第4話「チーム」
三番隊の新人たちの招集に応じた紫蓮。そこでチームを組むように言われる。正直な話をするならば紫蓮は誰とも組みたくない、と言うのが本音だった。
紫蓮にとってチームとは足手まといのような感覚。少なくともこの中から選べる人材はいなかった。
一方同じ新人である香苗も弱い人間と組むのは嫌だと思っていた。特に鬼狩り隊は男の比率が高い。
弱い男と同じチームなんて考えられなかった。代わりに数少ない女子チームに誘われるが断った。
紫蓮は色んな人に声をかけられていた。だが先日の訓練もあり、気が進まなかった。唯一香苗だけはまだ見込みがあると踏んでいた。
香苗は紫蓮と組めないか頼む。紫蓮からすればまだマシかと思えた。どうしても組まないといけないらしいので、仕方なしにと言った形だ。
それでもあと二人以上はチームにしないといけないらしい。チーム同士での協力はあるものの、四人以上での連携が中鬼以上を倒す鍵となるのだ。
やがて紫蓮と香苗以外の人間がチームを組み終えた。この中から混ざる他ない。とはいえどのチームにも魅力はなかった。
そんな時、康家が声をかけた。康家は隊長であり唯一、副隊長の美月とのみ組んでいる。
隊長である彼は基本的に危険を冒さない。神鬼がいた頃は危険もやむ無しだったが、今は違う。
そんな彼が声をかけたのだ。チームを組まないか? と。それは異例の出来事だった。
まるで二人を副隊長に任命するかのような誘いだ。隊長一人、副隊長三人でも問題はない。隊員たちには今までそうしてこなかったのが不思議なくらいに思えた。
だが康家にとってこれは想像通りだった。紫蓮ならそうすると思っていたし、香苗が付いてきたのはいい事だ。
とはいえ副隊長は美月一人だと言う康家。そもそも副隊長なんて厄介なモノに就く気はなかった紫蓮は、ニヤリと笑って承諾した。香苗も隊長と副隊長と組めるなら頼もしいことだと言う。
だが美月が反対した。特に紫蓮に対してだ。礼儀作法を覚える気もない者が隊長の傍に付いては士気の低下に繋がると言う。
それならば、と紫蓮が提案した。康家&美月と紫蓮&香苗の対決をし、紫蓮たち側が勝ったらチームを組めと。
香苗からすれば隊長と副隊長と戦うなんて有り得ない話だ。雲の上のような人たちと渡り合えるとは思っていない。
だが紫蓮は香苗の頭を撫でた。茶色に染めた香苗の髪は、紫蓮のように後ろで括っているが、尻尾のように短く可愛らしげだ。
香苗は紫蓮の手を振りほどき照れた。大丈夫だ、俺たちならやれる、そういう真剣な目をする彼に何故かついて行きたくなり頷いた。
美月はため息をついた。どうやら思い知らさねばならないようだ、と。隊長と副隊長がどれだけの鍛錬を積み、どんな思いでその場にいるのかを。
二対二の試合を了承した美月は康家と二人を連れて、今いる西支部から南支部へと移動する。
ちなみに北支部は隊長室がある場所。南支部は訓練場がある場所。西支部は会議室がある今この場所。東支部は事務的な事をする場所。
北東、北西、南東、南西に四つの宿舎があり、隊員たちがパトロールするための意味も込めて寝る場所である。
ちなみに康家と美月は北支部にある部屋で寝泊まりしている。彼らは夫婦ではないため、別室で寝ている。
さて南支部の訓練場に着いた。今回は体育館ではなく、道場のような場所。二対二のため少し広めに場所をとったものの、あまり広いと逃げ回れるため意味がない。
紫蓮にとっては関係ない。どんな場所でも全力でやるだけだ。香苗はやはり緊張していた。それに対して、紫蓮は大丈夫だと言って更に一言加えた。全力でやればそれに合わせる、と。
香苗は頷く。試合が始まる前に紫蓮は康家と美月に向かって手を合わせ礼をした。美月が紫蓮に対し、礼儀作法できるじゃないかと思ったのも束の間、素早い動きで紫蓮は美月に詰め寄り木刀を振るう。
ギリギリで紫蓮の攻撃を防いだ美月。卑怯なんて言わないよな? と問う彼に対して笑った美月。後ろから康家の突きが紫蓮を襲い、紫蓮は二歩三歩、後ろに退がる。
事前に美月は康家に、知り合いだからと手加減しないように言っておいた。彼の突きには手加減など一切感じない。美月は安心して康家に後ろを任せた。
香苗もまた、紫蓮に言われていたことがあった。それは良く観察すること。それをすれば勝機は見えると。
紫蓮は一人でまず戦う。紫蓮はまずは様子見と思っていたが、美月にとってそれは好機だった。紫蓮のスタイルが居合によるものなら、それを上回る居合で対処すればいい。
構えた美月に香苗は唾を飲む。瞬間、美月は跳び、まるで大太刀を振るうかのような一撃を放つ。だが紫蓮は木刀を地面に突き刺すような構え『居立ち』で受けた。微動だにしない。
香苗はここで決めればと思った。だがあまりの美月の美しい動きに見惚れていたため動けなかった。その隙に美月は紫蓮から距離を置く。
まさかあれを易々と止められると思っていなかった美月は康家に謝る。またチャンスを逃した香苗も紫蓮に謝った。
だが……紫蓮と康家に関しては、ただただこの戦いを楽しんでいた。康家にとっては紫蓮の実力を知るためでもあったが、紫蓮にとってこれ程の剣術の場は久しぶりであったための愉しさである。
紫蓮は構えた。美月も構える。美月は胴を捨て高速の上段『兜割り』を放った。紫蓮は合わせるように高速の下からの振り斬り『星砕き』を放つ。それは美月にとって意外な行動だった。そのためかわからないが美月の『兜割り』は弾かれる。
紫蓮は『
一体彼は何者なのか、迷いが生まれる。その隙をついてすぐさま居合を放つ紫蓮の斬撃を康家が正確な突きで止める。我に返った美月はすぐに紫蓮を振り払う。
最大の技で向かうように言った康家に頷き、美月は自身の最大奥義である『
対して紫蓮もまた、香苗に今度こそ美月を仕留めるように言う。たとえ卑怯であろうともだ、とこっそり言う彼に、今まで自分が何も役に立ってないことを考えた香苗は頷いた。
下から来る『円環』を放ってくる美月に対して、技がわかっていた紫蓮は上から放つ『
居合の構えから始まる技でありながら上段にくるりと回り構え直すその技は繰り出す遅さがあるものの、威力は十分。紫蓮が弾き返した美月を香苗が襲う。だが康家がそう簡単には攻撃を通さない。
だが香苗は特攻した。康家の攻撃を躱し何とか美月の腕に刀を当て、美月の手から木刀を落とさせた。
そして香苗は美月の胸のバッチに木刀を当てる。訓練では当てられても再度戦っても良いが、この試合はそうはいかない。死んだと認定された者は退場。
美月は外に出て見守る。隊長の負けは確定している。実は隊長である康家は美月より弱い。腕は確かなのだが、武力より知力を重んじるタイプで美月に負けても気にしないタイプなのだ。
二対一では流石に勝ち目がない。だが紫蓮は香苗に挑戦するように言う。負けても構わない、胸を借りるつもりで行けと言う彼に香苗はお辞儀をして康家に挑む。
結果は香苗の負けだったが彼女も善戦していた。いい腕を持つ。
そして康家は紫蓮に負けた。康家の流派『
もう一度言うが、康家は知力に寄るタイプで武術はそこまで高くない。勿論隊員には負けないが、美月に勝てない相手に勝てる程ではないのだ。
康家は手を抜かず確実にやっていた。それを見てわかる。美月は全力で相手した、だからこそ紫蓮の腕前は認めざるを得ない。
美月はチームを組むことを了承した。こうして康家隊長、美月副隊長、紫蓮、香苗のチームが誕生した。
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