第39話「神鬼を復活させようとする動き」

 二鬼は何度目かの北の大地にため息をつく。ただただこの国を縦断して旅する日々。たまに鬼狩り隊に襲われるが返り討ちにしていた。

 背中の荷物はちっとも重くない。本来ならもっと重いはずなのだから、彼にとっては軽すぎるはずだ。

 背中には神鬼と三鬼の割れた頭を担いでいる。二人の体は彼らが殺された時、一鬼に食べられている。こんな事をしても意味がないと分かっている。それでも二鬼はそれをしなければ自我を保てなかった。

 二人の脳を持って旅することで、可能性を探していた。二人を生き返らせるという可能性を。そんなものはありはしない、分かっていた。

 それでも足掻くしかなかった。自分のこの行動を見つけてくれる者を探した。そしてその男と出会った。


 その男はフードを深く被っていて怪しげな雰囲気だった。北の大地にいる二鬼に声をかけた。

 背中の荷物はジーンキースか? と。神鬼だと答えた二鬼にその男は拍手した。その男は二鬼に、よくやったと言った。

 中身を確認させて欲しいと頼む謎の男に訝しげながら二鬼は荷を降ろした。

 神鬼と三鬼の脳を確認したその男はニヤリと笑った。そしてこう言った。二人を生き返らせたいかと。

 二鬼は詰め寄る。生き返らせられるのか? と。男はわからないと答えた。だが可能性はあると言った彼に二鬼は希望を見た。

 男はここではどのみち不可能だと言う。二鬼は、ではどこならできるのかと問う。この島国から出た遠い大陸の国。そこが神鬼の生まれ故郷だと言った男は、そこにヒントが残されていると言う。

 二鬼は、ならそこに行けばいいのかと問う。男は頷いて、荷を背負い直す二鬼に手を差し伸ばした。

 その手を掴んだ二鬼は密かに一鬼にいつか復讐できる日を待ち望みながら、その男が所有する飛行機に乗って、日本の近くの国へと向かう。

 今は一気に向かうことが出来ない神鬼の故郷。そこを目指して旅を続ける覚悟を決めた二鬼。なんてことはない、今まで希望のない旅を続けてきたのだ、あと少し我慢すれば再び神鬼と三鬼と再会できる。

 謎の男は二鬼の表情に微かに笑って飛行機を動かした。こうして神鬼と三鬼の復活のために神鬼の故郷の国に向かった男と二鬼。

 男は人間のようだったが二鬼にとっては関係なかった。これが最大で恐らく最後の好機。

 大船に乗ったつもりでついてきたらいいと言われた二鬼は頷いた。


 こうして二鬼と謎の男が神鬼復活のために動いてるのも知らぬ紫蓮たちは、鬼を駆逐する旅を続けていた。居場所のわからぬ大鬼を倒すために情報収集をしながら旅する。

 通信機に入ってくる情報はどれも曖昧だ。大鬼たちももう警戒しているはず。

 だが紫蓮は、焦ることはないと言った。もう鬼が生まれることはない。小鬼と中鬼を殺して回りながら、ゆっくり大鬼を潰して回ればいいと。

 徐々にだが人里も増えていく。二番隊は対応に追われ、大幅な人員増員を目指した。

 鬼刀の普及も進み、人に活気が戻りつつあった。逆に人のいさかいが増えていく。それが課題だった。

 鬼が脅威でなくなっていく。日本のその状況に各国は目を向けた。鬼刀の輸出、そして中鬼以上の刀を求められる。

 大鬼刀はまだ手放せない。特別隊の手柄でもあるため特別隊が持ったまま。だがもし大鬼刀が増えてきたら各国に売る事も考えていた本部。

 様々な人々の思いが交錯する。だが紫蓮は生き方を変えない。鬼刀『紫鬼』の量産を求められるが、イージーゲームなんて認めない。強い者を求めて戦いを楽しむ。

 鬼の殲滅はその延長線上にあるだけ。


 紫蓮たちはある町の復興を手伝っていた。重機の護衛から始まり、建物建設までの人々の護衛を手伝う。本来二番隊の役目なのだがそこまで人員が回らない程忙しかったようだ。

 まだセンサーもないから鬼の姿でも問題ない。特別隊の隊服を着たカゲチヨたちは怪しまれたが、トウコの明るさとカゲチヨのツッコミ、ニャーコの可愛らしさに皆笑顔になった。

 失われた『お笑い』を復活させるカゲチヨとトウコに拍手喝采が起こる。やがて真似する人が生まれ、『お笑い』は再び人々の希望となったそうな。

 町の復興を手伝いながら食べるご飯は格別だった。やがて街が出来ていき、センサーが引かれると同時に紫蓮たちは旅に戻る。

 そうやって人の町並みを東に向かって復活させていく。

 東の京は完全に復活して鬼狩り隊第二支部が出来ていた。

 また、西側も開拓していっているようだ。再び人の住めるような場所にするために人々が力を合わせて鬼に立ち向かっている。

 東の京で少し羽を休めた紫蓮たちは、今後について話し合う。日本の大鬼はどこにいるのかわからない。修行中避けて通った時にはいたはずだが、今は影を潜めている。

 もしかしたら飛行機か船を乗っ取って海外に行ったのかもという香苗。美月は有り得ない話ではないが、それなら情報に載っても良いはずと言う。

 康家も同意見で、もう少し日本を旅して回ろうと言う。そうして日本縦断の旅が続くのだ。

 まずは一度北の大地を目指そうとする紫蓮たち。取りこぼしのないように二手に別れる。

 紫蓮と康家と美月と香苗と、カゲチヨとトウコとニャーコと知夜里。知夜里は『鬼殺街』を出る前に山丸童子の鬼刀『山海』を受け取っているので安心だ。

 衝撃波の能力は強力だ。今の知夜里ならば大鬼相手でも上手く立ち回れるだろう。

 紫蓮は知夜里に剣の修行を怠らないようにと、鬼木刀も渡す。知夜里は頷いて手を振ってカゲチヨたちについていく。


 そうして別れた後も何事もなく大鬼を見つけられることもなく過ぎ去る日々。本州の最北端で再会した彼らはあまりの静けさに困惑する。

 だがこれでいいのだと紫蓮は言った。人にとっては鬼が静かなのはいいことだ。まぁ言った本人の紫蓮は不満顔だったが。

 北の大地で大鬼を見つけられなかったら、一度最南端まで行こうと言う紫蓮。康家は占鬼に会いに行くのかと言ったが違うと話す紫蓮。

 彼女と会うのはまだ先だと言う紫蓮。そして彼女からは全て終わったと思ったら外に向かえと言われていると言った。

 それは海外という意味だろうかと尋ねる康家に、紫蓮は恐らくそうだろうという。とにかく今は北の大地を探索すること、そして町の復興を手助けすること、これが大切だ。

 そして北の大地を巡り終えた紫蓮たちは南へニャーコの能力で向かう。そこから北へ進んでその後南東へ向かい魔境も念の為に調べる。

 それだけ長い期間旅を続けても大鬼は見つけられなかった。すれ違っただけか、それとも隠れられているのか。海を渡って海外へ逃亡したか。

 もう選択肢が残っていないならば行くべきだろう。『鬼殺街』で手続きをした紫蓮たちは、海外へ行く準備をした。手始めに一番近い国へ行こうとする。


 日本から鬼が減っていく。他の国も鬼刀の製法を工夫して、鬼弾の改良型の銃を生み出す。大鬼はまだ倒せなかったが、鬼の血肉を使った兵器を作り出し鬼を少しずつ減らしていく。

 こうした世界の動きに反して二鬼と謎の男はある場所へと着いた。それは本当の始まりの地。男は二鬼に鬼を生かしたまま捕らえて連れてくるように言う。

 その間に男は準備をする。それは神鬼復活のための準備。今、鬼は減ってきている。それでも沢山いる鬼を資材にして、実験・・を始めるのだ。

 二鬼は小鬼でもいいのかと問う。出来るなら大鬼が良いが今は小鬼で良いと言った男は、連れてこられた小鬼に詰め寄り薬品を投与していく。

 そうして延々と歴史・・を繰り返すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る