第2話「神鬼が殺された後の世」

 鬼狩り隊のある本部のある街。街の一定範囲には結界と呼ばれるセンサーが施されていて、鬼が入ってくると警報が鳴るような仕組みになっている。

 これは多くの街にある仕組みで人間が鬼の血を採取し組み込んだ最新鋭のセンサー。

 元々鬼が近づいたら逃げるためのセンサーだったが、今は違う。鬼が中に入ったなら直ぐに鬼狩り隊が駆けつけ、対処する。

 勿論、大鬼相手では逃げるしかなくなる場合もあるが、基本的には鬼狩り隊の方が優位にある。

 ほとんどの場合、小鬼であることが多い。そして鬼たち自身も理解しているのだ。現在の鬼狩り隊は人数も多く、厄介であることを。

 特に本部のある街では強固なビルなどがあり、守る隊員たちも精鋭揃い。

 だから無理に侵入しようとはしない。とはいえ鬼たちも腹は減る。徒党を組んで襲ってきたりするため油断はできない。

 まぁ攻めてくる馬鹿な鬼はあまりいなかった。

 センサーは範囲が絞られるため、一番街、二番街など、分けて設置されている。


 鬼狩り隊に入隊することは人々の憧れだった。何せあの神鬼を討った人たちなのだ。まさにヒーローで、たとえどんな鬼であろうと狩り尽くしてくれる……そう信じられていた。

 実際には大鬼が攻めてくることはなかったから、中鬼の処理に追われていた鬼狩り隊にとっては幸をなしていた。

 現実は夢とは違い、英雄と呼ばれるような存在とは中々いない。

 神鬼を殺した人物の名は明かされなかったが、人が夢見るのは仕方ないこと。そして誰もが申請できるからこそ鬼狩り隊の規模は大きくなっていったのだ。

 ほとんどの者は小鬼の処理に追われたが、それでも雑用でもなんでもやった。

 外国からも人がやってくる。神鬼を殺した国、日本。その技術を盗みにやってくる。

 いつしか減った人口も増えていったのだ。


 鬼狩り隊本部に一人の男がやってきた。鬼狩り隊志望の男だ。

 元々本部は別のところにあったらしいが、神鬼が殺された後散り散りになって鬼が逃げた場所に建てられ街になったのがこの街『鬼殺街きさつがい』だ。

 男は手続きを終え案内される。念の為尋ねられた、鬼ではないことを示す物を出し、彼は面接に向かう。


 男の名は神代かみしろ紫蓮しれん。身長は小柄で童顔。紫の長い髪を後ろで括り、それでも腰まで髪が届いている。肌の色は日焼けしているような色で健康的。細身だがよく見ると筋肉質のように見える。

 新しく建てられたビルの最上階にエレベーターで向かい、面接を受ける。

 エレベーターで昇っている時、彼は思っていた。こうして見ると昔のような人間社会を築けているなと。


 面接では隊の説明と、希望を聞かれる。意識の差だ。

 一番隊は実力者の集いだから、その後入隊試験がある。主に要人の護衛が仕事。

 二番隊は『鬼殺街』を含む多くの街の守護が仕事。誰でもなれるが、入隊試験があり役職がある。

 三番隊は主に特別任務を担う。それは鬼の殲滅。守りではなく攻め。危険な任務のため入隊試験はないが、志望者は少ない。

 四番隊は調査部隊。主に三番隊の補助をする。危険も伴うため入隊試験はないが、生き残れるのは少数だから志望者は極端に少ない。


 紫蓮は三番隊を志望した。それには驚かれたが、紫蓮はある物を見せた。

 面接官はそれをどうやって手に入れたか尋ねる。それは本来、鬼狩り隊に入ってから手に入れる物、鬼刀であった。

 紫蓮は形見だと言う。その言葉を信じた面接官は、彼の三番隊入隊を許可した。


 三番隊宿舎に案内された紫蓮。その場所は『鬼殺街』の端の方。『鬼殺街』の八方の端に建つ北部署。三番隊隊長の隊長室がある建物だ。

 まずは挨拶しろとのこと。紫蓮は建物の三階に階段で上がり、隊長室をノックする。

 返事があり中に入った紫蓮は隊長である川徳かわとく康家やすいえに歓迎される。

 康家は、やっときたかと微笑んだ。副隊長の淡原あわはら美月みつきは訝しんだが咳払いして、その場を鎮める。紫蓮は軽く挨拶したが、全く敬語じゃなかった。

 勿論面接官相手の時もそうだ。敬語を使う必要がないと考えていたし、そもそも彼は敬語に慣れていない。慣れる気もないのだ。

 これには美月が咎める。せめて隊長である康家と副隊長である美月には敬語を使うべきである。

 だが紫蓮はそんなことはどうでもいいと跳ね除け、次の話にいこうとする。

 美月の怒りは頂点に達したが、康家がなだめてその場を収めた。

 康家は美月に、紫蓮とは旧い知り合いである事を伝える。旧知の仲である彼にとって些細な事であると説明され、美月は渋々納得する。


 その後康家は美月に席を外してもらい、紫蓮と二人で話をする。それは今後の話。

 まずは紫蓮の剣の腕を知ること。康家は紫蓮の剣術としての腕までは知らない。紫蓮はニヤリと笑った。

 紫蓮の腕を確かめるために隊員たちと腕試しをして欲しいという康家。ちょうど新しい隊員たちも増えてきたところで良い機会。

 新人たちの腕試しと、現在任務に就いていない隊員たちへの訓練が一遍に出来るように取り計らうと、康家は言った。

 その後は康家が様々な規則などを紫蓮に伝えたが、実際問題は命懸けで鬼を殲滅しようとする三番隊は割と自由が効く。

 隊員の前では康家に対して紫蓮が敬語を使えないか尋ねたが無駄だった。

 紫蓮は誰にどう思われようが構わなかったし、人の評価なんてどうでもよかった。

 話を終えた二人。食事はどうするのか康家が尋ねると、紫蓮は適当に食べてくると答えて隊長室をあとにした。


 美月とすれ違い引き止められた紫蓮。どの街から来たのか尋ねられた紫蓮は街の名前を言う。

 それならこの街のことを知らないだろうと思った美月は、案内役を買って出た。礼儀も叩き込んでやろうという魂胆からだ。

 隊長のお守りをしなくていいのかと尋ねる紫蓮に、紫蓮が気にする程の事ではないと突っぱねる美月。

 街を案内されながら、今の状況を聞く紫蓮。


 この世界には車や戦車、ヘリコプターや飛行機、船などもちゃんとある。それは、今の世になって再び作られたり、動かなくなったものを修理したりした職人たちがいたからだ。

 電車や新幹線などは線路を鬼によって破壊され尽くし無くなっている。線路をひき直す余裕がないのだ。まだまだ鬼はそこら中に彷徨うろついている。

 鬼狩り隊の活躍があり、日本から逃げ出す人は減った。むしろ海外の方が、神鬼が作った大鬼たちの猛威に晒され危険なくらいだ。

 飛行機は日本にやってくる人々で埋め尽くされている。飛行機を管理している街は「鬼殺街」の近くにある。滑走路などはなんとか整備できた。

 一番隊の任務の一つに、滑走路のある街の守護がある。海外の役人などを保護するためと、海外の鬼を不用意に国内に入れないためだ。

 海外に鬼狩り隊を派遣してほしいという声もあるが、そこまでの余裕は無い。

 むしろ海外の人が鬼狩り隊として働いたり、鬼刀の製法を学ぶことでその技術を持って帰って貰うように取り計らっている。


 人の世は戻りつつある。神鬼が築こうとした鬼の世をなくそうとする動きが活発になり、大きな時代が訪れようとしている。

 その昔、人々は争い戦争をした。小さな諍いを起こしては喧嘩をして争った。

 それらが鬼の登場によって変わった。人々は協力して鬼という災厄と戦った。そんな歴史があった今なのだ。

 紫蓮は思う、さて今はどうだろうと。ある店から出てきた酔っ払い二人が言い争いをしている。

 平和ボケしたもんだと思った紫蓮は、美月と別れ夜の闇に消えた。

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