第3話「訓練」
今期入隊した三番隊隊員たちが一箇所に集められた。模擬訓練をすると言われて付いてきた紫蓮は、まるで大規模な体育館のような広い会場で木刀を渡される。そこは南支部にあたる場所だった。
流石に訓練で刀は使わない。木刀の重さは鬼刀の重さと大差なかった。バッジを渡された紫蓮は、それが何なのかを案内していた美月に尋ねる。
渡されたバッジには機械が埋め込まれていて
、叩かれた回数が記録されるそうだ。心臓の位置に着けるように言われた紫蓮は、何故頭に着けないのかを尋ねた。
鬼の弱点の大きな一つは頭だ。脳を潰さなければ、心臓斬ったくらいでは鬼は死なない。
小鬼であるなら首を斬るか脳を破壊すれば死ぬ。心臓を斬って血が流れても脳が動く限り止まらず、昔人々が小鬼にすら銃撃戦で苦戦した理由がこれだ。
更に中鬼になると首を斬ってもすぐには死なない。首をくっつけると生き返る再生能力がある。脳が死なない限り完全な死とならない。
大鬼に関しては首を斬り脳を破壊するのと同時に心臓を止める必要がある。脳か心臓がどちらか片方でも機能していると再生していき生き返る。首を斬っても磁石のように近づいていくため、迅速な対応が求められる。
大鬼も無敵ではないが強靭な肉体も相まって、倒された例が……実は神鬼以外ないというのが真実。ちなみに、大鬼の倒し方は神鬼の倒し方と同じものと思われるための推測であるらしい。
神鬼を殺した実例がありながら大鬼を殺せた例が見られないのは謎の一つとされている。
鬼の倒し方が頭をまず潰すこと、もしくは首を斬ることであるのだから、心臓を斬る訓練をするより頭を狙える方がいいだろうというのが紫蓮の意見。
せめて首に付けろという紫蓮の無茶振りには美月も呆れたが、訓練で危険を冒す必要はないだろうと彼女は言う。
それに心臓を狙えるだけで次に繋がる攻撃になるという美月の意見に、やはり紫蓮は納得はいかないようだったが、言っても無駄と諦めたようだった。
胸にバッジを着け準備する紫蓮。念の為鬼刀は預けるということで渡すように言われる紫蓮は断った。美月は流石に怒りに震える。
もし……例えばだが怒りのままに鬼刀を隊員に振るったとする。皆木刀では鬼刀には敵わず死ぬかもしれない。周りに帯刀している隊員がいるとはいえ、危険度はある。実際に結果に満足せずに隊員を殺し投獄された者がいるからの処置である。
それを説明した美月に、この場で鬼刀を振るわないと約束すると言った紫蓮。そういう問題ではないし、口約束なんていくらでも破れると反論する美月の前に、康家が現れた。
康家は紫蓮を説得して、康家が責任を持って管理するという条件の元で紫蓮から鬼刀を預かる。
康家は美月に、この鬼刀が紫蓮の『形見』である事を説明し、彼が拘ったことを責めないように言った。
康家が頭まで下げたことに首を横に振る美月は、ため息をついて紫蓮に謝る。
当然のことだと言うように振る舞う紫蓮にムカつきながらも、美月は康家と紫蓮の関係性に疑問を持つ。
そして体育館のように広い施設で、二十名程の新人隊員が集った。
紫蓮は欠伸をしながら木刀を片手に持つ。やがてスタートの合図があり、新人隊員たちが一斉に戦う。
紫蓮に対して襲ってくる新人隊員たちに刀を交える事すらせず、相手の剣を躱し確実に相手の胸を捉える紫蓮。
紫蓮はほとんどの隊員に一撃ずつ当てて、自分は無傷で倒す。一人の女性隊員だけが必死に紫蓮の攻撃を受け切っていた。
紫蓮は名を聞く。彼女は
それが指導剣術だと気づいた彼女は、顔を真っ赤にして向かおうとしたが、紫蓮が今は彼女だけを見てないことに気づいた。
斬られた隊員も動くことができる。紫蓮の強さに圧倒された他の新入りたちは、結託して紫蓮を倒そうとしていた。
呆れた香苗は、邪魔するな! と紫蓮を援護する。いつしか新人たちと紫蓮&香苗との戦いは、紫蓮と香苗が勝利した。
仕切り直しに真剣勝負をしろと香苗が言ったところで、時間切れとなった。
香苗は名を名乗ったのに紫蓮の名を聞いてなかったことを思い出し尋ねる。香苗は紫蓮の強さに心奪われ、どこの剣術を習ったのかを聞く。
紫蓮は自分の流派を『
せめてまたいつか、今度は指導剣術ではなく真剣勝負をして欲しいと言う香苗に、紫蓮は呆れてこう言った。鬼刀を使った命懸けの勝負をしたいのか? と。
真剣とはそういうことではないという香苗に、ため息をつきながら紫蓮は康家のところに行った。
康家から預けていた鬼刀『
怒る紫蓮にまだ終わってないことを告げた康家は、周りを見るように言う。
今まで戦ったのは新人隊員。次は現在任務から帰ってきている隊員との訓練。
二十名程の新人隊員に六十名の隊員が当たる。つまり三対一。鬼に囲まれる時もある、そういった訓練をする。
紫蓮はまたもや欠伸をして、木刀を自分の右肩に叩いた。
舐められている隊員三人だったが、まず一対一で様子を見ようとする。それに対して紫蓮は、まとめてかかってくるように言う。
隊員三人は同じチームの人間で、連携が得意だった。まず最初にど真ん中から特攻した一人が刀を防がせ、両サイドから二人が攻撃する。
だがまず最初の一人の木刀を防いだ後、木刀をズラし滑らせ受け流す『
その後紫蓮から見て右からくる相手(やや速く見える相手)の上段を素早く思いっきり振り抜き弾く『
すぐには態勢を整えきれなかった右からきた男を斬り崩し、最初の一人と相対する。
だがその人はすぐに白旗を上げ木刀を手放した。勝てないと悟ったからだ。だが紫蓮は居合の構えをとった後、渾身の振りで木刀を振った。
後に聞いた話では、これでも手加減はしたらしいが、男は大きく吹き飛んだ。ガタイも良い男が数メートル飛ばされたのだ。
チームである二人はブチ切れた。丸腰相手にする行動ではないと。美月も駆けつけ事態は騒然とする。
何故白旗をあげた相手に木刀を当てたのか尋ねられた紫蓮はさも当然のように質問し返した。お前らは鬼に対しても白旗をあげ、刀を手放すのか? と。
これを聞いた隊員たちは凍りついた。これは訓練だと言う人もいるだろう。訓練でここまでする必要はないと。
だが実戦ならどうだ? 彼らは鬼に対して白旗をあげるだろうか? 否、あげられるだろうか?
鬼は人間の思いなど関係なしに襲ってくる。敵わないから許してくれなんて言葉が通用する相手ではない。
実戦を考えない、必死さのないお遊びなら辞めてしまえと言う紫蓮に慌てて康家が止めに入る。
木刀を手にする人たちの目が変わった気がした。必死に食らいつく人たちが増えた気がした。
三番隊は鬼の殲滅。命懸けの任務に就く。簡単に命を散らし未来への希望に橋を届ける役目を持つ。
死に物狂いで行かなければ生き残れない。そんな隊に入ったからこそ、訓練はより真剣でなければならないのだ。
吹き飛ばされた男が起き上がり、紫蓮に近づいて手を差し出した。初心を思い出したと言った彼の手を叩き肩を叩いた紫蓮。
新人でないような振る舞いの彼に、爆笑する皆は、各々訓練に戻る。
康家に預けていた『紫鬼』を受け取った紫蓮は、ふと香苗の方を見る。三人相手に辛勝していた香苗を見ていると、彼女もこちらの方を振り向いた。
あなたも真剣じゃなかった癖にと言われているように感じながら、紫蓮は訓練施設を後にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます