第28話「開放された魂」

 魂鬼に囚われていた魂は解放された。宗政のプライベートジェットで『鬼殺街』に帰った紫蓮たち。三番街に行き大きな病院を訪ねる。

 ちなみに『鬼殺街』の建物や設備は、神鬼が殺された後に一新された。最新設備が整い、整備された道や建物。それらはもうこの場所から動かないという本部の意志を感じる。

 そして三番街は病院が集まっている。病院は病気を診るというより負傷者の手当や、魂鬼に魂を盗られた女性の入院、重傷者の入院などで埋まっている。

 病院の中へ入ると中は慌ただしかった。宗政は直ぐに志織の病室を言って確認する。案内された先で、志織はベッドに起き上がって医師と話していた。

 宗政と康家は顔をぐしゃぐしゃにして志織を見ている。志織は二人を見て笑った。彼女に抱きつく宗政と康家。病室には笑顔と涙が溢れた。

 他の病室でも魂を取り戻した女性たちが起き上がっているようだった。志織を宗政に任せた康家は、あの日魂を盗られた女性隊員たちのところを回っていく。

 涙しながら起き上がった女性隊員たちは皆、康家に礼を言った。康家はある人の協力があったからだと笑った。

 頑張ってリハビリして復帰したらまた三番隊に戻ってみせますと張り切る女性隊員たち。だが康家はもう三番隊にはいないことを言う。

 今の配置はどうなっているのかわからないが、とにかく体が回復することを祈っていると皆に声をかけた康家は、志織のところに戻った。

 宗政は康家が戻ってきたところで、一番隊としての仕事もしないといけないから本部に行くと言い、去っていく。

 康家に、後のことは任せたぞと言って、美月と香苗に刀を返した。

 康家も治療を受ける。魂鬼から受けた傷は酷かった肋骨や肩の骨が折れている。全治一ヶ月といったところだ。


 美月が、志織が植物状態の間に副隊長に任命されたことを言うと、康家を支えてくれてありがとうと志織は言った。

 そして今は三番隊ではなく特別隊にいる事を言う。特別隊とは一体何かを問う志織に、康家は医師に席を外してもらって説明する。

 一鬼という鬼の協力で神鬼を殺せたこと。一鬼は他の鬼の能力をコピーして蓄えておきいつでも使える強大な鬼であること。そして封印する鬼の能力をコピーした一鬼は、鬼の力を封印して人間として大鬼を殺す旅を康家たちと続けていること。

 紫蓮を紹介した康家は、紫蓮の持つ鬼刀『紫鬼』が一鬼の右腕を材料に作られていることを話す。そして黒天狗と羅奉を倒し、それぞれの鬼刀を作り、魂鬼に挑んだんだと言った。

 カゲトウ団の話もする。彼らも一鬼と同じく鬼と戦い鬼を食う鬼。人を食べない彼らは味方だと康家は話す。

 知夜里は康家の腕を引っ張る。知夜里もまた人食い鬼から鬼食い鬼になった一人。

 知夜里とニャーコを見た志織笑った。人々の味方をしてくれてありがとうと言った彼女は、これからの話をする。

 志織はリハビリして復帰するつもりだ。少なくとも退院まで三ヶ月はかかるだろうとのこと。身体の機能はそれ程低下していなかったからそれだけの短い期間で退院できるらしい。

 魂を盗られただけで外傷のなかった志織含む女性たちは、食事をしっかり摂って徐々に運動する予定を立てる。立つことも何かを握ることも力がないのでできない。起き上がるためにもベッドの機能でしか起き上がれないのだ。

 康家は紫蓮に志織が回復するまでここにいさせて欲しいと願う。

 知夜里とニャーコも手伝いたいようだったので紫蓮は仕方なく頷く。

 志織は寝転がった状態で手に力を込めたり、腕を少し上げたりする。体を捻ったり曲げたり伸ばしたり、とにかく落ちている筋力を取り戻す。ちょっとずつだが食事量も増やす。看護師さんの世話の間は皆、外に出ている。


 志織は必死に頑張った。無理はしてはいけないと康家に言われていたが、志織からすれば康家も無理して頑張って彼女を助けてくれたのだ。

 志織も康家を支えたかった。その想いが通じて一ヶ月後、志織は立てるようになった。それには紫蓮の助けが大きかった。筋肉の動きをよく見ていた紫蓮は、どうすれば最善になるかを考え志織にアドバイスした。

 紫蓮からすれば早く鬼を討伐に行きたいからだが、志織は感謝する。

 やがて立って歩けるようになっていく。歩行器を使ってだが歩けるようになった志織は、他の隊員を励ましに回った。

 回復の早い志織を見てやる気を出した他の隊員も徐々にリハビリを続けていく。

 そうして二ヶ月が経った頃、志織は屈伸ができるようになっていた。栄養のある食べ物を食べて少しずつ筋トレをしていた彼女だからこそ歩行器なしに歩けるようになったのだ。

 長年の昏睡状態で落ちた筋力も大分元に戻ってくる。トレーニングマシンで足腰の筋肉を特に鍛えた。食べる量も増えてくる。

 二ヶ月半で志織は木刀を振っていた。驚異的な回復力である。強い意志の成した結果だ。誰にでもできることではない。

 目覚めてから三ヶ月。当初は歩けるようになるだろうという目算での話だった退院が、完全復活とも言えるほどの退院になった。

 志織は康家に自分も特別隊に入れて欲しいと願う。それが志織をここまでつき動かしていた動機だった。康家もまた、共に旅をしたいと思ったからこそ待ったのだ。

 康家からしたら志織がここまで回復するのは想像以上だったが、願ったり叶ったりだ。

 本部に寄って本部長に挨拶をした康家は、志織が回復した事と、志織を特別隊に入れる事を報告した。


 知夜里とニャーコを見た本部の人間たちは訝しそうに見ていたが、報告を聞いていた限りでは無害だと思い、放っておく。

 そして康家に二番街へ行き月鬼の血肉で出来た鬼刀『月光』を持っていき、これからも鬼の数を減らすように尽力せよと言った。

 礼を言った康家は皆を連れて出て行く。志織だけが呼び止められて、鬼刀支給場所に行くように言われる。

 志織は新たな鬼刀を支給され、ようやく戻ってきたんだと実感した。そうして康家の元に走る。康家と仲良く話す志織を見た美月は、いいなぁと思った。

 美月は康家とここまでの関係を築けなかった。当然康家が志織の事を忘れていないのも含めて、一定の距離を置いていた。だからこそ羨ましかったのだ。

 夫婦とはこういうものだと見せつけられる。美月は予言を思い出す。もしかするといつか康家と志織のように誰かと夫婦になるかもしれない。だがその人は香苗と奪い合う人。

 美月は、まさかね、と紫蓮の方をチラリと見る。紫蓮は僅かな視線にも気づき、美月の方を見る。その反応が嬉しかった美月は微笑した。それが気に入らなかったのかフイと視線を戻す紫蓮。

 そのやり取りを見ていた香苗は胸がモヤモヤした。紫蓮は鬼だ、流石に鬼に恋はしない。そう思っていた香苗だったが、人のために動く紫蓮の助けをしたいと思ってしまう。その気持ちを正直に受け入れられれば良かったのだが。


 康家は二番街へ行き、工場で『月光』を受け取る。『月光』は誰が使うべきか、知夜里に渡す選択肢もあるが、彼女ではまだ大鬼刀は使いこなせないと判断した彼。一応鬼刀の能力は鬼にも使える、だが剣術の腕前が知夜里はまだまだだった。

 鬼刀『引道』を失っていたこともあり、『月光』は康家が使うことになる。とうとう四本目の大鬼刀。


 紫蓮はカゲトウ団と別れて大分経つことを話し、彼らに渡していた特殊な直通通信機で連絡をとった。

 カゲチヨとチヨ婆と話した後、トウコと堅爺に連絡をとった紫蓮は、トウコがどうしても会って話したいことがあると言うので『鬼殺街』の外の西側で待ち合わせようと言って、彼らと合流することにしたのだった。

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