第31話 ヤバげなハーレム。


「と、いうことで、櫛田さんは俺たちの仲間になってくれることになったんだ。昨日説明できなくてごめんね。その、ほら、ちょっと、いろいろあって疲れててさ、そのまま眠っちゃったんだよ」


 未成年には聞かせられないことは当然カットして、事情を説明すると、薫くんは意外なことに落胆を示した。


「ちょっと待って、僕たちと櫛田さんの決闘は、お流れになったってこと?」


「ん? ああ、立ち合い人を気絶させちゃったからね」


「そっか。それじゃあ、振り出しに戻ったようなものだね」

 

「え? いや、ひめ…櫛田さんが仲間になったんだから、全然振り出しじゃないと思うよ」

 

「それが、全然良いことに思えないんだよ! 結局ポイントを持ってるのは櫛田さんなんだから、櫛田さんの好きなようにされちゃうのに変わりないじゃん! むしろそんな人が仲間になっちゃったんだから、【ピース・piece・peace】はおしまいだよ!」


「やったぜ!」


「へ? なんて?」


「ああ、いや、なんでも」


 いけないいけない。【ピース・piece・peace】とか言うクソダサチームがなくなってくれると思うとつい嬉しくなってしまった。


「安心して。櫛田さんは、薫くんを総長として尊重するって約束してくれたから」


「約束って……そんなの、ヤンキーが守るわけないよ!」


「おい、テメェ、さっきから聞いてたらなんだコラ。テメェが悠人様の甥だからって、甘やかすと思ったら大間違いだぞあぁ!?」


 すると、俺の腕に抱きつき上機嫌だった姫乃が、薫くんへ向け殺気のこもった魔力を漂わせた。


 みるみるうちに薫くんの顔色が俺の股間よりもエイリアンじみていくので、俺はすぐさま姫乃の頭をこづいた。


「こら、姫乃、薫くんに謝って」


「え、でも、最初に喧嘩売ってきたのは薫ですよ!?」


「それでも、だよ。それが自分のチームの総長に取る態度か?」


「う……」


 姫乃は不満げな様子こそ隠さなかった。だが、俺の腕机に手をついて、薫くんに頭を下げた。


「すんません、でした」


 薫くんだけではなく、料理をしていた響子も目をまん丸にしている。


 姫乃はすぐに頭をあげると、「これでいいですか、悠人様!」とひしと俺の腕に抱きついてくる。すると、薫くんがほぉとため息をつく。


「おち○ちんがエイリアンだと、櫛田さんでも従順にできるんだね、すごい……」


 そして、自分の股間に視線を落とすと、深々とため息をつく。

 「いや、そんなんじゃなくて、櫛田さんが前世の俺のファンだって説明したよね?」と言ったが聞く耳ももたない。まあ多分、こっから成長するよ。亜鉛とか飲んで見たらいい。


「ともかく! 櫛田さんは【ピース・piece・peace】の力になってくれるよ! これで、薫くんの夢に大きく近づいたね!」


「……どうかなぁ、実際、【ピース・piece・peace】のライングループ、僕とおじさん以外全員脱退しちゃったし、なんなら戦力減退じゃない?」


「はっ、一回ボコられた程度でチームを抜けるような連中、ハナから戦力にもならねぇよ」


 姫乃がそういうと、薫くんが「でも、その団員たちに負けかけてたじゃん……」とポツリと呟く。

 と、姫乃が投げたジャム付きのパンが顔面に直撃し、生まれたてのエイリアンのようにドロドロになってしまった。


 わかっていたことだが、この二人の相性は非常に悪い。この二人の間をこれから取りもたないといけないと思うと、なかなか気が重いなぁ。


「しかし、姫乃ちゃんも早いうちからお兄ちゃんかもって気づいてたんだね。仲間ができてよかったよ。あたし、もしかしたら洗脳かなんかされたんじゃないかって、ちょっと不安だったんだよね」


 すると、俺の前に皿をおいてくれた響子がこんなことを言う。


「え、おいおいマジかよ。会った瞬間当たり前みたいな顔して受け入れてくれたから、俺めちゃくちゃ感動したんだぞ」


「えっ!?」


 すると、姫乃が飛び上がって、「わ、私でも、気づくのに時間がかかったのに……」とガックリ肩を落とす。


「気にするようなことじゃない。俺と響子は元兄妹だから、魂のつながりが他人とはちょっと違うしな」


「な、なるほど! あくまで兄と妹として、ということですね! 女として気づいたのは私が最初ですもんね!」


「そぉ? もう血のつながりないじゃん」


 そう言って、俺の顔をじっと見つめる響子。


 こう見ると、本当に美人になったな。姫乃みたいなとんでもないものを持っているわけではないが、出るところは出て引っ込むところは引っ込む抜群のスタイルをしている。

 ろくに手入れしてないボサボサの黒髪が逆に色っぽく見えるくらいに、いい女だ……。


「ちょっと!? お母さんとおじさんが熱っぽい目で見つめあってるのを朝から見せつけられる身にもなってよ!!」


 と、薫くんの悲痛な叫びに、俺たちは慌てて視線を逸らす。


「そ、そんなのじゃないって。さ、さて、そんなことより、これからのチーム方針はどうするんだ、総長?」


 総長と呼ばれるだけですぐに上機嫌になる薫くん。

 

「んー、そうだねー、まずは」


「まずは改名だな。ダサすぎる」


 と、姫乃がこう断じた。


「櫛田さん、ちょ、ちょっと待ってよ。このチーム名には意味があってね、最後のpeaceは当然平和って意味合いなんだけど、pieceはその平和の一部になろうってことで、最後はみんなで笑ってピースするって」


「その意味を持たせてる感じ含めてクソダセェっつってんだよ!」


 早速姫乃が入団してくれたメリットが出てきた。俺には口が裂けても言えないことだから本当に助かる。


「そんなシャバイチーム名じゃ舐められちまう! オレと悠人様のチームなんだから、ダブルヘッド・シルバーウルフで決定だ! ねぇ、悠人様!」


「ああ、いやぁ……」


 そうだった。姫乃は、ヤンキーの頃の俺に憧れを抱くような女。

 センスは薫くんと五十歩百歩、いや、世間的な目で見ればまだ【ピース・piece・peace】の方が幾分かマシかもしれない。


「ま、まぁまぁ、名前なんてあとでいくらでも変えられるし、そんなことより、もっとこう、チームの方針について話し合うべきじゃないかな?」


 日本の政治家たちが問題を先送りにしたがるわけをその身に感じつつ、俺は話を逸らした。

 すると薫くんがぱしんと力なく机を叩いた。


「本当に櫛田さんが味方になってくれるなら、やりたいことなんていっぱいあるよ! まず、この誰も得してない女装制度を廃止しようよ! で、校内暴力の禁止!!」


 対して、姫乃は渋い顔で首を振る。


「ダメだ。お前らを女装させたのは悠人様のためだ。お前のわがままなんて聞いてられない」


 すると、薫くんはまるで俺のち○こを見たかのような目を俺に向ける。


「もう、おじさん、どんだけ女装したいの!? 別に女装を禁止するわけじゃないから、おじさんはおじさんで趣味としてやっといてよ!」


「いや、それだとさぁ、俺が女装に対してノリノリみたいじゃないか。それはちょっと恥ずかしいしさぁ」


「いや実際ノリノリじゃん! ノリノリのくせに変に羞恥心持たないでよ! 気持ち悪い!」


「おいテメェ、あんま正論言ってんじゃねぇぞ!!」


 姫乃が薫くんに掴みかかる。俺のために怒ってくれるのは嬉し……くない。姫乃を止めてから、大人としてこう言った。


「そうだね。俺も、スカートに慣れてきちゃってることに対して恐怖を感じてるし、そろそろ女装は潮時かな」


 俺の言葉に、ホッと薫くんが胸を撫で下ろす。そんな彼を見ていると、つい本音が溢れ落ちた。


「しかし、そうか、それじゃあ薫くんの女装姿も見納めかぁ。残念だなぁ」


 思わず本音が口から溢れると、薫くんが「へ? な、何言ってるの?」と警戒の色を示す。


「なんか、僕のこと可愛い可愛い言ってたし、もしかしておじさんそういう趣味!? 僕甥っ子なんだよ!?」


「いやいや、そんなつもりはないんだけど、どうせ仕えるなら可愛い子の方がいいだろ? 薫くん、異世界でもなかなかいないくらい」


 逆に、可愛くもない男に仕えることが、俺にできるだろうか。

 思えば今まで俺が従ってきたのは美人の女のみで、モテない学生時代の反動であることは言うまでもない。


「……なっ、何それっ」


 薫くんが、プイっとそっぽを向くが、ショートカットでは隠しきれない耳が真っ赤になっている。


 居間が、ピンク色に染まって見えるくらいに妙な雰囲気になってきた。仏壇のおばあちゃんの顔さえも、心なしか火照って見える。


 当然、俺も元勇者なのだから、ハーレムの一つや二つは欲しいもんだ。

 しかし、一人は十代エルフ、一人は実の妹、一人は甥っ子、一人は死者という、異世界でもなかなかインモラルなハーレムなら、日本じゃもっとダメだろう……いや、法律的には問題ないから、別にいいのか? 倫理的にダメか。


 今後、ムラムラした状態で皆の前に出ないようにしよう、と、心に誓った。

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