第24話「約束」
その約束は康家にとって自分の命より大切な一鬼との約束。それは出会った時、天照大御神を祀る神社で交わした約束。
神鬼を殺す手伝いをする代わりに、ある鬼を殺して欲しいと願った康家。
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康家はそれより前の時、剣の腕を買われて若き三番隊隊長として任務に追われていた。そして同い歳の、幼馴染からの付き合いである妻の
志織は三番隊副隊長として優秀な腕を奮っていた。どんな鬼でも康家と志織なら倒せると考えていた。
それが若気の至りだった。所詮は中鬼程度しか倒せないのにある大鬼と戦う彼ら。女の大鬼であるそいつは女性隊員の魂を奪っていく。志織も当然魂を奪われた。
部隊は半壊。男性隊員と、魂を抜かれた女性隊員が残された。大鬼は去っていってしまう。とにかく女性隊員たちを担いで本部に戻った康家たち。
病院で処置をしてもらうが、女性隊員たちは植物状態となってしまった。
康家は眠る志織に、あの大鬼を殺して魂を取り戻してみせると誓ったのだ。
だが方法だけが見い出せなかった。そして月日が流れ、一鬼と出会い彼の願いを聞いた康家は、希望の光を見る。
神鬼を殺せるならきっとあの大鬼も殺せる。一鬼は、否、紫蓮はきっと約束を果たしてくれると。
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三番隊前副隊長の志織が昏睡状態にある事は美月も知っていた。だがそんな経緯があったのは知らなかった。てっきり戦闘の傷が深すぎてもう目覚めないとかそんな話だと思っていたのだ。
魂が抜けた抜け殻の志織の体は今も『鬼殺街』にある病院で看病されている。
紫蓮は、その大鬼の名は
いきなり大物と当たることになった。六王の二人ですら苦戦したのに六帝を飛ばして六鬼。
だが紫蓮は言う。一帝はチヨ婆で二帝は目の前にいる占鬼だ。占鬼も身体能力はかなり高い方だと話す紫蓮。
知夜里はニャーコと戯れあっている。香苗が口を開いた。志織を救うには魂鬼を殺すだけでいいのかと。
紫蓮は話す。魂鬼は女性の魂を集めるのが趣味で魂を操っては一人ダンスを踊っていると。
魂鬼さえ殺せば奪われた魂は解放されて元の体に戻るはず。それで戻らないなら諦めろというのが紫蓮の意見。
どのみちその方法しか手段がない。康家は紫蓮との約束の話をし終えた後、改めて占鬼に魂鬼の居場所を尋ねる。
占鬼はまだ話は終わっていないと言って紫蓮の方を見る。紫蓮はため息をついた。完全に見透かされている。紫蓮が考える内容を康家に伝えるように言った。
それこそが康家にとっての試練の内容だった。康家は難しい顔をしたが、頷いた。
美月と香苗は紫蓮に、それはあんまりだと言った。何故そんな風にするのかと問う。
だが紫蓮はこれは康家の問題だからと言い分を曲げなかった。康家は少し悩んだあと、通信機を使っていいか尋ねた。それはある人物へ直通で繋がる特殊な通信機。
洞窟を出た場所でなら使っても構わないと言った占鬼に礼を言い、外に出る。
康家が通信機を使っている間、占鬼は本当にこれでいいのかと紫蓮に問う。
もっと楽な道があるのだ。それを選ばない紫蓮を美月と香苗は問い詰める。
だが紫蓮は頑として曲げなかった。占鬼は相変わらず頑固な人だと笑って、だからこそ未来は開かれるのかもしれないと言った。
美月と香苗は人の世の未来を尋ねる。鬼の私にそれを問うのかと笑った占鬼は、急に真剣な眼差しになりある答えを言う。
人も鬼も等しくこの世からいなくなる。生き物の進化とはそういうものだと。勿論果てしない未来の話だ。
美月と香苗は、そういうことを聞いているわけではないんだけどと言う。占鬼は大笑いして、スっと目を細めた。
ここだけの話だけど紫蓮次第だと占鬼は言う。紫蓮の選択がいつでも
知夜里はいつの間にかニャーコと一緒に占鬼の話を聞いていた。知夜里は紫蓮の袖を掴み言う。紫蓮なら大丈夫だと。紫蓮は微笑して知夜里の横髪を撫でた。そしてニャーコを撫でた。
康家が戻り、詳しく場所を聞きたいと言う。協力者との連絡が取れたようだ。
協力者は許可も必要なので場所を詳しく教えて欲しいと言っていたらしい。
後に合流する事を話すと占鬼は頷いた。占鬼はここより北に船で進んだ場所にある港町で協力者と合流するように言う。そして六つの場所に順番に向かうように話した。
何故一つの場所に絞らないのかを聞いた康家に、未来が変わればすれ違いが起こり捕まえることが困難になると占鬼は言う。
確かに折角の未来予知があるのにそれと違った行為をして見失っては困る。康家は頷いて同意した。
占鬼は日本地図を取りだし、今いるこの場所を指さす。そこから北北東方面に船で向かい、港町で降りる、ここまではいいね? と問う。皆は頷く。
そこで協力者と合流した後、魂鬼の第一のアジトに向かう。行けばわかると言う占鬼に不安を覚えた康家は、何か目印はないのかと問う。
占鬼はニャーコを頼れと言い、話を続ける。第二のアジトがある北東に向かえと言う。第三のアジトは更にそこから西へ行ったところにある。
ニャーコの能力で海を越え北西の港町の近くにある第四のアジトに行き、そこから北東に向かって進めば第五のアジトがある。最後にやや南東に下りたところが決戦場だと言った。
その場所は昔、人が溢れていた場所。今は鬼の集落で溢れているという。
鬼の集落は人里から離れて出来る。鬼も二番隊の守る鬼狩り隊に基本的に近づこうとしないからだ。
鬼の集落が密集してるところは人々から魔境と呼ばれる。そこはもう人の住める場所ではなかったが、鬼も人が住まなければ食事に困るため、移動する。
鬼も人の肉を奪い合うため、集落は離れて出来ることが多い。仲間意識を持てるもの同士が集まるのだ。
康家は占鬼に鬼の集落は潰して回ってもいいのかを聞く。元三番隊としては気になるところだ。何より協力者が許可を得るためには必要な情報だ。
占鬼は別に構わないと言った。そしてこれ以上は何も言うつもりはないと椅子に深めに座った。
美月は、そういえば占い師と言えば水晶玉じゃないのか? と冗談交じりに言う。
占鬼は笑って美月に顔を寄せ、自分の目を見せる。占鬼の目はまるで水晶玉のように輝いていた。綺麗だと呟いた美月。
もう用はなくなったな、と紫蓮は洞窟を出ようとする。占鬼は言い忘れていたと、紫蓮に一言呟いた。
それはまた未来を表す言葉になるかもしれないと、紫蓮は頭の隅に置いておく。
洞窟を出た紫蓮たちは船に乗る。その前に康家が通信機を使って、ある人物と連絡を取る。その人物は許可をとったらジェット機で向かうと言ったようだった。
船で港町に向かった紫蓮たちは、その協力者が来るのを待つ。昔は飛行機すら鬼に堕とされかねない状態だったが、今は何とか週に数回飛ばせる。
更に協力者は何とプライベートジェットを持っているという。美月は一体誰だと聞くが康家は答えない。
本当なら協力を頼める立場にないからだ。だが志織の関係者であるが為に協力を了承してくれた。
その人からしても、魂鬼の討伐は重要なのだ。香苗は鬼狩り隊の人なんですよね? と尋ねた。きっと二人は驚くと言った康家は、遠くを見て思った。
これで志織を助けられるのなら……彼女の笑顔をもう一度見るためなら何でもしてやる、そう決心した康家だった。
知夜里とニャーコは真剣な康家を見つめて手を握り、きっと大丈夫だと励ました。
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