第22話「トウコと堅爺の旅」

 西に進路を取ったトウコと堅爺は、小鬼を狩りながらやや南へ進む。西に行った先には『鬼殺街』があるため、真っ直ぐ西に進むわけにはいかない。

 堅爺はともかくトウコは鬼狩り隊に囲まれてしまうと危ない。最悪の場合、堅爺は鬼狩り隊を殺さないといけなくなる。

 いくら鬼を食う鬼だと説明したところでそんなものは何の根拠にもならない。『鬼殺街』から距離をとって南へ遠回りする。

 道中に鬼の集落で堅爺が鬼を狩り、トウコに食べさせる。トウコはカゲチヨ程戦闘するのに向いている鬼ではない。

 カゲチヨの腰巾着というわけではなかったが、近接戦闘が得意ではないトウコにとって、小鬼を狩るならともかく、中鬼には苦戦する。

 いくら氷漬けにしてもその状態から首を切れないのだから、やはり一人では中鬼を狩れない。

 自分で狩ったのは小鬼だけだから中鬼の肉は堅爺が食べて欲しいと言うトウコに、強くなりたいと思わないのかと問う堅爺。

 トウコは自分を助けてくれたカゲチヨのためになればそれでいいと言う。堅爺は悩んだ後、それならば尚のこと強くならなければならないのではないかとトウコに言う。


 トウコは差し出された中鬼の肉を受け取り無言で食べる。小鬼の肉より少し美味で感動したトウコ。

 食事の合間に暇を潰そうと堅爺が話す。それは一鬼の昔話。トウコたちと堅爺が出会う前、チヨ婆と堅爺が神鬼に仕えていた頃の話。

 その頃は一鬼はかなり荒れており、一王である堅爺も殺されかけた程。チヨ婆は一鬼を封印しようか迷うが、人を食わず鬼を食う一鬼に感動して、自分たちも鬼を食うから許せと言ったらしい。

 そうしてチヨ婆と堅爺は神鬼の元を離れた。そして堅爺がチヨ婆のために要塞を構えた時にトウコとカゲチヨを拾ったのだ。

 トウコも思い出す。当時人を食べていたトウコはカゲチヨに守ってもらっていた。ある大鬼の元にいた二人は決心してそこから抜け出した後、小さな人里を襲っては腹を満たしていた。

 人を食べることには抵抗があった。だがそれ以外に方法を知らなかったから、堅爺とチヨ婆と出会い、その後出会った一鬼に鬼を食えば良いと、鬼の肉を差し出された時は人を食べなくてもいい事に感動したものだ。


 今もこうして鬼を食べて腹を満たしている。中鬼の肉は食べると力がみなぎる気がしてくる。

 何日もかけて南へ遠回りして鬼の集落を襲いながら進んだ後、そこから北西へ向かう。

 海から船は出ていたが、人間しか乗れない。襲うわけにもいかないので走って陸から向かう。

 鬼の集落を見つけては襲う。鬼を食うたびにトウコは力が湧いてくる感覚を覚える。堅爺が狩ってる鬼の肉なのだからと、堅爺にも食べるように言うトウコ。

 今まで散々小鬼の肉を届けてくれたトウコへの恩返しだと笑う堅爺だったが、トウコも食べきれないと言うので堅爺も食べる。

 小鬼たちは中鬼が負けると霧散するように逃げていく。実際中鬼も群れていても堅爺には敵わずに逃げる場合も多かった。

 堅爺はトウコに能力の工夫を考えるように言った。たとえばナイフのように固めた氷で切れないかと。小鬼はそれで切れたが、中鬼相手にはまだまだダメだった。

 大きな針のように氷を作り出し心臓を狙ってみるトウコ。だが中鬼には通用しない。

 とはいえ日を追うごとに氷の密度は高くなる。能力の上昇が見られた。この調子なら強くなれるかもしれない、そう感じていた時だった。


 ある程度北西に進んだ二人は西に進み、海にぶつかるまで進むことにする。そこでトウコは見てしまった。

 それはある山のふもとだった。大きめの鬼の集落を見つけた堅爺とトウコは偵察した。そこにはトウコにとって見覚えのある、あの・・大鬼がいた。

 堅爺は大鬼を確認した後、遠回りして避けようと言った。トウコは堅爺に、その大鬼を殺すことは出来ないかと問う。

 殺せないことはないが、今の戦力だと苦戦するのは目に見えてる。一対一ならともかく、中鬼は沢山いる。

 こちらは堅爺とトウコのみ。あまりに不利すぎる。ここは退こうとトウコの腕を引っ張る堅爺だったが、その大鬼から目を離さないトウコ。

 トウコには、昔その鬼の軋轢から逃げてきた記憶が蘇っていた。人間の肉を食べていた頃、彼に酷い目にあわされた。

 一瞬目が合った気がした。だがその大鬼はフイと興味もなさそうに別の場所に目線を向ける。

 堅爺に引っ張られトウコは走る。ある程度離れた時、トウコは叫んだ。いつかあいつを食ってやる! と。


 堅爺は笑ってこう言う。鬼狩り隊に味方するなら大鬼の肉は食えないだろうと。

 ニャーコの時は少しだけ肉を食わせることを許してもらえた事をトウコは話す。だから少しでもいい、あいつの肉を食べてやると話すトウコに、それならこれから沢山の中鬼の肉を食べないといけないなと堅爺が頭を撫でる。

 やる気に満ちたトウコは堅爺と共に、鬼の集落を襲いまくる。その辺は特に鬼の集落が多く、ご飯に困らなかった。

 更に自然豊かだったその辺は、堅爺の領地のように動物鬼が多く住んでいて、味のバリエーションも多々ある。

 人間は既に住処を追われてしまった場所だ。橋がある場所まで来た二人は、一旦南へ南下しようとする。そこは魔境になっている地だ。修行には最適だろう。

 だが橋は何者かに壊されていた。トウコは、凍らせて進むか? と堅爺に言うが、彼は首を横に振った。

 いつか向かうことになるだろうとその場所を遠目に見た堅爺は、当初の予定通り西に向かおうと言った。


 トウコはあの大鬼のことを考えていた。四王である山丸童子やままるどうじ。自分以外の鬼を信用しておらず、更に傲慢で自分を偉い鬼だと思っている山丸童子を倒す日が来るならば、いくらでも中鬼を食ってやると意気込んだ。

 まぁだからと言ってすぐ強くなれるわけでもない。能力の上昇は見られるが、それは中鬼の肉を食べた時だけ。それも殆どの中鬼が逃げるようになってしまったので、小鬼の肉を食べるのが基本。

 小鬼の肉ではあまり力が上がる気がしない。だが腹は膨れるのだから意味はある。

 堅爺はトウコに焦ることはないと言う。だがトウコはとにかく鬼の肉にがっついた。

 堅爺はトウコやニャーコ、勿論カゲチヨにも死んで欲しくないと話す。チヨ婆だけを守ろうとした昔とは違う、堅爺にも大切なものが沢山できたのだ。

 堅爺は自分の過去をトウコに話す。誰にも話すなよ? と言う堅爺はチヨ婆にも話したことのなかった人間だった頃の話をする。


──────


 それはバイクで暴走族という名の希少種老人集団で走り回っていた時のこと。鬼なんて怖くないと走り回っていた彼らを鬼が食いつくし、走り逃げた時には一人になっていた。

 若い頃培った建築技術で堅い家を作った彼は、鬼に脅え一人隠れた。大切なものなんてバイクしかない。独身だった彼には妻も子もない。

 守るべきものはこの身一つと決めて食料の買い出し以外に外出しなかった彼は神鬼に見つかり鬼にされた。

 大鬼でありながらビビりであった彼を笑ったのはチヨ婆。そして同じ大鬼である堅爺の頭を撫でてやるチヨ婆に、人間の頃には湧かなかった恋心が湧く。

 勿論そんなことを知らないチヨ婆だったが、一生守ると誓った堅爺に、守れるもんなら守ってみなと背中を叩いた彼女。

 いつの間にかトウコやカゲチヨ、ニャーコも加わり堅爺にとって家族のような存在になっていた。


──────


 トウコは堅爺がチヨ婆に惚れているのは誰もが知ってる事だよと笑った。

 堅爺は驚いてトウコに詰寄る。まさかチヨ婆も知っているのか? と。トウコは、そこまでは知らないけど気付いているんじゃないかな? と言う。

 堅爺は青ざめて天を見上げた。トウコは笑って、直接聞いてみたら? と言う。

 堅爺は首をブンブンと勢いよく横に振り、トウコに対して、今聞いた話は絶対に話すなよと釘をさした。

 トウコは意味ないんじゃないかなと思いながらも頷いて笑った。

 そして堅爺に言った。勿論死ぬつもりはないから安心して欲しいと。

 西の海にたどり着いた二人は橋を渡って進む。

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