第12話「羅奉戦」

 ある町で暴れ回っていた羅奉は目立っていた。到着した三番隊の隊員たちが四番隊の隊員たちと協力して羅奉をおびき寄せる。車を使い逃げ回り、羅奉を誘導する。

 おびき出されている感覚はあったが負けはしないだろうと思っていた羅奉は紫蓮たちの待つ町に入った。そこにはやはり障害物があった。

 羅奉は風の能力で飛んで入ってくる。急造とはいえ多くの櫓が建てられ防壁の入り組む町中で羅奉を見上げる紫蓮。

 誰が神代紫蓮かと問う羅奉に、鬼刀『紫鬼』の能力を使い黒天狗の技を使う紫蓮。それに羅奉は驚きはしたが、恐らく黒天狗を殺した後に鬼刀にしたのだろうと予想した羅奉は、ほくそ笑んだ。

 何が可笑しいと問う康家に羅奉は笑った。黒天狗の技では羅奉を追い詰めることすらできないからだ。

 炎の大玉を放った羅奉。紫蓮は躱しながら鉄の刃の羽を飛ばすが、炎の大玉の連発に燃え尽きる。辺りに火が燃え移り、火の中の決戦となる。

 羅奉が炎を放つ時は必ず屋根の上などに立ち、風で飛ぶことは出来ない。

 炎を躱し近づくチャンスをうかがうが、今度は洪水のような水を起こし足を奪う。

 これも分かっていた羅奉の技なので、事前に用意されていた梯子はしごを駆け上がり、紫蓮たちは屋根の上に登る。

 羅奉は身体能力に長けているわけではない。勿論鬼としての人間より上の身体能力を持っている。

 だが大鬼としては黒天狗よりも更に身体能力が低い。とはいえ能力の高さはかなりある。

 突風で足を止めようとした羅奉相手に何とか近づいて一撃を浴びせようと目論む紫蓮。


 羅奉は『紫鬼』の存在を知らない。この鬼刀は黒天狗を殺して得た物だと思っている。まさか一鬼の能力だとは思っていない。

 何とかチャンスを作ろうと美月と香苗が挟む。だが雷で電撃の痺れを食らった二人に、更に炎の大玉が迫る。

 美月を康家が、香苗を紫蓮が救う。四人は一度屋根の上から飛び降りた。

 康家はなるべく無駄死にさせないようにと他の隊員たちを離れたところで援護に回している。

 銃もここ数年で進化していて、殺した小鬼の血肉から弾丸を作っているため、より鬼に効果的になっている。

 戦車の砲弾も同様だ。戦闘機による爆撃はまだ効果が実証されてはいないため、ここでは使わない。

 とにかく今は遠距離射撃による援護で美月と香苗が回復されるまで待つ。羅奉も遠距離射撃が鬱陶しいと思ったのかそちらに気を配っている。

 とはいえやはり脅威は紫蓮だと思っている様子。隙がない。

 羅奉が屋根の上に陣取るだろう事はわかっていたので、あちこちに飛び乗れる台がある。それを使って一気に攻めるのが得策だ。

 美月と香苗が回復したのを見て紫蓮は康家に後は任せると言った。

 止めようとした康家が彼の手を握る。紫蓮は振り返り笑った。それは覚悟だった。

 手を離し駆ける紫蓮は台に飛び乗り屋根の上に立つ。羅奉の火の玉を避けながら羅奉に特攻する。

 長距離援護もあり羅奉は後退しながら紫蓮を攻撃する。紫蓮は刀を鞘に入れた状態でつかを握ったまま走る。

 屋根の上だけでは躱しきれないので台や櫓に飛び乗りながら上手く躱す。

 康家と美月と香苗も下から追った。


 紫蓮は人の能力の低さに舌打ちする。一鬼であれば一気に距離を詰めてぶん殴れるのに……と。まぁそれを選ばない彼が思うことではないが、とにかく、羅奉に追いつくために全力で走る。

 援護射撃の甲斐もあって、徐々に距離を詰める紫蓮に焦る羅奉。埒が明かないと思ったのか羅奉は足を止め全力で雷を放った。痺れた紫蓮に炎の大玉を放つ。

 だが紫蓮はギリギリで躱した。そして羅奉の胴体・・を狙う。羅奉には何故体を狙ってくるのか分からなかったが、それでも相打ち覚悟で炎の大玉を放った。

 紫蓮の剣戟は僅かに掠った。そして紫蓮は火達磨になって屋根から転げ落ちた。

 香苗が助け起こす。それは致命傷・・・に近い状態だった。紫蓮は康家に『紫鬼』を託す。

 康家は紫蓮のことを美月に任せ、香苗に『紫鬼』を使うように命令する。香苗は戸惑った。だが焼け焦がれた紫蓮を見て覚悟を決めた。

 『紫鬼』を受け取った香苗は台を駆け登り、屋根の上に登る。

 羅奉は『紫鬼』を見てほくそ笑む。それが黒天狗の能力だと思っていたから。突風を起こし近づけさせないようにした羅奉に対して、『紫鬼』に血を吸わせた香苗は、同じく突風で相殺した。

 羅奉は驚いた。これは何かの間違いだと。水圧のカッターを飛ばす。香苗は合わせる。

 走ってくる香苗に火の玉を飛ばす羅奉。だが香苗は完全に相殺する。近づいた所で羅奉は雷を飛ばした。香苗も同時に飛ばす。

 『紫鬼』は使用者の血に呼応してコピーした能力を使う。血と血が繋がるが如くリンクする。故にまるで鬼が能力を使うように力を使用できるのだ。

 羅奉は香苗が使用している能力が自分のモノと同じであることから、あの鬼を連想した。まさか……殺されたのか? 一鬼が殺されたというのか? あんな人間に……と思っていたところで、ふと紫蓮の方を見た。

 紫蓮は既に一鬼に戻っていた。羅奉はやっと気づいた。神鬼は一鬼によって殺された。だが一鬼は三鬼以外の鬼を殺さなかった。だから神鬼以外の鬼は殺さないものと思われていた。

 実際今まで大鬼は一体も殺されていなかった。あの黒天狗が死ぬまでは。そして黒天狗を殺した人間は実は一鬼だった。

 一鬼は人間として牙を向いたのだ。今まではその準備期間だったのかもしれない。

 羅奉は逃げなければいけないと考えた。一鬼が相手では敵わない。だがその焦りを読んだのか、一鬼は叫んだ。俺は鬼としては戦わないと。


 それを聞いた羅奉は安堵したが、やはり危機は脱出していない。相手にはあの一鬼の能力を持つ『紫鬼』がある。

 ここは一度退くべきだと判断した羅奉は風で飛び逃げようとする。だがやはり自分の能力の厄介さを理解していなかったんだろう。

 香苗は風を操り羅奉を足止めする。羅奉は慌てて火に切り替え、炎の大玉で牽制する。香苗は相殺しながら追いかける。

 香苗は足が速い方ではなかった。それが災いした。相殺するだけでは追いつけない。

 風を操り速度を増せたら良かったのだが、そうもいかない。

 何故なら羅奉からすれば逆に相殺すればよかったからだ。それはもう香苗の頭にも想像出来ていた。

 身体能力の差。これだけは埋められない。プライドもなく逃げる相手に為す術がない。

 こちらを向きながら走る羅奉に追いつけない。香苗は歯を食いしばって悔しがる。だが前には読みの康家が居た。

 康家はこうなることを読んでいた。そして羅奉を逃がさないために先回りしていたのだ。康家は香苗と共に羅奉を挟み撃ちにする。

 羅奉は炎の大玉を康家にも放つ。ひらりと躱した康家は羅奉の首を狙った。斬れ……なかった。刃物と刃物がぶつかるような音がして羅奉の首が止まる。

 康家の持つ鬼刀『引道』は中鬼の血肉で作られた刀。これでは大鬼の硬さを貫くことができなかったのだ。

 一応言っておくが援護射撃の弾も羅奉にとっては石を投げられたように鬱陶しくはあるが、傷にはならない。

 だが『紫鬼』は違う。康家はニヤリと笑った。思い切り鬼刀を振り抜いた後、羅奉の放つ火の玉を躱した。ここで死ぬつもりはないのだ。

 香苗はこの好機を逃す気はなかった。口を大きく広げ、来るな来るなとの大声を上げる羅奉の能力を相殺しその首を斬った。

 胴と首が離れると、いくら大鬼でも一気に生存能力が下がる。硬い体も鬼刀ならどんなレベルでも通るようになる。

 体は必死に逃げようとした。それを美月が心臓を切り裂いた。香苗が『紫鬼』で脳を真っ二つにして、この戦いは幕を下ろした。

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