第16話「チヨ婆と堅爺」

 堅爺の鉄壁のある要塞の森に着いた紫蓮たちは、ニャーコの動かすミサイルから飛び降りた。

 康家だけがしがみついたまま降りなかったので着地に失敗する。

 ミサイルは地面に着き爆発した。美月は康家を心配したが、ニャーコが火力は下げていたようで、頭がアフロみたいになっただけで済んだ。

 到着したカゲチヨが合言葉を入れ要塞の中に入る。康家たちは中に入って驚いた。

 あちこちにカマクラのような鉄壁があり、様子を見ると食事場所や調理場所、寝る場所などが分けられている。

 紫蓮はチヨ婆と堅爺を探す。康家たちが興味本位で鉄壁の硬さをチェックしているのを止めさせ、カゲチヨにチヨ婆はどこにいるのかを尋ねる。


 恐らく本殿だと言ったカゲチヨに紫蓮は首を傾げる。そんな場所は前いた時なかった。

 するとトウコがまたもや申し訳ないように頭を下げて謝った。

 トウコと遊び回っても大丈夫なように広い場所を堅爺に作ってもらったらしい。

 ため息をついた紫蓮はカゲチヨが本殿と呼んでいる場所に向かう。木製の扉を開けて入ったそこは確かに広く、二人の鬼が待っていた。

 こちらから見て右側にお爺さんの鬼が、周りの壁と同じく煌めく棍棒を手に立っている。そして中央奥にまるで玉座に座るように椅子に座った、お婆さんの鬼が木の杖を手に立ち上がった。

 不意にお婆さんの鬼は走り紫蓮たちに杖で殴りかかってくる。咄嗟のことで対応できなかった康家たち。紫蓮だけがこの素早い攻撃に鞘で防ぐ対応をしてみせた。

 知夜里は刀を抜いたが上手く当てられない。康家と美月と香苗は、刀を抜いていいものなのかもわからなかったのもあるが、それでもチヨ婆の身体能力はずば抜けたものだった。

 杖で五人を叩いた後すぐに跳躍し、玉座もどきに戻る。紫蓮が、チヨ婆は一帝だと言った。一神六鬼六帝六王のうちの一帝。

 それならば強いはずだと康家は頷いた。そんな強い彼女が人間の味方であり、鬼を食べて生活してくれている事に感謝した。

 一鬼には及ばないものの、身体能力はトップクラス。能力が封印のため、戦う時は徒手空拳としゅくうけん。その破壊力は堅爺の鉄壁も穴を開ける拳にある。

 とはいえ頭を強くぶつけて致命傷扱いになってしまった事実は情けない。


 康家は堅爺はどんな大鬼なのかを紫蓮が聞いた。紫蓮が説明しようとするとトウコが手を挙げて説明し始めた。

 堅爺の能力は鉄壁。硬い壁を自在に作りだし操る。浮いた鉄壁で相手の攻撃を防ぐことが出来て、大きく作った壁で押し出すことも可能。

 手に持つ棍棒は壁で固めた武器。トウコは堅爺に壁を作ってもらい叩く。ボコボコ叩いた後、痛みで手を抑えるトウコに、香苗は鬼刀でも斬れないのかと尋ねた。

 試してみろと言う紫蓮に香苗は壁を斬ってみる。傷一つ付かない。それに対して紫蓮は鬼刀『紫鬼』を振る。スッパリ斬れた壁に堅爺は、流石に一鬼様の力には敵わないと言った。

 カゲチヨが堅爺は元々一王と呼ばれた実力の持ち主だと説明する。一鬼の影響でチヨ婆と共に鬼食い鬼になり、今は十二将鬼を封印した彼女を外部から守るために能力を使っている。

 ちなみに昔は自分を守るためだけに要塞を作る能力を使っていた。力はあるが途轍もない程のビビりだと紫蓮は言う。

 何かを守るには小心者の方がいいのだと言う堅爺に紫蓮は、守る対象が頭をぶつけていては元も子もないなと言った。

 傷心のままに落ち込む堅爺は、この事態に何度も死のうと思ったらしい。トウコは改めて頭を下げた。


 とにかく月鬼を討伐しないといけないのでしょう? と問う美月に、チヨ婆は封印の手伝いをして欲しいだけだと言う。

 チヨ婆と堅爺だけでは十二将鬼である月鬼は抑えられない。月鬼もまた大鬼の一人。

 康家はそもそも十二将鬼とは何かの説明を求める。一神六鬼六帝六王が主な大鬼ではないのかと。

 紫蓮は説明する。そもそも神鬼は日本で生まれた鬼ではないことを。それは知っているという康家に、それでは外国で生まれた大鬼は日本に来ていないと思うのか? と紫蓮は言った。

 香苗が紫蓮に確認する。十二将鬼とは外国人が大鬼になった例なのかと。実際は世界は広い、十二どころかもっともっといるのだ。

 そのうち日本にやってきて日本の文化に馴染み、日本語を話すようになり日本人を襲うようになった十二体の大鬼が十二将鬼。

 ただ文化の違いから喧嘩をよくしていて、面倒になった神鬼が封印させるようにチヨ婆に言ったのだ。

 神鬼は時期が来たら解くように言っていたらしいのだが、結局封印を解く機会は訪れないはずだった。

 そこへ封印が一つ解けてしまった。月鬼の封印は何としても再封印しないといけない。

 だが紫蓮は討伐すると言った。それは一鬼として戦うのかと問うチヨ婆に紫蓮は首を横に振る。

 堅爺は紫蓮に勝算はあるのかを聞く。紫蓮は『紫鬼』を掲げる。とはいえ月鬼は能力さえ防いでしまえば勝てるという相手ではない。

 身体能力も高い月鬼に勝てるのかという問いを聞いた紫蓮は、木の杖を自分に貸すようにチヨ婆に言った。


 木の杖を構えた紫蓮はチヨ婆に、かかってこいと言った。紫蓮は死んでも一鬼に戻るだけ。殺しにかかってきても構わないと紫蓮は言う。

 紫蓮の覚悟を知ったチヨ婆は腕を構えた。チヨ婆の格闘術の腕前はよく知っている。対してチヨ婆は紫蓮の剣の腕前を知らない。

 一瞬のすり足で距離を詰めたチヨ婆の心臓を突く一撃は、紫蓮の受け流し技『雪走ゆきばしり』によって流される。

 流しながら移動した紫蓮は更に技を放つ。相手に掴ませない技『朧雪おぼろゆき』で木の杖を掴もうとしたチヨ婆の肩を叩く。

 更にチヨ婆の裏拳を躱しながら『小手切り』で手を叩き、一度後ろに下がった紫蓮は勢いよく『円環』を放った。前に美月が見せた『道円流剣術』の技で居合の構えから斜め上に放つ大技。

 紫蓮が放った『円環』はとても精度の高いものであり、美月は自分が放つ技との差を感じた。

 だが『円環』を腕で防ぐチヨ婆。そう簡単にはいかない。

 紫蓮が更なる構えをとった時、堅爺が止めに入った。紫蓮の腕前は確かなものだ。木の杖でここまで戦えるなら問題はないはず、そう言う堅爺にため息をついたチヨ婆は渋々了承した。

 一方紫蓮の方も消化不良で遊び足りない。とはいえ『紫鬼』を使って殺し合いをするわけにもいかない。

 そんなことをすれば十二将鬼を全員復活させ全員と戦わなければならない。それ自体は紫蓮も望むところだが人間側からすれば、たまったものではない。

 一鬼が鬼として戦ってくれるならともかく、紫蓮にはそんなつもりはない。

 ならば今復活した月鬼の処理だけで済ませたいところだ。それは紫蓮にもわかっている。

 討伐することに同意したチヨ婆は、知夜里は置いていけと言った。

 知夜里が小鬼であることを見たチヨ婆は足手まといであることを言う。紫蓮は頷いて知夜里に留守番をさせようとする。

 知夜里は首を横に振ってついて行くように言う。紫蓮は困ったが知夜里に木の杖を渡しこう言った。チヨ婆に一撃でも当てられたら連れていくと。

 知夜里は張り切り木の棒を構える。チヨ婆は笑って応えた。その構えは紫蓮と同じものだった。一撃・・でも与えたらいいのだから紫蓮と同じ動きをすればいいと考えた知夜里。

 チヨ婆は小技から入り牽制して知夜里に木の杖を振らせる。それを躱しながら知夜里の腕を掴んだチヨ婆は笑って持ち上げた。

 一撃でもと暴れ蹴る知夜里。だが紫蓮は実戦ならどうなるか? と尋ねた。

 知夜里はがっくりと肩を落とし大人しく留守番する事を約束した。

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