第20話「カゲトウ団一時解散」
カゲチヨは紫蓮たちが一旦『鬼殺街』に戻っている間、ひたすら小鬼を狩った。
小鬼なら楽勝だし何も問題ない。だが自分は二本角ではない一本角。中鬼であるカゲチヨは自身の弱さを実感していた。
カゲチヨはもっと強くなりたいと思う。だが方法がわからない。そんなカゲチヨにチヨ婆はある話をする。
それは十二将鬼の一人、姫鬼という鬼の話。彼女は封印される前は大鬼だったが、元々中鬼だったと言う。
だが中鬼だった彼女は毎日たらふくの人を食い、更に能力のトレーニングは欠かさなかった。他にも要因があったのかもしれないが、とにかくいつしか姫鬼は中鬼から大鬼に変わったのだ。
とはいえそれによって調子に乗って大暴れ大喧嘩した姫鬼は、結局チヨ婆に封印されるのだが。
カゲチヨはこの話を聞いて悩んだ。修行したいと思ったのだ。だが今の環境がそれを許さない。
堅爺とチヨ婆はカゲチヨを見守っていた。そして紫蓮たちが戻ってきた。
紫蓮たちは『羅烈』の入手で更に強くなるだろう。カゲチヨは決めた。
全員を集めて話をする。カゲチヨは中鬼ではなく大鬼になりたい。せめて大鬼と対等に戦える力が欲しいと言った。
紫蓮はチヨ婆の方を見て、確かに大鬼に相性で勝てる中鬼もいた事も話す。
進化するにしても、対等に戦うにしても能力の強化が必要だ。鬼を食っていかなくてはいけない。
カゲチヨは……カゲトウ団の一時解散を提案した。
トウコは驚いて怒った。だがカゲチヨは
トウコは別に皆で行動したっていいじゃんと悲しんだ。だがカゲチヨの意思は固い。
紫蓮はカゲチヨの意思を尊重すると言った。強くなりたいと思う気持ちは悪いことではない。
トウコは納得しなかったが、ワガママ言ってごめんとカゲチヨに抱きつかれ、ため息をついてカゲチヨを抱き締め返した。
康家と美月と香苗は、カゲトウ団のこれからの活動を応援すると言い握手する。
ニャーコの傷もすっかり塞がった。これからどうするのかと問う紫蓮に、カゲチヨは各地を旅してみたいと言った。
街には入れないが、野宿でも構わない。鬼をとにかく食べまくること、それが目標だ。鬼が沢山いるところがいいだろう。
カゲチヨはチヨ婆に頭を下げた。自分の修行を見て欲しいと。これには堅爺が反対した。カゲチヨではチヨ婆は守りきれない。もし封印が解けてしまったら……。
だがチヨ婆は乗り気だった。動かなかったこのずっとの間退屈していたのだ。食って寝るだけの日々に飽き飽きしていたチヨ婆は、カゲチヨの提案を受けた。
堅爺にはトウコとニャーコの守りを任せようとしたチヨ婆だったが、それをトウコが止めた。トウコも修行の旅に出たいと言った。
だが一時解散すると言ったカゲチヨの意味を考えたトウコは、堅爺に修行を見てもらう。
一緒に修行しては協力プレイになり半減する。修行は一人で行うべきだと思っていたからこそのカゲチヨの一時解散であったからだ。
ニャーコはどうする? と声をかけると知夜里の体を登っていき頭についたニャーコ。ニャーと鳴いたニャーコに、笑った紫蓮はニャーコの世話を知夜里に任せる。
旅の支度を始める皆だったがどこか寂しさがある。特にトウコはどうしても落ち着かず、鞄に物を入れようとしては落としてしまう。
心配になった香苗は傍による。トウコは慌てて大丈夫だと言うがどう見ても大丈夫ではない。
俯いたトウコは喋り出す。カゲチヨと会った日のことを。
──────
それはある場所でのこと。神鬼に鬼にされてしまったトウコは、人間の頃の記憶があったため周りの鬼が怖いと感じていた。
中鬼なのだから堂々としてもいいレベルではあるのに、小鬼にもヘコヘコしてしまう。
そんな時だった。胸を軽く叩かれる。いやツッコまれたと言うべきだろう。なんでそんなに弱腰なんだよと言うカゲチヨに出会った。
そんなこと言われても人間の肉を食べるのには躊躇してしまう。だが食わないと腹は減る。人間の肉を食わない鬼の噂は聞いていたが、今ここにはいない。
カゲチヨは何とかトウコを励まそうと考えた結果、カゲチヨの名前とトウコの名前から取ってカゲトウ団を結成する。
それ以来ずっと一緒にいた。チヨ婆や堅爺に出会い二人の護衛を任されて一鬼と出会い、その時トウコが見つけた猫を鬼にしてもらいニャーコと名付けた。
カゲチヨはニャーコもカゲトウ団の一員だと言って抱き上げる。最初は引っかかれまくったカゲチヨとトウコだったが、徐々に懐いてくる。
──────
懐かしい思い出を話すトウコは楽しそうだった。香苗はトウコの手を握り言った。きっと大丈夫、また再会できる。そう言う香苗の手を握り返すトウコ。
ふと香苗は鬼の体温が高いことを尋ねた。熱いくらいだ。トウコはそれを聞いて一鬼が昔言っていたことを話す。
人間には動物たちと違う魂があり、それは一人につき一つの魂だと。それらを食する事で魂を受け継ぐ鬼は体温が高いのだと言う。動物にも魂はあるが小さいらしい。
ニャーコはそれほど体温が高いと感じなかったため驚きだ。それでも四十度は超えていて普通の猫より体温は高いらしい。
生きてる小鬼の体温が四十二度くらいあると教えてくれた康家に香苗は大鬼になると体温はかなり高いのかと聞く。
大鬼は四十五度くらいだろうと答えたチヨ婆に、ならば進化する条件にも入るかもしれないねと知夜里が横から答えた。
やがてそれぞれが準備を終えた。堅爺が鉄壁の防壁を解いていく。目印にいくつか残して要塞はなくなった。
より一層寂しさを覚えたトウコは手で顔を押えた。泣きはしなかったが、悲しさはある。
カゲチヨは、また帰ってくるからと言ってトウコの肩を軽く叩いた。
トウコは、溶けない氷はないけれどまた皆を凍りつかせてみせるからと笑って手を振る。トウコと堅爺は一足先に旅に出た。
チヨ婆は紫蓮にお礼を言う。月鬼を討伐してくれたことについてだ。紫蓮は首を横に振り、月鬼との戦いは楽しかったから良いと言う。
その言葉に不安を覚えたチヨ婆は、楽しくなくなったらどうするのかと問う。
その時はその時だと紫蓮は言って話を逸らし、カゲチヨにどこへ向かうのかを問う。
今この場所は山の付近でかなり田舎の方。街がある方には向かわないと言うカゲチヨは、東に少し向かって北上すると言う。北の大地がある方向に向かいつつ、旅をするらしい。
ちなみにトウコたちは西に向かった。『鬼殺街』がある西の京は遠回りで避けて南側に行くと言っていた。
ならばと紫蓮たちは南の島々へニャーコのミサイルで行くかと言う。
こうしてそれぞれの道を行く。だが決して今生の別れではない。きっとまた会えると、きっとすぐ会えると、きっと強くなって会えると信じて進む。
ニャーコの五つのミサイルで飛ぶ紫蓮たち。それはさながら五人の魔法使いのようだった。
美月は知夜里の頭に乗るニャーコを見て可愛いと思っていた。
こっそり通信端末を取り出し知夜里とニャーコを写真に撮る。
そこへ康家がミサイルにしがみつきながら声をかけた。何をしているのか? と。
何でもないです! と慌てて通信端末を鞄に入れる美月だったが、康家はジト目で見ていた。
鬼には肖像権は確かにないですけどねぇと嫌味たらしく言う康家に美月は冷や汗を流す。
香苗はクスクス笑ってニャーコに言って近づかせてもらい、知夜里とニャーコに写真を撮っても良いか尋ねる。
了承を得た香苗は美月に、写真を撮る時はちゃんと許可を得ましょうと言った。副隊長として恥ずかしい思いをした美月は反省する。
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