第19話「ニャーコが戦線離脱」

 カゲチヨを襲う攻撃に、カゲチヨは死を覚悟した。それ程の勢いだったのだ。大鬼と本気で対峙したことがなかったカゲチヨは、自分でも助けになると思っていた。だからこその特攻だった。

 走馬灯のようにトウコとニャーコとの楽しい日々が駆け巡る。ああ、俺はここで死ぬんだと思った瞬間だった。目の前に白い物体が通るのが見えた。腹には大きなハートマークの模様のある猫。頭には小さい角が一本。

 月鬼の攻撃はニャーコの腹を貫通し突き飛ばした。地面に転がるニャーコ。叫び声が聞こえる。この瞬間に月鬼の本体を紫蓮が斬りつけたのだ。

 サポートに回っていたトウコもニャーコのところに駆け寄る。紫蓮は、弱い者が戦場に立つな! とカゲチヨを叱る。

 とにかく月鬼を倒さなければならない。ニャーコの事をカゲトウ団と康家と美月に任せた紫蓮は、香苗と共に月鬼と戦う。

 怒りでどうにかしそうな月鬼だったが依然不利な状況は変わらない。分身と影分身を囮に逃げようするが、足が凍って逃げられない。

 トウコの決死の凍らせる能力だった。簡単に抜けられるが、足止めにはなった。

 紫蓮が全速力で迫る。影分身を集中して足止めしようとする月鬼だったが、紫蓮は鬼刀『紫鬼』の能力で自分の分身と影分身を作り出す。

 月鬼は驚いて声も出ない。いくら分身たちを作り出しても相殺される。おまけに何度もトウコに足を凍らされ滑らされ、足を取られて逃げきれない。

 月鬼は許しを乞う。もう人は食わない人も殺さないと言う彼に紫蓮は問うた。お前に人の心がわかるのか? と。

 はい、わかります! と言った月鬼の首を切り裂き、心臓を潰す。香苗に心臓の管理を任せ、月鬼の首から上の元に向かい言った。簡単に分からないのが人の心なんだよ、と。

 そうして月鬼の脳を真っ二つにして完全に殺した紫蓮は、ニャーコの元へ駆け寄る。


 ニャーコの腹には完全に大きな穴が空いている。香苗は鬼だから首を斬られなければ死なないのではないかと問う。

 小鬼なら確かにそうなのだが、動物鬼であるニャーコは鬼としての血が足りなくなっただけでも危険な状況に陥ると紫蓮は説明する。

 ニャーコは神鬼ではなく一鬼が作った鬼。一鬼がコピーした神鬼の能力によって作られた小鬼。

 神鬼が殺された後、トウコが拾った死にかけの猫を一鬼が鬼に変え能力も与えたのがニャーコ。

 動物鬼としての再生能力は、人か鬼を食わなければつかない。貯めているエネルギーが少ないのだ。

 丁度よく月鬼の肉がある。あれを食わそうと言うカゲチヨに康家が反対する。あれは月鬼の能力を得た鬼刀の作成に使いたいと言う康家に、一刻を争う自体なんだと懇願するトウコ。

 今ここには鬼の気配がない。康家に必要な分を残して、せめて脳汁だけでも飲ませてやりたいと言う紫蓮。香苗もここまで連れてきてくれたのはニャーコで、カゲトウ団はもう味方だと言う。康家は美月を見た。猫が死ぬところを見たくないと笑った美月に頷いた康家は、それを了承する。

 紫蓮は胸に刀を刺し、一鬼の姿に戻る。月鬼の脳をぐちゃぐちゃにコネ回し、ニャーコに食わせる。全部食わせたものの、回復はまだまだだ。

 とにかく療養させなければいけないと言った一鬼は、チヨ婆と堅爺のところに戻ることを提案する。ニャーコの能力はコピーしている一鬼がミサイルを作り出し、トウコがニャーコを抱いて乗る。一鬼は康家が持ってきていた大きめのリュックに月鬼の遺体を入れて運ぶ。


 チヨ婆のところに着いた一鬼たちは、急いでニャーコをチヨ婆のところに連れていく。

 慌てて領地内に入ってきた一鬼たちに堅爺とチヨ婆は驚く。そして今も尚出血し、息絶え絶えなニャーコを見て慌てる。

 堅爺は話を聞いてカゲチヨを殴り飛ばした。頬をさすりながら、カゲチヨは反省していることを話す。

 今はそれどころではない。一刻も早く鬼の血肉が必要だ。

 一鬼は紫蓮の姿に戻り鬼を狩りに行くと言う。ついでに月鬼の遺体も保管してもらうように言う。

 鬼の遺体は中々腐らない。燃やしでもしないとなくならないのだ。

 香苗と美月も鬼を狩りに行く。康家だけはチヨ婆にゆっくり話を聞きたいと残る。美月に白い目で見られた康家だったが、ニャーコは大丈夫だろうと康家は踏んでいた。

 カゲトウ団と紫蓮たちによって周りに住む鬼たちが狩られた。

 そもそもチヨ婆たちは少食のためあまり食事を取らない。加えて人里の近隣を追われた小鬼たちがやってくるので今まで飯には困らなかったのだ。

 そのため大量に殺し捕まえた小鬼の死体。それらはチヨ婆の手によって調理された。

 ニャーコに少しずつそれらを食べさせ様子を見る。少しずつ傷が癒えていき、回復傾向にあった。

 トウコはニャーコを撫でながら涙を流した。初めて流れる涙にトウコ自身が驚きながら、涙を拭き笑った。

 紫蓮はその様子に鬼にもちゃんと人間のような感情が残っていることを再確認する。


 ニャーコが回復していくのを見て知夜里もニャーコを撫でる。僅かながらじゃれるニャーコに笑顔になる知夜里。

 カゲチヨは相変わらず堅爺の叱責を受けていた。トウコはカゲチヨは紫蓮を助けるために動いたと言って、カゲチヨを責めないで欲しいと言ったが堅爺からすれば、力のない者が前に出れば誰かが犠牲になるという言い分があった。

 それには紫蓮も同意する。結果として月鬼を倒すチャンスにはなったが、あの場面でカゲチヨが無理をする必要はなかったのだ。

 もしニャーコが庇っていなければカゲチヨが死んでいた。それも踏まえて反省しろと言う紫蓮に、項垂れるカゲチヨ。

 カゲチヨは弱弱しく寝るニャーコに一言、ごめんなと言って外で頭を冷やす。


 ニャーコの容態が落ち着いたので一度『鬼殺街』に帰って、職人たちに月鬼の遺体を渡し鬼刀に変えてもらいに行きたいと康家は言った。

 ニャーコが力を使えない以上、一鬼がミサイルで一緒に飛んでいくしかない。

 再び紫蓮は一鬼に戻り、康家と香苗と美月と知夜里を連れて『鬼殺街』二番街に行くことにする。

 街の近くに降りた一鬼たち。一鬼は知夜里の鬼の能力を封印してから自分も紫蓮となる。

 紫蓮は知夜里に街を案内する。それに香苗もついて行く。康家と美月は工場へと向かった。

 職人に月鬼の遺体を渡した康家は、羅奉の鬼刀は出来ていないか尋ねる。

 職人の一人のお爺さんは、ニヤリと笑って一つの刀を見せる。

 鬼刀『羅烈られつ』は、羅奉の血肉によって作られた刀。既に康家に渡すように言われていたその刀は、美月の手に渡る。

 美月は隊長である康家が持つべきではないのか? と尋ねるが、康家は腕の立つ者が持つべきだと言う。

 美月は自分の腕が見込まれてることを感じ、素直に受け取る。色々試したい欲が生まれるが、それを感じ取った康家が、街中では止めてくれと笑った。

 一方その頃、紫蓮と知夜里と香苗は街で団子を買って食べていた。紫蓮もそうだったのだが、鬼の姿から封印して人間の姿になると、人間の食べ物が美味に感じるようになる。

 団子の味を思い出して涙する知夜里の頭を撫でる紫蓮に香苗は嫉妬する。

 その様子を見て笑った紫蓮は香苗の頭も撫でてやる。そういう事ではないと怒った香苗は、走っていき菓子を買ってくる。

 知夜里は様々な菓子に目を輝かせて食べる。その様子に知夜里の頭を撫でた香苗は、紫蓮に対してドヤ顔をした。

 呆れた紫蓮は康家と美月を待ち、合流した皆でもう一度ニャーコの様子を見に、一鬼としてミサイルを出す能力で、チヨ婆たちの元へ戻ったのだった。

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