第27話「魂鬼戦」
ある程度近づいても魂鬼はニヤニヤ笑うだけで余裕がある。だが唐突に紫蓮が叫んだ。行け! と。
康家は宗政と共に刀を振る。康家は最大の突き技『蒼突』、宗政は上段からの奥義『烈火』で挑む。
逃げ場のない攻撃だったが魂鬼からすれば
魂鬼は敢えて康家に自分を斬らせた。刃は通らない。笑う魂鬼は康家の頭をジャンプでグイと捕まえて撫でる。康家は抜け出そうとするが離れられない。途轍もない力で掴まれている。
宗政は二本帯刀していたからもう一本の刀で魂鬼の頭を斬ろうとする。たとえ康家ごとであろうともだ。
だが康家を横に放り投げた魂鬼は、宗政の斬撃をそのまま頭で受けた。中鬼刀であるそれは簡単に折れてしまう。
康家と宗政は少し退がる。遠くから様子を見ていた美月と香苗が走り寄る。近づいてはいけないと言う康家に、美月と香苗は持っていた鬼刀『黒天』と鬼刀『羅烈』を投げる。そして魂鬼に魂を取られた。
紫蓮はここだ、と思った。一気に詰め寄る。宗政が『黒天』と『羅烈』を拾い、もっと早くこうしていれば良かったと悔いた。
紫蓮の突撃に、いい加減飽きてきていた魂鬼は魂を取ろうとする。男の魂も取れるのだ。ただ魂鬼にとって男とは醜い者で、隙を生ませ殺すためだけに魂を取るのだ。
宗政と康家は魂を取られて倒れた。だが紫蓮はそのまま突っ込んでくる。不思議に思った魂鬼は何度も能力を使う。魂は踊るのに紫蓮の魂は取れない。
そもそも紫蓮は仮物の体のため、そこに魂はない。魂があるのは体の中心にある封印している一鬼の体の方。
そして魂鬼は鬼の魂を取れない。人間相手にしか効かないのだ。
だからこその六鬼。身体能力はとてつもなく高いが能力としては鬼同士に通用するものではないからこその序列だった。
人間相手には無敵を誇る六鬼も紫蓮には敵わないのだ。そこが魂鬼にとっての穴だった。
殺される、そう思った魂鬼は頭を抱えた。だが紫蓮は魂鬼の腕を斬っただけで退がる。魂鬼には何がなんだか分からない。
紫蓮は自分の腕で魂鬼を殺すつもりはなかった。それは康家と初めて約束した時から決めていた事。紫蓮は鬼刀『紫鬼』の能力を使う。康家と宗政、そして美月と香苗の魂を元に戻す。
魂鬼は困惑した。自分と同じ技を使う紫蓮の鬼刀。そして神鬼が殺されたという噂の根源を知らなかった魂鬼は、一鬼を思い浮かべるものの訳が分からないといった風に首を傾げる。
紫蓮は康家の方に歩いていって『紫鬼』を渡した。そして後はお前が
志織の魂を元の体へ向かわせてみようとする康家だったが魂鬼が能力で止める。能力は互角、ならば後は魂を取られないようにしながら魂鬼を殺すのみ。
康家は美月と香苗に退がるように言う。美月と香苗は従う。そして宗政に、『黒天』と『羅烈』の二振りの鬼刀を使うように言った。
紫蓮は笑った。『烈火流剣術』は二刀流にも対応してるはずだろう? と。宗政は頷いて腰に『黒天』と『羅烈』を腰に提げた。そして二本の刀を抜いて構える。
紫蓮も後ろに退がっていく。魂鬼は怒った。まずは康家を殺し、能力を使わせないようにしようとする。
あまりに素早い動きに康家は……しっかり合わせていた。覚悟なら出来ていたのだ。目で追えなくても体は動く。魂鬼の側面からの脇腹への右ストレートに刃を合わせる。
まるで紙を切るかのように魂鬼の腕がパックリ割れた。魂鬼は悲鳴をあげる。宗政は『黒天』に血を吸わせて刃の羽で魂鬼を襲う。斬ることは叶わなかったが傷をつけることに成功する。
更に『羅烈』で炎の大玉を出す宗政。能力は話には聞いていたようで即席とはいえ上手く使いこなしている。
魂鬼は宗政の方が倒しやすいと考え、宗政を襲う。二刀流で戦う宗政は二本の大鬼刀を振るい『烈火流剣術』の技で応戦する。
深く傷つけることが叶わなくても傷を付けることは出来た。宗政は改めて大鬼刀の重要性を知る。
いくら能力で魂を取ろうとしても無駄なことに、魂鬼は焦っていた。更に康家の持つ鬼刀は危険である。
どう危険なのか、一鬼の能力を使うことに気付いても、ではどういうことなのかが魂鬼にはわからない。
何故なら魂鬼は情報を集めるということをしなかったから。鬼の中でも群れることをせず神鬼以外とはほとんど接触しなかった。
勿論他の鬼のことも知ってはいる。一鬼の能力も知ってはいる。だが人間は弱い生き物だと教えられていた魂鬼は、人間の情報は要らないと思っていた。
だから鬼刀のことがわからない。どの刀も同じに見えるのに切れ味が違う。
とにかく康家の持つ刀に斬られるわけにはいかないと思った魂鬼は、一旦逃げることにする。
走ってしまえば追いつけないだろうと魂鬼が走ろうとしたところで宗政は風を起こしこちらに引き寄せる。逆に康家には追い風を吹かせて援護した。
康家はここが最大の転機だと感じた。ここでしくじれば、全てが泡に帰す。魂鬼を一気に追い詰める。魂鬼も逃げられないと悟り、反撃をしようとする。
魂鬼の腕を切り落とす康家だったが、すぐに再生してくる。切られてそのまま突っ込んできた魂鬼は再生した腕で康家の腹を殴った。
咄嗟に飛び退いたものの大きなダメージを負った康家は宗政に『紫鬼』を渡そうか迷う。今の状態では戦えない。血を吐いた康家は歯を食いしばった。
自分で決着をつけるのだ。あの時助けられなかった妻を自分の手で助けなければいけないのだ。
そう
自分の最大の技は、鬼を殺すのに向いてない。それでもそれを放った。突き技『蒼突』を、魂鬼の攻撃を躱しながら放った康家は彼女の心臓を貫いた。
そしてそのまま右へ斬る。魂鬼は弱っていた。だが康家もギリギリである。魂鬼のパンチで左肩が負傷していた。躱したハズの攻撃なのにこの威力。
今決めなければならない。宗政は援護しようと走り寄る。それを康家が止めた。彼は倒れ込むように魂鬼の首を切った。そして魂鬼の脳に『紫鬼』を突き立てた。
心臓は既に再生していた。宗政は逃がさぬように魂鬼の心臓を潰す。
美月と香苗は見た。魂たちが元の体に戻っていくのを。それらの魂は必ずしも体が残っている訳ではない。それでも成仏はできるだろう。
紫蓮は康家のところに歩いていき助け起こした。康家は泣いていた。やっと……やっと倒した! そう叫んだ彼に紫蓮は笑った。
宗政も寄ってきて康家に肩を貸す。魂鬼の体は次の大鬼刀になるな、そう言った宗政に康家は首を横に振る。
紫蓮は『紫鬼』を受け取り自分の胸に刺す。そして一鬼となり知夜里とニャーコを呼んだ。魂鬼の肉を食べる二人と一匹。宗政はいいのか? と尋ねた。
六鬼である魂鬼の大鬼刀が出来れば大きな戦力となる。それでも一鬼に食事をさせる理由、それは強い鬼ほど美味であることだった。
今まで我慢し続けてきた分だけ、しっかり味わって欲しいと言った康家。それは約束の内の一つでもあった。
魂鬼の肉を食べ終えた一鬼はしばらくしてからこの後どうするのかを聞いた。
宗政は一度『鬼殺街』に帰ると言って、一緒に戻るかどうか尋ねた。
康家は休養も必要だからとそれを承諾する。プライベートジェットを近くまで運ぶように通信した宗政は、念のため知夜里とニャーコの鬼の能力も封印するように一鬼に言って先に外に出る。
鬼の能力を封印した紫蓮は、康家を背負って美月と香苗と知夜里とニャーコと共に、宗政を追う。
プライベートジェットに乗り込んだ紫蓮たちは一度『鬼殺街』に戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます