第8話「黒天狗のいる森へ向かう」
鬼狩り鬼8話「黒天狗のいる森へ向かう」
日が昇る前の早朝。眠気など感じなかった香苗は、興奮を抑えて朝食を美月と共に摂った。
やがて東支部に集まった人々は、ここより北東方面にある森に向かうため車に乗り込む。
入念なチェックと最低限の荷物に身を包み、彼らは『鬼殺街』を後にする。康家の運転する車内には美月と香苗と紫蓮が乗っていた。
南西部が手薄な理由を紫蓮がこっそり三人に伝える。ちなみに康家が作戦を組めるように情報を伝えたのも紫蓮である。
南西部は一番『鬼殺街』に近い。勿論『鬼殺街』からは距離があるし、すぐにはたどり着けないが、とにかく近い場所には鬼を配置していないそう。
逆に配置するべきなんじゃないかと言う美月と香苗に対し、紫蓮は首を横に振る。
味方を大事にする黒天狗だからこそ、そこは手薄なのだと言う。無駄死にする鬼を少しでも減らすために。
黒天狗自身に、人間なんかには負けないという自負があるからこそ、いくらでも奥にやって来いという意思表示でもある。
むしろ人間の他の街を襲いやすい位置が一番鬼が多いらしい。康家はそこにはなるべく強い人員が当たるように配置している。
勿論南西部から攻めるための南と西の配置も手を抜けない。康家と美月はせめて犠牲となる者が少ないように願っていた。
助手席の美月は康家に最終確認を行っている。後部座席の香苗は紫蓮に話しかけていた。黒天狗の能力は一体どんなものなのかと。
それに美月が答えた。それはとても想像できるものではなかった。大鬼との決戦を前に武者震いをする香苗。
だがその前にいる中鬼も厄介だと言う康家。中鬼、大鬼と分けてはいるが、その差は角の本数でしかない。大鬼は二本、中鬼は一本。小鬼は小さい角が一本だ。
角の本数だけでもかなり特殊能力や身体能力に差が出るのだが、中鬼にも大鬼のように厄介な者が沢山いる。
それらを従えるからこその黒天狗は危険度の高い鬼だと言える。
車を何時間か走らせて到着した森は不気味な雰囲気を醸し出していた。ここからは徒歩だが、まず全部隊のそれぞれの配置に到着の合図を待つ。
やがてそれぞれの部隊から連絡を受けた康家が全部隊に向けて作戦開始の号令を端末から伝える。
森を囲うように隊員たちが進軍する。小鬼たちに気づかれるが隊員たちは問題なく処理していった。無理はしない。無駄死にするなと強く言われている。
黒天狗の部下たちに手こずる隊員たちも多くいた。特に新人として参加した者たちは小鬼の処理ですら苦戦した。
だが互いに励まし合い、一匹ずつ殺していく。隊員たちも森の最初の段階ではそこまで苦戦しなかった。
紫蓮たちは南西部から突入する。鬼はいない。気配もない。だが奥に進んでいた時、不意にそれぞれの頬が切れた。
康家は紫蓮に確認する。紫蓮は恐らく感知のために黒天狗が置いたものだろうと推測した。
更に奥に進もうとした時、奥から一匹の中鬼が現れた。
やはり気づかれたようだと紫蓮は言った。その中鬼は腕がノコギリのような形をした鬼だった。大木を切り倒し、まるで石を投げるかのように飛ばしてくる中鬼。
紫蓮は大木を鬼刀『紫鬼』で簡単に切り払い、中鬼を攻撃する。ノコギリの手で防ごうとするその中鬼だったが、『紫鬼』の前では無駄だった。
両手を斬り落とした紫蓮はその中鬼の首を斬る。同時に鬼の脳を斬った。
あまりの素早い動きについていけない美月と香苗。やがて小鬼が集まってくる。紫蓮は、雑魚は任せると言った。
前から来る中鬼は岩石を飛ばしてきた。紫蓮はそれを『紫鬼』で斬る。普通の鬼刀であれば流石に折れていたかもしれないが、刃こぼれ一つもない『紫鬼』に改めて康家は惚れ惚れした。
紫蓮にとっては一鬼であった自分の腕三本分を材料に使った刀だ。当然の芸当であり、信頼をおける相棒のような刀である。
岩石を投げてくる鬼は体も岩のようにボコボコしている。岩を切り裂きながら距離を詰めた紫蓮は、その中鬼を仕留めようとしたが寸での所で止まり、空から奇襲をかけてきた鳥のように飛び回る鬼の爪を回避した。
更に地面に潜っていた
集まってくる小鬼と、動物が鬼にされた動物鬼の猛攻に美月と香苗は必死になって抵抗する。康家は対処しつつも全体を見ていた。
中鬼の連携は完璧だった。最初に現れた中鬼がいればもっと苦戦しただろう。加えて他の場所で暴れている中鬼たちがいたならば、たとえ紫蓮であろうとも敵わなかったはず。
だが現在の状況ならば苦戦はしても負けはしない。紫蓮はまだ使うべきではないと考えていた。それは『紫鬼』の能力。手の内を明かすべきではない。少なくとも黒天狗と対峙するまでは。
紫蓮は叫んだ。その内容は美月と香苗に全力を出して欲しいというもの。美月と香苗は頷いて、自分たちが持つ鬼刀に自分の血を吸わせた。
香苗が今回持ってきた鬼刀『
康家は後方支援として立った。美月が今回持ってきた鬼刀『
康家が土竜のような中鬼を引き受ける。その隙に紫蓮が岩石を投げてくる鬼に迫った。
岩石を投げる鬼は構えた。紫蓮を叩いて砕こうとした岩鬼は腕から真っ二つにされる。それを助けようとした鳥のような鬼に美月が斬りかかる。
また岩鬼も紫蓮によって首を斬られ頭を潰された。
土竜のような鬼は康家を地面から攻撃するが、康家は鬼刀で斬りつけた後、自分の血を吸わせた。
康家の持つ鬼刀『引道』は、斬った血を引力によって引っ張る。土竜のような鬼は地面から引き摺り出され、為す術なく康家に殺される。
ここまでは順調だった。他の隊員たちもなんとか粘り、勝利までは挙げないものの引き止めることに成功していた。
そして遂に黒天狗が動いた。中鬼四体の死を嘆き空を飛んだ。人間共を殺してやると意気込み紫蓮たちの元へ向かう。
紫蓮はそれに気付き、美月と香苗に少し退がるように言う。二人は康家のところまで退る。
森の上空から舞い降りてくる姿はまるで黒い羽を纏った堕天使のよう。黒天狗はゆっくりと地面に降りていき、少し浮いてその場に着いた。
紫蓮は黒天狗に何故攻撃してこないのか? と尋ねた。それに対して黒天狗は微笑した。貴様らなんていつでも殺せるからと。
康家は黒天狗に質問する。人牧場が未だに機能してるにも関わらず、何故人里を襲うのか? と。
人間側にとっては人牧場も放置できない問題だったが、それでも肉に困らないなら人里を襲う必要はない。
黒天狗は大笑いした。そんな事は黒天狗にとって些細なことだったからだ。黒天狗は答える。鬼は退屈していると。
鬼は人を襲い食う事を楽しみとして生きている。だから町を襲うのだ。
康家が聞いていた黒天狗とは違う、残虐で残酷な黒天狗の鬼としての解答。それを聞いた康家はため息をついて紫蓮に命令……いや、依頼をした。
黒天狗の討伐。仮物とはいえ人間としての紫蓮と、黒天狗との戦いが始まる。
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