第15話「カゲトウ団」

 康家は乗ってきたヘリコプターを四番隊に貸したため、のんびりと街から街へと移動する旅をしようと紫蓮たちに提案する。どの道センサーの中に入るには、知夜里の鬼の力を封印しなければならない。

 食事には紫蓮と知夜里はセンサーの外で鬼を食べなければならないため、街の移動を急ぐと面倒だ。

 車を借りて移動しながら、襲ってくる鬼を討伐し紫蓮と知夜里の食事にする。人間の食料は車に積めたため、康家と美月と香苗も食事には困らない。

 ある場所で紫蓮たちが小鬼と戦っていた時だ。唐突に音楽が鳴り響いた。そのカセットから鳴り響いた大音量の音に驚いた康家たちは、なんだ!? と叫んだ。突然現れた三匹の鬼は考えるようなポーズで固まっている。音楽が続いて彼らが語りだす。


「なんだなんだと言われたら」

「答えてあげよう世の条理」


「人の世の災厄防ぐため」

「未来の平穏守るため」


「愛と全力の鬼を貫く!」

「プリティークールな鬼二人!」


「トウコ!」

「カゲチヨ!」


「この世を駆けるカゲトウ団の二人には!」

「スノーライトニング青白い明日が待ってるぜ!」


「そしてこの子はニャーコだよ!」

「ニャー!」


 ポーズを取って決める二匹の人型の鬼と最後に爆発とともに飛び出す猫の動物鬼。

 呆気に取られた康家だったが、新たな敵だと考え構える。美月と香苗もほうけた後慌てて刀を構えた。

 紫蓮は、やれやれと言わんばかりにあきれている。彼は説明する。カゲトウ団、彼らは一鬼にとって貴重な味方であると。

 カゲトウ団のリーダー、カゲチヨは元々人食い鬼だったが、一鬼の行動に憧れ鬼食い鬼になった中鬼。雷の使い手で、電撃の威力だけなら羅奉の電撃を凌ぐ。

 カゲトウ団サブリーダーのトウコもまた元々人食い鬼だった。カゲチヨに影響され鬼食い鬼となる。トウコの能力も強力で、氷の使い手である。

 ニャーコは動物鬼だが、人の言葉を理解することが出来る。能力は後ほど。

 カゲトウ団は一鬼と深い関わりがあり、鬼食い鬼であったため、特別隊であるメンバーに受け入れられる。

 彼らは特別隊である彼ら、特に紫蓮に頼みがあった。紫蓮が話をカゲチヨから聞くと、チヨ婆と呼ばれる鬼が封印していた十二将鬼じゅうにしょうきと呼ばれる十二体の鬼の封印の一つが解かれてしまったらしいのだ。

 チヨ婆の封印は紫蓮が一鬼から人間になる際の封印と同じもの(一鬼がコピーしてストックした能力)で、チヨ婆が致命傷を受けると一つ封印が解ける。

 カゲトウ団の頼みはその十二将鬼の一人、月鬼げっきという名の鬼の封印を手伝ってほしいというもの。紫蓮は封印の手伝いを断り、討伐ならすると答えた。

 康家は進路を変えてチヨ婆という鬼に会いに行くように車を進める。カゲトウ団の道案内で進むが道中、小鬼に襲われる。

 カゲトウ団は、頼むのだからこれくらい当然とばかりに処理を買って出る。

 トウコは氷の上を凍らせた自身の足で滑りながら、オヤジギャグのように滑る! と叫び小鬼を凍らせていく。

 それに合わせて、雷のようなツッコミを入れて小鬼の首を手刀で切り落とすカゲチヨ。

 ニャーコは欠伸をしながら伸びをして見ている。

 知夜里はニャーコをそっと撫でてみた。ニャーコも知夜里が敵ではないと感じたのか、ただ撫でられる。


 紫蓮はカゲチヨとトウコが神鬼に作られた中鬼であることを言う。

 またニャーコは一鬼がコピーした神鬼の能力によって作られた動物鬼である。動物鬼は更に身体能力も高くなくて戦闘では役に立たない。

 神鬼を殺した後、トウコが拾った死にかけの猫を一鬼が鬼にした。ただ一鬼が力を込めたため中鬼のように能力も持っている特別な動物鬼。

 その能力を思い出した紫蓮は車を捨て、ニャーコの能力で移動することを提案する。

 その能力は人が乗れるミサイルを生み出す。ニャーコが自在に操れるミサイルのため移動にも便利だ。鬼を殺すまでにはいかないが。

 それを聞いた康家は車での移動で問題ないだろうと言った。見れば顔は真っ青だ。

 美月と香苗は早い方がいいとミサイルを選ぶ。安全性を問う康家に、死にはしないと言う紫蓮。

 軽い高所恐怖症の康家にとってそれは有り得ない選択だった。だが無理矢理紫蓮に引っ張られミサイルに乗せられる。

 七つのミサイルが人を乗せて宙を舞う。ちなみにニャーコはトウコの胸で抱きかかえられている。

 康家は絶叫した。ニャーコの操縦で康家の近くに寄せてもらった紫蓮は彼に、落ちるなよと言った。

 康家は必死にしがみついている。これなら着地以外は大丈夫かと思った紫蓮は、ニャーコに頼んでカゲチヨの近くに寄せてもらう。

 そして改めて、チヨ婆の容態を聞く。どうやら鬼の襲撃を受けた等ではなく事故らしかった。

 チヨ婆は立場上、鬼と敵対する立ち位置に立っている。十二将鬼を封印したチヨ婆を狙う者は少なくない。

 十二将鬼さえ復活してしまえば、再び鬼の世界を創り直せるかもしれないと思う鬼も多かったからだ。

 チヨ婆を守る堅爺けんじいという名の鬼は何をやっていると紫蓮は愚痴をこぼす。

 鉄壁の護りを誇る堅爺がいるからこそ、安心してチヨ婆の護りを任せてきたのだ。

 カゲチヨは紫蓮に、堅爺を責めないで欲しいと言った。

 そもそも鬼に攻められたからチヨ婆が致命傷を負ったわけではなく、ちょっとした事故なのだ。

 紫蓮は何があったのかをカゲチヨから詳しく聞こうとする。カゲチヨは前を向いたまま滝汗を流していた。


 やがてトウコが口を開く。もういいよ、カゲチヨと。紫蓮はどうやらトウコに関係があるようだと、ニャーコに言ってトウコの方に寄せさせる。

 止せと言うカゲチヨを無視してトウコの話を聞く紫蓮。

 トウコはゆっくり話し始める。当時の状況を。

 トウコは退屈していた。カゲチヨと共に鬼を狩り皆で食事する。それに不満はないが、何か刺激が足りない。

 堅爺の守りは完璧だ。安全で安心。だからこそ退屈が大きかったのかもしれない。

 チヨ婆も大鬼、堅爺も大鬼。対してトウコとカゲチヨは中鬼。ニャーコに至っては能力を持つ中鬼であっても動物鬼。

 チヨ婆や堅爺は二本角であるが自分たちは一本角だ。強いチヨ婆が外に出られないのはおかしい。

 そう、トウコは自分の境遇を嘆くのではなく、チヨ婆の待遇に不満を持っていた。

 何故対して強くもない自分が外に出てはしゃぎ回れて、チヨ婆は楽しめないのかと。

 食って寝てを繰り返すチヨ婆を何とか楽しませてあげたかったトウコは、堅爺の守護の中で何か楽しめないかとニャーコと考えた。

 そしてカゲチヨが鬼狩り当番の日に決行する。その名もジャイアントスイング。まずはニャーコで遊ぶ。

 ぐるぐる回し吹き飛ばす。軽いニャーコは飛んでいき着地する。チヨ婆もどうか? と尋ねるトウコに最初は遠慮していたチヨ婆。

 だが回されては飛ばされ着地するニャーコを見てうずうずしだすチヨ婆は、一回くらいやってみようかねと言った。

 トウコは喜んだ。これでチヨ婆を楽しませることができる! そう思いチヨ婆を振り回そうとする。

 思ったより重い。そう感じたトウコは氷の能力も使いなんとかジャイアントスイングをする。氷の能力を使ってしまったため、勢いがついて滑りながら回る。

 どうですか? と回りながら尋ねるトウコに悪くないと笑ったチヨ婆だったが、トウコはやった! と手を離してしまう。

 そのまま壁に激突したチヨ婆。堅爺の防壁はチヨ婆にとって下位の能力とはいえ、かなり硬い。

 頭を強くぶつけたチヨ婆にとって致命傷扱いとなってしまって封印の一つが解けてしまった。

 慌てたチヨ婆に、謝罪するトウコ。駆けつけた堅爺とカゲチヨは、一鬼に封印の手伝いを頼むことにしたのだ。


 話を聞いて呆れた紫蓮。何をやっているんだお前らは、そう言う紫蓮に頭を下げるトウコ。退屈は鬼も殺すのか。とにかく月鬼討伐のためにチヨ婆の元へ急ぐ紫蓮たちだった。

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