血塗れなのに気がついた。手を拭こうとする前に、薫くんは俺の手首をひしと掴んだ。


「あ、薫くん、血がついてしまうよ?」


「……なんで」


「ん?」


「なんでそんな、普通に顔をしてるの!?!?」


 薫くんがヒステリックに叫ぶので、俺は深々とため息をついた。


「薫くん、説明しただろう? 彼らはこれから元どおりになる。もちろん彼らの時間そのものが巻き戻っているから、殺されたことすら覚えちゃいないよ」


「そんなの関係ない!!!!!」


 薫くんは青ざめた顔で叫んだ。


「人を殺すなんて……ダメだよ!! 例え生き返るとしても、やっちゃダメなことなの!!! なんでわからないの!!」


「……そっか」


 それなら俺は、随分と前に最低な人間になってしまっていたようだ。そして、真っ当な人間に戻ることはできないだろう。

 薫くんには言っていなかったが、何も魔王の味方は魔物だけでなかったんだから。


「異常だよ、異常!!! なんで、なんでこんな人を今まで信用していたんだ!! もう、最悪だよ!!!」


「確かにねぇ……でも、信用して、主従関係を結んじゃったのは薫くんだろう? 生き物を飼ったからには、たとえそれがどれだけ凶暴な生き物だとわかっても、最後まで責任を持って飼うべきだ。違うかい?」


「……っっっ」


 恐怖と嫌悪感を見せる薫くん。

 やはり、今までのご主人様とは反応が違う。彼に仕えたのは正解だったな、と思わずにはいられなかった。


 俺は、薫くんの肩に手を置いた。ベッタリと血が付くが、薫くんは気にする余裕もないようだ。


「一刻も早く、平和な地元を取り戻さないとね。俺のためにも、薫くんのためにも……」


 薫くんはしばらく黙り込んでから、ポツリと呟いた。


「おじさん、渡部くんを治して」


「えぇ? せっかく折ったのに?」


「いいからなおして!!」


「……はいはい」


 まだ巻き戻しが完了するまで時間がある。俺は渡部に回復魔法をかけてやると、脚の骨折が治った。


 痛みがまだ残るのか、ジタバタ暴れる渡部の肩を抑えて、薫くんはこう言った。


「渡部くん、今から生き返ったみんなの前で、僕のことを番長に任命して」


「……あ、あぁ!? 何言ってんだテメェ!」


「僕は、一刻も早く、この街からヤンキーを撲滅しないといけないんだ……もう悠長なことはしていられない。僕がこの学校を反ヤンキー集団にして、他のヤンキー集団を潰さなくちゃいけないんだ……多少の暴力を使ってでも」


「……薫くん」


 まさか、あの薫くんが、自ら番長になるなんて言い出すなんて……。

 甥の成長に涙しそうになっていると、渡部の馬鹿が水を差す。


「……バ、バカかよ!? だれが納得するんだそんなの!! お前みたいな雑魚が番長ってのもありえねぇし、この街のヤンキーども全員を敵に回すってのもありえねぇ!! できるわけがねぇ!」


「あ、そう。それじゃあ、もう一度おじさんに足を折ってもらおうかな」


「は、はぁ!? 何言ってんだてめぇ!!!」


「僕は本気、だよ」


「…………っ」


 薫くんの言葉には、今までにはない凄みがあって、渡部を恐れさせるには十分だった。


 そして、渡部は、薫くんの言うことを聞いて、番長の座を時の戻った生徒たちに告げた。


 渡部の予想通り、反対多数。


「おじさん、お願い……殺さない程度にね」


 と言うことで、俺はドレッドを半殺しにした。その後投票を取ると、賛成多数。薫くんは豊高の番長なった。


 そして俺たちは豊塚高校の面々は、ヤンキーたちと徹底抗戦に移ることになるのだった……。


「……僕が、絶対おじさんを真人間にするからね」


「……ああ、期待してるよ」


 END。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界で魔王を倒した俺、平穏を求め元の世界に帰ったら、地元がヤンキーだらけで治安最悪になってました〜ゴブリンより弱いくせに喧嘩っ早いやつらばかりなので、実力を隠すのも一苦労です〜 蓮池タロウ @hasu_iketarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画