第37話「鬼狩り隊相手に紫蓮の対決」

 一番隊隊長の宗政と副隊長、二番隊隊長と副隊長、三番隊現隊長と現副隊長、四番隊隊長と副隊長。そしてカゲトウ団を含まない特別隊。それらを相手に紫蓮が牙を剥く。紫蓮に勝てなかったら一鬼として破壊活動を行うと宣言する彼。

 特製の木刀を作ってもらったそれは一鬼の血肉で作った鬼木刀。それなら人を斬らないだろうという考えがあってだ。

 期間は一日。朝日が昇ってから日が沈むまでの間。練習期間として朝日が昇る前に紫蓮の腕を知ってもらう。

 誰も一対一で紫蓮に勝てなかった。当然だ、既にそれはチーム作りの時にわかっていた。康家と美月の二対一で紫蓮に押し負けたのだから。たとえそれが宗政であろうとも結果は同じだった。

 鬼狩り隊は息を飲む。このままだと紫蓮に負け一鬼として暴れ回られることになる。

 美月と香苗はそれはないだろうと思いつつ、本気で挑まなかったら彼を失うことになるのは明白だと思った。


 宗政は康家に作戦を練らせる。康家も紫蓮の完全な手の内は知らない。ただ『神代流剣術』は得体の知れない剣術だということ。

 ある時紫蓮は話していた。『神代流剣術』はその時代までにあった全ての剣術の技を模倣してできた剣術だと。全ての剣術の良いとこ取りをしたその剣術は敵なしと言われたらしい。

 今では失われた『神代流剣術』だが、それならばそれぞれの技を持つ紫蓮に対して全員でかかれば隙は生まれるだろうと康家は思っていた。

 だが隙を生むだけでは足りない。あと一手が欲しい。康家は悩んだが中々思い浮かばない。頭を悩ます康家だったが時間が来る。

 四番街に建てられた特別隊隊舎。その地下では存分に訓練できるような施設が作られていた。鬼を検知するセンサーを除外する仕組みが組まれており、鬼のメンバーも含む特別隊にとって良い訓練所となると考えられた場所だ。

 ここならば紫蓮が致命傷を負い一鬼となっても問題ない。存分に戦える。紫蓮は中央で鬼木刀を構えて、いつでもかかってこいと言った。

 康家は一度周囲を囲むように指示する。宗政や美月と香苗と志織、知夜里も含む十三人が紫蓮を囲む。そして宗政が合図して一斉に紫蓮に襲いかかった。紫蓮は宗政から順に倒そうと考えた。一番隊隊長である宗政を守ろうと来る副隊長を叩き伏せて、宗政の胴を狙う。

 宗政の扱う『烈火流剣術』は上段を得意とする。よって素早い胴には遅れがちだ。自分の弱点を知っていた宗政はすぐに対応する。それは『蒼突流剣術』の技、突き技『置き突き』だった。迫る相手に置くように突く技だったが躱され胴に当てられる。

 宗政は痛みに倒れたが、康家は宗政が『蒼突流』の技を使ったことに驚いた。だが止まってる暇はない。二番隊と三番隊の隊長、副隊長とも連携を取ろうとする。それぞれの剣術の裏をかいて、まさしく打ち砕く紫蓮。


 香苗は痺れを切らして『黒天』の能力を使う。これで決めるつもりだった。康家はこれで終わるかもしれないと思った。

 だが紫蓮は易々と鬼木刀で防ぐ。そしてそれだけじゃなかった。能力を吸収した鬼木刀に指を噛んで血を吸わせた紫蓮は、『黒天』と同じ能力を使う。慌てて躱した香苗。

 美月は『羅烈』の火の大玉を放つが、それも吸収され返される。康家は『月光』ならどうだと考えたが影分身を叩いた紫蓮は、『月光』の技の分身を使い、皆を叩く。

 康家はこれが紫蓮の狙いだったかと感じた。能力を全員で浴びせたらたとえ紫蓮だろうと敵わない。だが能力を吸収出来る紫蓮の鬼木刀なら対応出来るのだ。

 中鬼刀の能力すら意味が無いと考えた隊長及び副隊長たちは、どうすれば勝てるのかと悩む。


 志織が尋ねる。あなたはどうしてそんなに強さに拘るのか? と。それは紫蓮にとって大切なことだという。『神代流剣術』はかつて一番強い剣術として知られた流派だ。

 だが紫蓮にとって勝ったり負けたりするのが楽しかった。勝ち確なんて以ての外、勝つか負けるかわからないのが本来の勝負の楽しみだったはずなのだ。

 それがいつしか負ける訳にはいかない戦いとなっていった。鬼が現れてから何もかも変わった。

 そして自分が鬼になってから強い鬼と戦うことを楽しみに変えた。弱い人間なんて相手にならない。その後、神鬼以外の全ての鬼に勝ってからもまた飽きた。

 神鬼を殺して全ての鬼に勝てることが確定した。もう一度言う、彼にとって勝ち確なんて以ての外。だからこそ人間に化ける形で、鬼の力を封印して大鬼に挑んだ。

 人間は弱い生き物で鬼は強い相手。だからこその人としての鬼との戦いだった。それがまた崩れた。

 紫蓮は尋ねる。どこに行けば強い者との勝負を楽しめる? と。志織は言った、あんまり人間を舐めちゃ駄目だよと。

 志織は語る、人の可能性というものを。それは成長するものであり、いつも無限の可能性を秘めている。時の止まった鬼とは違うと。

 受け継がれる意志があったからこそ、『神代流剣術』もあったのではないか? と問う志織に、ならば示してみろと構える紫蓮。

 志織は康家に目配りした。その目は康家の方を向き、知夜里の方を向いた。康家は閃く。

 美月と香苗と宗政と知夜里に声をかけた康家。囲んでヒソヒソ話をする康家たちに苛立つこともなく待つ紫蓮。


 やがて話し合いが終わった後、宗政は紫蓮の後ろ、香苗と美月はそれぞれ側面、康家と知夜里が紫蓮の前に立つ。

 康家の合図で一斉に紫蓮に向かう。紫蓮はまた同じやり方かと、宗政から相手にする。だが宗政は前に出過ぎずやや後ろに退いて援護を待つ。側面から美月と香苗が向かう。

 紫蓮は一回転する回転斬り『一歌』を放ち対応する。後ろから康家が来るので先に康家に対応しようとした。

 康家も深く攻撃してこない。そして今度は知夜里が来た。紫蓮は眉を顰める。知夜里の『神代流剣術』はまだ未熟だ。だが知夜里は突っ込んでくる。

 知夜里では相手にならない。そう思っていた。だが知夜里の剣は意外に重く、手加減してはいけないと感じた紫蓮。

 打ち合う紫蓮と知夜里に好機と見て宗政が上段の斬りを放つ。躱しながら後ろ回しに斬る『後天』で宗政の顎を打った紫蓮は、更に横から来る香苗と美月を回転斬り『回天』で凌いで、止まったところで突き技『蒼突』を放つ康家の刀を持つ手を打った。

 その時にはもう飛び斬り『飛天』を放っていた知夜里には紫蓮は対応できなかった。咄嗟に頭を庇おうとしたが間に合わない。

 脳天を斬られて紫蓮は死んだ。歓声があがる。知夜里の勝利だった。


 知夜里はまるで人間のように鼓動する心臓の音に驚いていた。そして師匠である紫蓮に多対一とはいえ勝てたことに喜びを感じていた。

 紫蓮は一鬼になった。そして両手を挙げた。降参を示すそのポーズに、皆が笑った。

 一鬼は暫くしてから紫蓮に戻り、知夜里の元に行った。知夜里の頭を撫でた紫蓮は、志織の方を向く。

 紫蓮は問う。これは人間の勝利なのか? と。志織は笑って言った。知夜里もまた人間の味方となり人の生き方を取り戻した者ではないか? と。そして、紫蓮もまた人の生き方を取り戻した者であったのではないか? と。

 その言葉に知夜里は頷いた。鬼ではなく人として生きる道も悪くない。そう思った紫蓮は、知夜里にこのまま鬼の力を封印したままでいるかどうかを尋ねた。

 知夜里はもう鬼として生きるのではなく、人として生まれ戻りたいと言った。それは鬼の肉も食べないということか。

 だが絶対に腹は空く。それを我慢していては誰にも勝てない。腹が減っては戦ができぬ。紫蓮は知夜里にいつか人間に戻れる日が来るまでは鬼として鬼を食い続けろと言って、知夜里の頭を再び撫でた。

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