第21話「カゲチヨとチヨ婆の旅」

 カゲチヨとチヨ婆は堅爺の領地だった場所からまず東に向かった。東には大きな街がある。そこは鬼の襲撃でボロボロにされた街だったが、神鬼が殺されてから復興の目処が立っていた。

 街には入らず外から様子を見る。鬼狩り隊が守っている。紫蓮から聞いた話から予想するなら二番隊だろう。

 街の近くを離れ北を目指す。生い茂る木々に身を隠しながら人里を離れた。

 チヨ婆は神鬼の一行と旅した経験があるため地理に詳しい。そして鬼の集落を見つけた。

 周辺から偵察して調べる。小鬼だけでなく中鬼もいる。大鬼の姿はない。

 これならばカゲチヨだけでも大丈夫だろうと感じたチヨ婆はカゲチヨに修行を言い渡す。

 この集落を攻略すること。中鬼が複数体いる為何度敗北してもいいから、自分が死なないように撤退を繰り返して潰せとチヨ婆は言った。

 頷いたカゲチヨはまず特攻する。ツッコミは大事だと言わんばかりの突撃にチヨ婆は呆れた。

 だがカゲチヨにはそれが一番効率の良いことであることも知っていたチヨ婆は、ただ見守る。

 カゲチヨの襲撃に小鬼たちは慌てて鐘を鳴らす。二匹の小鬼の首を雷撃の手刀で斬り落としたカゲチヨは食べるか置いておくか迷う。

 チヨ婆が回収に来てくれたので食料としての鬼の体は無視して、小鬼を殺していく。


 元は人間だったとしても、もう人間に戻れない鬼に容赦はいらない。やがて一匹の中鬼がやってきた。

 何故鬼が鬼を襲うと尋ねる相手に、俺は鬼食い鬼だと名乗ったカゲチヨ。

 中鬼は同胞を食うと言うカゲチヨに怒りを感じ能力を使ってくる中鬼。それは水を操る能力だった。

 カゲチヨからしたら水は電気を通すと思っていたため余裕だと感じる。

 だがその中鬼の水は電気を通さなかった。カゲチヨにとって理屈はわからないが、マズイ相手だ。

 チヨ婆はまだ手助けする場面ではないと考えていた。カゲチヨ自身も助けはいらないと言って走る。

 カゲチヨは水鬼の背後に回り込んだ。その速さは雷の如く。

 だが水で足を取られる。そして水の塊の牢に閉じ込められる。人間ならひとたまりもない。息が出来ないからだ。だが鬼であるカゲチヨは息が出来なくても生きられる。

 雷の膜を体の中心から張って徐々に水の牢を弾き返す。そのまま左手手刀で水鬼の首を切り、右手で脳を潰す。更に他の中鬼が集まってくる前に水鬼の遺体を持って撤退する。


 ある程度離れたところで周囲に警戒しながら食事を摂る。小鬼だけでなく中鬼の肉を食えたのは大きかった。

 チヨ婆にも中鬼の肉を分けようとしたがチヨ婆は断る。チヨ婆はこれ以上強くなる必要がないと言った。だがカゲチヨは今よりも強くならなければならない。

 再度鬼の集落の偵察を行うが、やはり守りが固くなっている。なるべく穴を突く形で小鬼たちを襲い、次に駆けつけた中鬼二体を相手する。

 岩を数珠繋ぎにした龍の形のカラクリ人形のようなモノを操る中鬼と、風のナイフである鎌鼬を起こす中鬼。

 カゲチヨは岩のカラクリ人形を操る中鬼は機動力がないと思い込み、まずは鎌鼬を起こす中鬼を狙う。

 だがカラクリ人形は思っていたより素早く襲ってきて、鎌鼬の中鬼と連携して傷を負わせてくる。

 カラクリ人形に乗った中鬼は蛇のような動きで、岩カラクリ人形の尻尾でカゲチヨを払いのける。

 更に遠距離からの鎌鼬にカゲチヨは一度退がり、四方八方から襲い掴みかかってくる小鬼の処理に追われた。

 カラクリ人形を操る鬼の方が厄介だと感じたカゲチヨは突撃してカラクリ人形を掴み雷を放つ。

 走るイナズマに跳んだカラクリ鬼は、再びカラクリ人形を引き寄せようとするが、鎌鼬の鬼を無視して雷の如く跳んだカゲチヨに首を切られる。

 そのまま着地と同時に飛んできた頭を掴んで潰したカゲチヨは、逃げようとする鎌鼬を素早いダッシュで追いかけて首を刎ねる。

 脳を潰したカゲチヨに、もう中鬼はいないことを告げたチヨ婆は、そのままそこで野営を行う。


 大量の小鬼と中鬼の肉を前に、カゲチヨは流石にお腹いっぱいになって吐きそうになる。

 気合いで腹に貯めろとチヨ婆に言われたカゲチヨは貪り食う。

 こうして腹いっぱいになるまで食べたのはカゲチヨは初めてだった。人間を食べていた頃も、肉はほとんど大鬼の取り分だった。

 チヨ婆たちと出会ってから一鬼に出会い、鬼を食うようになってからは、腹が鳴るほど空腹にならないからと少食で生きてきた。

 チヨ婆に遠慮してきたからだ。チヨ婆は堅爺の領地から動かない。きっと腹も減ると思っていたのだ。

 大鬼であるチヨ婆と堅爺はカゲチヨとトウコを拾ってくれた、その恩義もある。自分たちは少ない取り分でいいだろうとトウコとニャーコとも話していたからこそ、今まで食べてこなかった。

 これからはいっぱい食べなとチヨ婆に言われ、土下座したカゲチヨはとにかく食べた。

 次の鬼の集落を探そうと北に向かっていた時だ。チヨ婆は目の前から来る鬼に悪寒を覚えた。


 その大鬼は見間違いようもない、二鬼と呼ばれていた鬼だった。二鬼は、三鬼と神鬼の頭を箱に仕舞い、袋に詰めて背負って旅をしていた。

 カゲチヨは構えて戦おうとする。だがチヨ婆が止めた。流石に二鬼にはチヨ婆すら敵わないからだ。

 二鬼の目は死んでいた。カゲチヨとチヨ婆を横目でチラリと見た彼は何も言わず通り過ぎていく。

 カゲチヨが下手な真似をしないように、肩に手を置きカゲチヨを抑えるチヨ婆。冷や汗を流すチヨ婆だったが二鬼は興味もなさそうにただ去っていった。

 チヨ婆は最早二鬼は人も襲わないだろうと考えていた。何故なら生気を失った彼からは、人を食べてる気配がしなかったからだ。

 腹が空いても人間を食べても三鬼と神鬼は生き返らない。それが二鬼にとって人を食わぬ理由になっていた。

 生きる理由も死ぬ理由もない二鬼の後ろ姿を見て、チヨ婆は哀れに思った。


 痛いんだけど、と言うカゲチヨにハッとしたチヨ婆は力を緩める。カゲチヨはちょっとだけ地面に埋まっていた。

 足を地面から抜いたカゲチヨは、とにかく次の鬼の集落を探すのかをチヨ婆に聞く。

 頷いたチヨ婆は更に北を目指してカゲチヨと共に旅する。

 大鬼がいる場合は避けて通る事を決めたチヨ婆に少しだけ不満を持つカゲチヨ。まだ敵わないだろうとはいえ、中鬼を食べて力をつけていく中で、あとどれくらい食べたら強くなれるのだろうかと考える。

 そんなカゲチヨの焦りに気付いていたチヨ婆は笑ってたしなめる。焦っては強くはなれない。食べるだけじゃなく、自分の技を理解してどう活かすかが大切だと言うチヨ婆。

 カゲチヨは自分がどこまで出来るのか、色々試しながら鬼の集落を攻めていく。

 鬼は未だに腐るほどいる。狩られたり食われたとはいえ、神鬼が鬼に変えた日本の人間は五億人ほど。更に動物鬼も沢山作っている。

 日本という国は以前、人口問題で少子高齢化が進み人が減っていっていた。だがその問題を解決し、逆に人が増えすぎて大変だという時代があったと言う。神鬼が襲来した時に日本にいた人間は十億人。

 今や二千万人まで殺され食われたりして減ってしまった日本の人間。


 神鬼が死んでから鬼狩り隊の活躍で、多くの小鬼が殺されたがまだまだ存在する鬼たち。

 多くの鬼たちが、住処を追われた人間たちが住んでいた町で集落を作って生活している。

 それらを横断して食事し、カゲチヨは力を蓄えた。人の役に立ちたいと思うわけではない。人を食いたいと思わなくなっただけだ。そしていつかトウコとニャーコと共にカゲトウ団を大きくするのが夢である。

 チヨ婆は語りかける。カゲチヨは人に恨みを持っている。いじめられっ子だったカゲチヨの過去を聞いていたからこそ、人を恨んで食べたりしないのかと聞く。

 そんな事は些細なことだと言ったカゲチヨは笑った。むしろ人を襲って苛める鬼をやっつける事で人を見返した気分だと言うカゲチヨ。

 イジメられていたからこそ人を助けるヒーローに憧れた。そして人を食うのに嫌気がさしていたカゲチヨにとって、一鬼はまさにヒーローだったから、彼の真似をできる事が誇りだとカゲチヨは話した。

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