第26話「魂鬼を倒す想い」

 刀を構える宗政は魂鬼と踊らされる女性の魂を見る。それは康家の妻である志織。

 宗政にとっても無関係ではない彼女の事を思い出す。


──────


 達伊の家に産まれた宗政は当主になるように育てられた。その時既に鬼が蔓延はびこる世だったが、幸いなことに達伊の家は、鬼狩り隊本部の幹部を担ってきたため、守りは厚かった。

 勿論逃げる時もある。たとえば妹が産まれた時は大鬼に襲われながらも必死に逃げ延びて生きてきた。

 妹が産まれた時母は亡くなる。妹がもし男だったら、宗政を守る役を任せられるのにと、父は嘆いたが、宗政は守るものが増えてやる気が出ると父を励ました。

 やがて宗政と妹は大きくなり、本部も移動していく中、剣を学び人間の世の復興を夢見た宗政は、妹の志織と共に鬼狩り隊に入る。

 一番隊に入った宗政は、志織は実力的に二番隊に入るだろうと思っていた。

 だが志織は三番隊に入る。宗政は反対した。今からでも遅くないから二番隊の入隊試験を受けるように志織に言ったが彼女は聞かなかった。

 むしろ宗政に志織と同じ三番隊に入るように言う彼女に、何故拘るのかを聞いた。

 それは鬼をこの世から消すという夢のため、人の世の復興に三番隊は不可欠だと言う。危険過ぎる、志織がやることではないと宗政は言ったが、彼女は頑として首を縦に振らなかった。

 仕方なく宗政の方から折れて志織の三番隊入隊を許した。心配で気が気でなかったのは言うまでもない。


 志織の話は逐一ちくいち聞いていた。その時よく出る名前があった。同期の康家という男の名前。志織から男の名前が出ただけでも腹が立つのに、その男はどうやら志織と仲がいいらしい。

 『蒼突流剣術』を使う康家と、『烈火流剣術』を使う志織は相性が良かったようだ。

 チームとして優秀だった二人。志織から康家が三番隊副隊長に任命されたことを聞く。それは奇しくも宗政が一番隊副隊長に任命されたのと同時だった。

 若くして出世する宗政と康家。康家が宗政と同い年だと聞いて余計にライバル心が湧いた。

 隊長会議で会った時、副隊長として出席していた宗政は康家に話しかける。

 康家としても志織と仲が良かったから兄である宗政とも仲良くなれると思っていたようだが、宗政は康家の腹にパンチする。

 康家はそれを受け止め、これは何の冗談か? と問う。ニヤリと笑った宗政は、妹を死なせたらその時はお前を許さないぞと宣言した。

 心しておきますと丁寧に頭を下げた康家は隊長と共に退出する。宗政は彼のことをいけ好かないヤツだと思っていた。

 だが康家が副隊長になってから三番隊隊員の死亡率が激減した。任務はちゃんとこなしている。康家の作戦が上手く機能しているようだった。

 一番隊副隊長として任務に就いていた宗政は要人の警護に日々追われていた。腕前だけは隊長より高かったので一番隊隊長に推薦される。

 彼は引き受け、より一層と一番隊の人間として任務に就いた。志織も通信で喜んだ。いつの間にか忙しくて志織とも中々連絡が取れない日が多かったのだが、次の隊長会議で顔を合わせることになる。

 三番隊隊長に就いた康家と副隊長になった志織と再会したのだ。


 鬼狩り隊と人々は東の京を追われてしまい、西の京へと逃げていく日々を送っていた。疲弊する人々の英雄となるべく動く三番隊を羨ましく思った宗政は、あることに気付く。

 康家と志織の距離があまりにも近い。それにイライラしながら会議に臨んだ。

 会議は終始、康家が喋っていた。それはとても素晴らしい作戦だった。頭が切れるヤツだと確信したのと同時に、補足する志織の姿を見て……お似合いだと思ってしまったのだ。

 会議が終わった後退出する中で、宗政は康家と志織を呼び止めた。二人は結婚しないのかと宗政は口に出していた。

 頬を赤らめる二人。康家は宗政に、許可してもらえるなら志織と夫婦になりたいと言った。結婚式なんてモノはもうこの世にはできる環境がなかったが、指輪を作ってもらって用意してあると言う康家。

 宗政は、こんな世だ……いつどちらかが死んでもおかしくない、それでも夫婦になるのかと問う。

 二人は頷いた。それなら今ここで宗政の前で誓いのキスをして欲しいと言う彼に、照れる志織だったが康家は彼女を抱きしめ唇と唇を重ねた。


 宗政は康家になら志織を任せられるとその時感じた。彼は最初考えていた時よりずっと知的で誠実な男だと宗政は知ったからだ。

 鬼狩り隊本部の人間を護衛しながら移動していく宗政。職人や人々を守る二番隊と連携し西の京を目指す。東の京は今や神鬼の住処となってしまった。

 三番隊は先行部隊として活躍した。誰も死なせないように立ち回る康家の活躍を見守る志織。

 やがて西の京に着いた宗政たちは、街の復興をする職人たちを守りながら、風景を見る。

 宗政が産まれる前から人々は鬼に追われてきた。逃げては街を作り直し、壊されては逃げてを繰り返していた。

 今いる西の京も何度も作っては壊されてきた街だ。使えるものと使えないものを分けながら、畑も耕す農家の人や、崩れた建物を修繕する工場の人達。

 鬼刀の製造環境も整えなくてはいけない。鬼刀を鬼が使うことはなかったので奪われることはなかったが、より強い鬼刀を作らなければならない。

 そのためには強い鬼を倒さなければならない。ある程度街が出来てきた頃、康家と志織にある任務が出された。それは大鬼の討伐任務。

 ここから更に西に行った場所に単独行動をしながら東の京へと移動している大鬼がいると聞いた本部の人間は、単体なら勝てるかもしれないと踏んだのだ。

 そして三番隊はその大鬼討伐任務に向かう。結果として大敗し西の京へと戻った康家は泣いていた。魂を抜かれた志織の左手薬指には指輪が輝く。

 宗政は要人警護の任務から帰った時、報せを聞いて康家を殴った。殴りながら二人で泣いた宗政は、志織はもう助からないだろうと、志織の入院に反対した。

 だが康家は決して諦めたくないと、志織を生かし続ける選択をして、そして……。


──────


 美月は康家に怒りのまま突っ込まないようにと忠告する。康家は頷いて宗政を見る。

 宗政は目を瞑り息を吐いて言った。作戦を教えろと。魂鬼は魂を操る能力を持つ。だが特に女性の魂を集めているようだった。だから美月と香苗はここから少し離れているようにと言う。

 紫蓮は知夜里にも美月と香苗と共にいるように言う。私も戦うと言う知夜里だったが、足手まといだと言った紫蓮。

 知夜里にニャーコのことを任せて準備をする。戦うのは康家と宗政と紫蓮、この三人。

 まだバレていない。知夜里とニャーコは美月と香苗と共に離れた場所で見守る。

 ジリジリと近づいていった三人はようやく魂鬼に目を向けられた。

 魂鬼は気付いていなかったわけではない。どうせ敵にもならないと、そちらへ来るのを待っていたのだ。

 三人に興味もなさそうな目を向ける。来たのは男だけ。魂鬼はため息をついた。それで対策しているつもりかと。

 康家は真剣な眼差しで魂鬼に語りかける。何故女性の魂を奪い囚えるのかと。魂鬼は恐ろしく気味の悪い笑顔で言った。私は女の子の魂とダンスを踊り続けるの、邪魔するなら容赦はしない。

 鬼に話は通じないと分かっていても、志織の魂がかかっているからこそ、その少女の形をした大鬼の魂鬼に話した。

 彼女の魂を元の体に返して欲しいと言った康家。魂鬼は笑った。取り返したいなら私を殺してみたら? とはしゃぎ笑う魂鬼に怒りを溜め、刀を握る手に力を込める。

 宗政と康家は魂鬼の方へ刀を構えながら寄っていく。その後ろを紫蓮がいつでも鬼刀『紫鬼』を抜けるようにしながらついていく。

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