第23話 決起集会。
「オラ、とっととパシリいってこい!」
「気合がたんねぇんだよ! ヤキ入れてやる!」
櫛田が二年一組に越してきてからというもの、櫛田にいいところを見せたいのか、ヤンキーたちのイビリはより激しいものになっていった。
しかし、俺と薫くんに対しては明らかに口だけ、実際に手を出してくるヤンキーは一人たりともいなかった。
そこは、俺の可愛さ……と言うより、常にあの巨乳が触れるくらいに俺にピッタリくっついている櫛田のおかげだ。
俺に向けられるのは、櫛田にここまで目をつけられてしまったことへの同情と、羨望の視線。
反比例して俺の可愛さへの注目度は低くなってしまい、正直不満だ。
それはさておき、ヤンキーたちからの過剰な抑圧は、むしろ、革命への準備を整えてくれたと言ってもいいだろう。
「あ、あの〜、もしよかったら、連絡先交換しませんか?」
鍛えれば渡部以上に強くなりそうな男子を十五人、そこまで行かなくても戦力になりそうな男子三十三人を絞り込み、俺は櫛田に監視されているので、薫くんに連絡先を交換してもらう。
そして、毎日のようにメッセージを送り合う。
内容は、女装組として受けてきた酷い扱いに対する愚痴がほとんど。
そして、そんな状況に自分たちを追い込んだヤンキーたちに対する悪口で盛り上がったあと、このヤンキー社会に立ち向かうための反ヤンキー団体を作ろうと思っていて、是非とも入ってほしいと提案するのだ。
薫くんは驚いていたが、女装組男子は皆、その申し出を受け入れた。
やはり、一番の要因は、ヤンキーたちに対する憎悪だろう。迫害を受け続けた人間というのは、なんともコントロールしやすいものなのだ。
加入に合意した男たちには、毎日やってほしい筋トレメニューを送る。
そして、毎日筋肉の写真を送らせて、その度に、『すごい、かっこいい〜』と薫くんが褒めてやると、必死に筋トレに励んだと言う。
俺は俺で、櫛田の監視の中、できることをやった。
筋肉痛に苦しむ団員たちに、学校ですれ違いざま、櫛田に目をつけられない程度に、軽くボディタッチをする。
俺の手を通して伝わった魔力は、彼らの身体のうちで回復魔法を展開する。
傷ついた筋肉は、急速に回復することによって肥大化。二週間もすれば、四十八人の筋肉質集団が出来上がったのだった。
「ついにきたね。この時が」
そしてある日、薫くんはそう呟くと、その週の土曜に、四十八人全員に召集をかけた。
俺もなんとか来て欲しいと言うことだったので、櫛田を俺から離せないかと響子に頼んでおいた。
響子は親の伝説で一つ思い出したことがあるから、二人で話したいと櫛田に言ったところ、あっさりと俺の監視は解かれたのだった。
久々の自由な時間は嬉しい。しかし、ヤンキーたちに目をつけられないよう秘密裏に動いているのだから、集まるのはリスクでしかない。
ラインのグループで伝えたらいいと思うんだけど、まぁ、トップの言うことは絶対だ。
そして俺たちは、例の渡部をボコボコにした廃倉庫に集まることになったのだった。
ちなみにあれ以来渡部は学校に来ていない。ていうか完全に存在忘れてた。
「み、みんな、集まってくれてありがとう!」
皆から注目が集まり、緊張からか上擦った声の薫くん。
セーラー服姿も相まってトップとしての風格は全くといっていいほどないけど、今後身についてくるだろう。
しかし、一体全体、何を話すつもりだろうか。後のお楽しみと、結局俺も教えてもらっていないのだが。
薫くんは、こほんと咳払いをして続けた。
「今日、集まってもらったのは他でもない。僕たちのグループの、名前をつけるべきだと思うんだ!」
「へ?」
まさか、そんなことのために? と聞こうと思ったが、薫くんが目に見えてワクワクしているので、突っ込むに突っ込めない。
「僕はヤンキーたちと違って民主主義で行きたいと思ってる……ただ、ただだよ? 一応、僕がグループ名の候補をいくつか考えてみたから、もしよかったら見てもらってもいいかな?」
そして、薫くんはどこから持ってきたのか、充電式のプロジェクターのスイッチを押すと、倉庫の壁にこんな言葉たちが映し出された。
『
『ピース・peace•piece』
『ヤンキー嫌いな俺たちが強すぎて、ヤンキーたちがビビって世界が平和になったんだが?』
「う、ぉぉ……」
思わず、噛み潰された苦虫のような悲鳴を上げてしまう。
幸運にも? 薫くんには聞かれなかったようで、彼は自慢げに胸を張った。
「もし、皆から提案がないなら…ないっぽいね。それじゃあ、グループ名はここから投票で選ぼっか! 自分がいいと思うものに手を挙げてね!」
視線が俺に集まる。
俺の方から言えってことのようだが、流石に愛しの甥っ子のセンスにケチをつけるのは勇者でも難しい。そこで、話題を逸らすことにした。
「薫くん、グループ名も当然必要だとは思うんだけど、それよりも先に、幹部を決めたほうがいいんじゃない?」
「幹部!!!」
なぜか異様にテンションが上がる薫くん。幹部って響きがかっこいいとでも思っているのだろうか?
……っと。
「いや、やっぱりそれも、メッセで決めた方が良さそうだね」
「えぇ!? なんで!? せっかく闇の組織みたいでテンション上がってるのに!!」
「その闇が白日に晒されそうになっているからね」
……ぶぅぅぅぅうん。
すると、聞き覚えのある排気音が轟き、皆を震え上がらせた。
「く、櫛田さんだ。ど、どうしよう、おじさん!?」
「そんなに焦ることはないよ。ただ仲のいい友達グループで集まって遊んでるだけだって言えばいいじゃない」
「いやいや、こんな人数で廃倉庫で遊ぶなんて普通ありえないよ!! おじさん、友達とかいなかったの!? ぼっち!?」
「………………」
「あ、ごめんっ。その、僕も友達少ないし、今はこんないっぱい友達いるんだから気にしないで!」
「いや、別に気にしてないよ。俺の時代なんかはぼっちなんて言葉なくて、一匹狼なんて言われて、むしろかっこいいものとして扱われてたからね。ていうか、群れることでしか自分の価値を証明できないような人間ってダサいよね」
俺がいかに群れるだけしか能のない暴走族やカラーギャングどもをバッタバッタ倒してきたかを語ってやろうかと思ったが、バイクの音はすぐそこまで迫ってきているのでそうもいかない。
確かに、ここまで迷いなく進んできているのなら、間違いなく内通者がいるのだから、そんな誤魔化しは無駄か。
バイクの排気音がすぐそこまで迫る。そろそろ止まるはずだが、むしろ勢いを増しているのはどう言うことだろう。
所々破れているガラス窓から外を覗くと、こちらに爆速で向かってくる櫛田止めがあった。その目には一切の躊躇いが見えなかった。
「みんな、突っ込んでくるぞ! 伏せろ!」
叫ぶと同時にしゃがみこむと、俺の頭上を、爆速のバイクが飛び越えて行った。
キュルルッ。
そして、タイヤが手入れされていない倉庫の床に着地すると、そんな間抜けな音を立てて、思いっきりスリップした。
バイクはそのままクルクル回転して廃材の中に突っ込んで行く。
櫛田はと言うと、反動で宙を舞い、そのまま地面にビターンと顔面から落ちたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます