異世界で魔王を倒した俺、平穏を求め元の世界に帰ったら、地元がヤンキーだらけで治安最悪になってました〜ゴブリンより弱いくせに喧嘩っ早いやつらばかりなので、実力を隠すのも一苦労です〜
第22話 恋に堕ちたスケバン。※ヒロイン視点。
第22話 恋に堕ちたスケバン。※ヒロイン視点。
私は駆け足で階段を登ると、ユーリの部屋に駆け込む。そして、衝撃的な光景に、思わず息を飲んだ。
カーテンが開け放たれた夜の窓ガラスに移った裸の私は、どこからどう見ても、ただの発情した女だったのだ。
もう、否定できない。
私は、柏木ユーリに恋をしている。それも、ただの恋じゃない。
ユーリが、悠人様に見えるだけじゃない。
私の、身体が、心が、ユーリが悠人様であると、なぜだか確信してしまってるんだ。
そんなわけないと分かっていても、身体が言うことを聞いてくれない。自分でも何を言ってるのかわからないけど、ユーリの方が悠人様より、より悠人様なんだ。
そうなれば、悠人様に会えない寂しさから浮気しているのとは訳が違う。
ユーリを悠人様に感じてしまっている今、極端な話、私はユーリのために命を投げ出すことができてしまう。
いや、ユーリが実際に死にそうになっていたら、私が望まなくてもそうしてしまう。
いや、この際、私の命なんてどうでもいい。
怖いのは、このままユーリのことを好きになってしまえば、きっと私の中で、悠人様の存在はどんどん薄くなっていってしまうと言うことだ……。
チラリ、とユーリがいつも寝ているだろうベッドに視線を移す。
「駄目、駄目」
自分にそう必死に言い聞かせたけど、耐えられなかった。
濡れた身体のままベッドに飛び込むと、ユーリの匂いで全身が包まれ、私は思わず「はふぅ」と声を漏らしてしまう。
枕に顔を埋め、スーハースーハーする。
ゾクゾクと背筋に多幸感が走って、私は思わず「好き」と呟いてしまう。
「好き、好き、好き、好き」
一回じゃ物足りなくて、何回も言う。
そのたびに、私の身体はどんどん弱く、女らしくなっていくように感じた。
長ランを着なくては、と思ったけど、私を包むユーリの匂いは私にとってもはや堅牢な檻で、どうしても起き上がることができない。
ああ、このままベッドと一体になりたい! ていうかベッドになりたい! そしてユーリに私の上でいっぱい熟睡してほしい! 何言ってんの私!? 変態じゃん!?
「……なきゃ」
枕に顔を埋めながら、呟く。
もう一度、自分に言い聞かせるために、次は、ハッキリとした口調で言った。
「ユーリと、決闘しなきゃ」
私からすれば、これ以上浮気をして悠人様を裏切らないため、当然の結論だった。
ユーリが悠人様なわけがない。それを証明する一番の方法は、あいつと戦い、私が勝つことだ。
当然、私なんかでは伝説のヤンキー、柏木悠人様に勝てるはずがない。
つまり、ユーリとの決闘で私が勝てば、ユーリが悠人様じゃないことを、私の中で確信できるはずだ。
……でも、負けたら、どうしよう。
あいつが渡部をボコボコにしたという話が、より私を混乱させる。
Aランクヤンキーの渡部を圧倒できるなら、Sランクヤンキー程度の実力はあるはずだ。
それに、渡部から聞いた話では、ユーリの暴力はとにかく容赦がなかったらしい。
もし、ユーリが私にマウントをとって、私の顔に頭突きをするとしたら。
私は苦しみに喘ぎ、助けを求めるけど、ユーリは全く聞いてくれなくて、綺麗な顔に似合わない残虐な笑みを浮かべながら、私の顔を容赦無く潰す……。
きゅんきゅん。
お腹のあたりが高鳴って、なんで高鳴るんだと自分で自分を殴った。
ベットになりたいとか殴られたいとか、一体どうしちゃったんだ私!
このままじゃ、本当に手遅れになる。一刻も早く、決闘を挑まないといけない。
しかし、悠人様の正当な
毎朝のヤキ入れはあるが、あれは一発殴るだけだし、何よりあいつからの反撃がない。
それでは、あいつが私より弱いことを証明できないから意味がない。
それに、無抵抗のあいつを今の私が殴れるかと言ったら、正直難しい。好きな人を殴れるわけがないんだから当然だ。
せめてあっちが私を倒したいと思ってくれないと……でも、渡部みたいに人攫いなんてシャバイ真似はできないし。
ていうか、攫われてユーリに助けられるって、薫羨ましすぎる! 私もユーリにお姫様扱いされたい!
すると、私が持ってきたずたぶくろから、ピロンと着信音がした。
私は枕を抱いたままスマホを取り出して、すぐさまベッドに飛び込んだ。
メッセージは、三年生の女装組の男から届いたものだった。
『柏木薫から、ヤンキー撲滅を掲げるチームへの誘いがありましたので、報告します』
……これは。
ユーリのやつ、本気で言っていたんだ。
しかし、まさかあの弱虫の薫の方が動くとは思わなかった。
当然、私としては、こんな最低最悪のチームを認めるわけにはいかない。
十年前には野蛮だと軽蔑されていたヤンキーも、やっとのことで存在を認められてきたんだ。
そんなシャバイチームがいたら、悠人様ならどうするか。
ぶっ潰すに決まってる。
そして、そんな悪影響を与えるチームの総長である柏木ユーリも、当然ただじゃおかないだろう。
「……やってやる」
なんなら今、ここで問い詰めてやってもいい。
そして、肯定の言葉があいつの口から飛び出た瞬間が、開戦のゴングだ。
「ふぅ、いい風呂だったー。って、櫛田さん、なんで俺のベッドで寝てるの? しかも裸で。ていうか枕食べてる!? なんで!?」
「ぴっぃ!?」
その時、後ろからかけられた声に私は飛び上がって、すぐさま枕をユーリ目掛けて放り投げた。
力のない投擲は余裕でユーリにキャッチされる。
ユーリはというと、呆れた視線を私に送った。
「まぁ、お泊まりでテンションが上がるのは分かるけど、全裸で枕投げは流石にどうかと思うよ?」
「いいから出てって!!」
「ここ、俺の部屋なんだけど……ともかく、風邪ひいたらよくないからさっさと着替えてね。それと、ベッドで寝たいなら俺用に敷布団も敷いといて」
ユーリはやや呆れながら部屋を出ていくと、「薫くーん、部屋を追い出されたー」と、隣の部屋に入っていく音がした。
俺は深呼吸をして呼吸を整える。
……まだ、まだだ。まだ、ユーリと薫だけじゃあ、やっぱり弱いものいじめになってしまう!
じゃあどうするか……今は、待つべきだ。
薫はともかく、ユーリはすごく魅力的だから、仲間なんてすぐに集まる。
そしたら弱者とは言えないわけで、私が潰しがいのあるチームになった時こそ、ユーリに決闘を挑むべき時なんだ。
だから、今日は普通に一緒にいたい……え、ていうか待って、このままいけば、ユーリと同じ部屋で寝るのか!? いや、監視しなきゃだから、当然といえば当然なんだけど!
「………んんンンンン!!!」
私は再びベッドで身悶える。そんなの、まずい。だって、ユーリの寝顔なんか見ちゃったら、襲わない自信がない!
……待って、チームを早く作らせたほうがいいのなら、ユーリへの監視をやめてしまえばいいんじゃない?
その問いに、私は即座に首を振った。
どうせボコったらユーリのこと嫌いになるんだから、それまでは、同居生活を楽しめばいいに決まってる!
となると、今すぐ監視を再開しないといけない。
私はすぐさま寝巻きに着替えて、隣の薫の部屋に凸したのだった。
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