第17話「月鬼のいるところへ」

 月鬼のところに行くことが決まったのは、紫蓮、康家、美月、香苗、カゲチヨ、トウコ、ニャーコ。この人選に紫蓮は文句を言った。

 知夜里は置いていくのに、カゲトウ団は連れていくのか? と問う紫蓮にチヨ婆は仕方ないだろう? と言う。

 月鬼のいるのは北の大地。ここより遠く離れた場所。封印が解けているのは感覚でわかるが、実際に月鬼を見たわけではない。

 ニャーコの能力で飛んでいくのが一番早い。康家は一度『鬼殺街』へと戻って航空機の手配をと言うが、一刻も早く向かうべきである。

 ニャーコのおりはカゲチヨとトウコにしかできない。カゲチヨとトウコは連れて行けと言うチヨ婆。

 康家は何とか『鬼殺街』へ戻り、黒天狗の血肉で作った鬼刀だけでも受け取った方が戦力になると言った。もうそろそろできているはずなのだ。

 そして航空機ならばまだ外を見なければ何とかなる。

 紫蓮は呆れた。康家はヘリコプターを操縦できる。それで高所恐怖症なのか? と。高所恐怖症にも色々あると言った康家は、流石にミサイルに乗るのはキツすぎると泣き叫んだ。

 とにかく作戦を組めと言った紫蓮に泣く泣く情報を聞く。月鬼と呼ばれる鬼は影の能力を使うらしい。月の光は太陽の光の反射であることから、まるで太陽の影に潜む天体とも言える。

 そんな月に当てられて名付けられた月鬼は、いくつもの分身と影分身を操る。分身は自分と同じ姿をした残像のようなもので実態がなく、分身の攻撃は痛くも痒くもない。

 だが影分身は残像ではなく、能力によって作り出されたもう一人の月鬼。身体能力は落ちるがそれぞれが実態を持ち、影分身の攻撃は食らうと痛い。

 厄介なのが影分身で、影分身を倒しても月鬼には何のダメージもない。なのに影分身に掴まれたりするとたまったものではない。


 そこまで聞いた康家はやはり黒天狗の血肉で出来た鬼刀は取りに行くべきだと言う。今すぐでなくてもいいのではないかと。

 しつこい奴だと言う紫蓮に、ミサイルが嫌だからだけではないと言う康家。

 急ぐにせよ強力な鬼刀があればそれだけ康家たちの援護がしやすい。それに影分身は中鬼の血肉で出来た鬼刀では斬れないのではないか? と康家は言う。

 確証はないが中鬼刀でも斬れるだろうと言った紫蓮はチヨ婆に聞く。『鬼殺街』へ寄っても良いかと。正確には二番街だが。

 それくらいならニャーコの能力ならひとっ飛びだろうと言うチヨ婆に頷いた紫蓮は、康家と共に大鬼刀を受け取りに行くことにする。

 電波が飛んでいて通信機が使えると聞いて、通信機で本部に連絡した康家は、大鬼刀はもう完成していて、康家が使って良いという許可を得た。

 チヨ婆と堅爺は月鬼戦には参加しない。封印しないのであればチヨ婆が無理に行く必要はないからだ。

 行けば危険度が増し、致命傷を負えば他の封印が解けてしまうかもしれない。それは避けなければならない事。

 堅爺もチヨ婆に何かあっては困るからと守りに徹する。

 康家はある程度聞いた話の中で月鬼という鬼の技と行動パターンを考え色々作戦を組む。

 美月と香苗は熱心に聞いていたが、紫蓮は適当に聞き流し欠伸をしていた。

 実戦とは違う。作戦という名の準備は思考力の備えに過ぎないと思っていた紫蓮は、ふと知夜里の方を見た。落ち込む知夜里に声をかけようとしたところで止めた。

 知夜里のところにはトウコがいて話しかけていた。知夜里は俯き不貞腐れ体操座りで足を腕で抱いていた。

 目には涙を浮かべている。これに驚いたトウコは、知夜里の頭を撫でる。

 悔しくて泣ける人は強くなれるんだよ、と言ったトウコは顔を上げる知夜里の隣に座った。知夜里の角は小鬼であるが故に小さい。

 だが知夜里には人間だった頃の記憶がある。だから幼い彼女は鬼としてより人間の幼女に近かったのかもしれない。

 それでも鬼となった彼女の身体能力は普通の子供とは違う。トウコは知夜里の話を聞く。

 知夜里は沢山の人間を食べてしまった。それは落園に出会う前からそうだった。空腹のため涙を流しながら食べていたという。自分は悪い子供だ、ごめんなさいごめんなさい、と。

 ある時落園に興味を持たれて拾われて、刀を持ってみることを言われた。昔々に友達の子供たちとチャンバラごっこで遊んだ彼女は、言われた通りに刀を振る。

 それが面白かったのか、落園は形だけの剣術を知夜里に教えたのだった。


 知夜里にとって、紫蓮は希望だった。師匠と呼ぶに相応しく、紫蓮から教わりたかったのだ。鬼を殺す方法を。父を殺した鬼たちを殺す方法を。

 まだまだ剣術使いとしては未熟な知夜里は紫蓮について行き教わりたかった。

 それをトウコに話した知夜里は再び俯いた。トウコだけでなくカゲチヨもその話を聞いていて、ならばこうすればどうだろうと尋ねる。

 留守番してる間、チヨ婆に体の動きを教わるのだ。チヨ婆もかなりの使い手。剣術ではないが体術に関しては強者である。

 チヨ婆はここに一緒に残るのだから、これはチャンスじゃないかとカゲチヨは言った。

 チャンス? と尋ねる知夜里。彼女はチヨ婆に体の動かし方を教わることで紫蓮を驚かす事ができるのだ。

 カゲチヨとトウコの二人は紫蓮について行けるのだから言えることだと言いつつも、そういう考え方もありだなと思った知夜里。

 ニャーコが知夜里の元に寄ってきて頭を擦り付ける。角が刺さって痛い。

 ニャーコを撫でながら、紫蓮の事を頼むと言った知夜里に頷いたカゲトウ団。


 やがて場所を詳しく聞いた康家は、カゲトウ団に声をかけて『鬼殺街』二番街の近くまで送ってもらうことにする。

 美月は嫌々話す康家に笑った。香苗は紫蓮と話す。月鬼戦では羅奉戦のように無茶をしないようにと。

 少なくとも羅奉戦時のように遠距離戦にならないことを知っていた紫蓮は、負ける気はしないと言った。

 勿論十二将鬼である月鬼は一筋縄ではいかないだろうが、決死で突っ込みあとを任せるようなことはしないと誓う紫蓮。

 それを聞いて安心した香苗は紫蓮のサポートを全力でやることを誓う。

 ニャーコの能力で再びミサイルに乗る六人と一匹。ミサイルは六発。ニャーコはトウコの胸でミサイルを操る。

 チヨ婆と堅爺と知夜里に見送られた紫蓮たちは、二番街の結界に入る手前で降りた。

 紫蓮はカゲチヨとトウコとニャーコを守ると言い外で待つ。カゲトウ団が中に入ってしまうと警報が鳴ってしまうからだ。

 康家と美月と香苗は二番街に中に入り、寄り道せず工場へ向かう。職人たちの手によって、黒天狗の血肉は刀へと変貌し、鬼刀『黒天こくてん』として生まれ変わった。

 康家は『黒天』に血を吸わせ、能力を確かめる。黒い無数の刃の羽は、自在に操れるため問題はない。

 羅奉の鬼刀は完成してないのかと問う康家。鬼刀は製法が特殊で時間がかかるのはわかっているが、完成していれば大きな力となる。

 とはいえやはりまだそこまでは完成していなかった。『黒天』だけでも十分戦力にはなる。

 急がなければならないことを伝え、康家たちは工場を出た。もう用はないと街の外に出ようとするが、その前にと康家は言う。

 康家は『黒天』を美月が使うように言った。美月の剣の腕前なら、康家が扱うよりよっぽど役に立つ。

 それならばと美月は香苗を推薦する。香苗の剣の腕も捨てがたいほど美しく、『黒天』を扱うに相応しい。

 香苗は首を横に振る。美月の腕前には敵わない。美月はだからこそだと言う。

 美月より技は劣っても刀が良ければ道は見える。香苗にとっては屈辱的かもしれないが、良いモノを持つことも大切だと。

 美月は次で良いと言う彼女に香苗は笑った。羅奉の能力の方が欲しいからではないですよね? と問う香苗に舌を出して笑う美月。

 香苗に『黒天』を渡した康家は三人で街の外に出て紫蓮たちと合流する。

 ニャーコの能力によって北の大地に向けて出発する。

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