鬼狩り鬼

みちづきシモン

第1話「(プロローグ)始まりの鬼」

 彼らはいつから存在していたのか。人々が気づいた時には、ニュースで暴れ回る鬼たちの話題だらけ。人々は逃げ惑い、軍が討伐に動き出していた。

 人々の判断は間違ってはいない。鬼は駆逐しなければならない存在だった。

 銃弾は効いているのかわからない。ロケットランチャーや戦車の砲弾は頭を砕けば殺せたようだ。

 だがそれも弱い鬼相手にしか通用しなかった。後に小鬼こおにと呼ばれる鬼たちだ。身長が低いから小鬼と呼ばれているわけではない。

 小鬼たちは人間より身体能力が高く、武器を持った人間でもなかなか太刀打ちできなかった。


 だがそれより問題なのが後に中鬼ちゅうおにと呼ばれる存在。身体能力はやはり人より高い。だがそれだけでなく不思議な特殊能力を持ち、軍ですら敵わなかった。

 人々は軍すら敵わない鬼に震えた。人が減少し、その上で鬼は増えてるように見られていた。

 ある国から広がったその鬼たちの侵略は拡大していく。

 何が原因なのかもわからない。何故鬼は生まれたのか。情報が流れてこない。

 鬼はまるで人のような成り立ちをしていた。頭にそれぞれ角が生えているが、人間が進化したようにも見える。

 なら何故人を襲うのか、それが最初わからなかったが、鬼は人を食べていた。殺した人間を食べていたのだ。


 侵略を止めないといけないと考えたある国のトップが核兵器の使用を許可した。

 それは遅すぎた。あまりにも遅すぎたのだ。本来、核兵器の使用は慎重であるべきだが、鬼相手には後手を取ったと言わざるを得ない。

 後に大鬼おおおにと呼ばれる存在。それらが核兵器を爆発させる前に無効化などの処理をしてしまっていた。

 大鬼は身体能力が異常に高いか、特殊能力が異常に強いかするらしい。勿論どちらも優れている場合もある。

 特徴としては二本の角を持つ。額に二本の角がある場合と、額とコメカミに合計二本の角がある場合、そして両方のコメカミに一本ずつある場合がある。それらは個体差である。


 最初に言ったように彼らが一体どこから現れて、もしくは進化してか、何故鬼が現れだしたのか、誰にもわからなかった。

 核兵器を含む兵器をことごとく打ち消されると、今度は兵器製造のお金や材料が足りたくなってくる。当然のように残弾というか、残兵器が減ってくる。

 小鬼は殺せても中鬼以上を殺せず、人が食われていく。国々は慌てるが、もはや鬼の侵略は止められなかった。

 

 大陸で人々が鬼に怯える日々が続いていたある日。鬼の侵略が少しペースダウンした。核兵器も使えない国々にとって、それはちょっとした朗報だった。

 そしてやっと……原因を突き止めることに成功した。その鬼は日本という国に来ていた。

 その鬼を捉えたカメラは、その鬼が人を鬼に変える場面を捉えていた。

 何故今までそれが映らなかったのか、それはある鬼の能力の一つだったようだが、とにかくそのカラクリがわかった瞬間、人々はその鬼を殺せと騒いだ。

 そうしなければ鬼は増え続け、人々は殺されると思ったからだ。それは事実だった。

 日本の人々は彼を鬼の神である神鬼じんきと呼んだ。何故かその後、神鬼は日本に留まり続けた。


 日本は世界に比べるとまだまだ人口的にはそれ程多くない国だったため、大陸のように鬼が急激に増えることはなかった。だが神鬼による侵略は大きな痛手だった。

 大陸の国々も大鬼への対処に追われていたため、日本へ援軍を送る余裕がなくなりつつあった。

 だが、日本の人々も負けていなかった。鬼を殺すのに脳を破壊するための、猟銃では難しい面があったのだが、ここで日本刀が役に立った。

 人々は鍛錬し、日本刀で鬼たちと戦った。だが普通の日本刀では小鬼は斬れても、大鬼は皮膚が硬すぎて斬れなかったそうだ。

 そこで沢山の工場の鍛冶たちが開発を繰り返した。鬼の血肉を使用した刀、鬼刀おにがたなが完成した。

 鬼刀を持つものは鬼狩り隊と呼ばれる部隊に入り、鬼たちと戦った。


 やがて人を減らすのに飽きたのか、神鬼は日本で人牧場を作り、家畜のように人を扱って食事をするようになった。

 時に人里に行っては人を鬼に変え、嵐のように人を攫っていく。

 人々は打倒神鬼を掲げて、鬼の住処を破壊しようとするが、返り討ちにされてしまう。

 それでも人々は希望を捨てなかった。多くの人は家族を守るため、ある人たちは英雄になる自分を見て、ある人たちは鬼狩りとして生活を維持するため。

 人は危機的状況にある方が必死になれる。人は誰かを守るためなら立ち上がれる。


 神鬼は楽しんでいた。自分の過去を忘れて、今の鬼としての生き方を楽しみ、毎日宴会を開いては鬼たちと騒いだ。

 ある鬼だけは自分に反抗していたが可愛いものだと思っていた。逆らえるはずがないと確信していたからだ。

 神鬼は自分が特別な存在で、もう誰も勝てる者などいないと考えていた。だからこそ余裕を持って人間を襲っていた。

 もう鬼を増やし続けなくても人は減る。そう考えていた神鬼は、ふと考える。

 鬼の世は楽しいことだらけだろうか? と考えたところで彼は笑っていた。

 人の世より楽しいに決まっていると酒を飲みながら夜風に当たった。

 誰も神鬼を止められない。神鬼自身も止めるつもりはない。

 人の世が勝つか、鬼の世が勝つか。勝敗は彼にはわかりきっていた。

 だからこそ、昔々母親に言われたことを思い出す。その言葉は彼にとって宝物で、今となっては無に帰したもの。

 もう手に入らないそれは、彼が眺める夜景の風に飛んでいく。

 人の住まなくなった家屋では鬼たちの宴会が続いている。

 下品な笑い声で人肉を食す鬼たちのその宴は神鬼にとって最高の贈り物。


 反抗する鬼だけが神鬼にとって少しだけの気がかりだった。鬼には人間だった時の記憶がある者と、ない者がいる。

 反抗する鬼は前者だった。彼は人を食べたがらなかった。鬼は人を食べないと腹が減る。何も食べなくても死にはしないがストレスは感じるのだ。

 代わりにその鬼は小鬼を食べていた。彼の行動は神鬼にとって少し気になること。

 別に咎めるつもりはないが、少しは鬼としての生を楽しんで欲しいもの……そう神鬼は考えていた。

 いつも戦っては神鬼が負かすその鬼の名は一鬼いっき。神鬼が人を鬼にした中で一番強く、能力も途轍もないものなので、一鬼と名付けたのだ。

 神鬼にとって、一鬼は最高の友である。もっとも、一鬼にとっては神鬼は殺したい対象らしいが。

 今日も一発殴って一キロは吹き飛ばしただろう。諦めず再び這い上がる一鬼をアッパーで吹き飛ばすが、何度やっても諦めない彼には感心する。

 大鬼はほぼ全員彼に負けている。殺さないように神鬼が止めなければいけなかったから、その殺意は神鬼だけに向けるように言ったのだ。

 鬼を恨むなとは神鬼は言わない。むしろ彼は……彼自身を恨んでいるのではないかと神鬼は思う。


 やがて始まりの鬼として人々に畏れられた神鬼の進軍は日本最大の災害として、いや世界最大の災害として、人の世の終わりを告げる……神鬼はそう夢見ていた……あの日までは。

 人を恨み人の正義を疑った神鬼の創った、人を食らう鬼の世の中。


 誰もが諦めていた。いつか鬼に人は食い尽くされると。

 人々に希望を与えたのは鬼狩り隊……そう噂される。

 諦めずに戦い抜いた鬼狩り隊こそが、人々を勇気づけて、更には奇襲により神鬼を討伐したと噂された。

 真偽を知るものは少数だったが、とにかく後は鬼を駆逐するのみ。鬼刀を持った鬼狩り隊の戦いは続く。


 これはそんな物語。

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