鬼狩り鬼

第35話「山丸童子と再戦」

　夜が明けて日が昇る。日が昇ると同時にドローンが飛んでいた。人が昔作った最新のアレには人間の肉が積まれている。

　人牧場から送られる人間の肉。あれを何とかして止めないといけない。人間は家畜であるべきでないのだ。

　堕とすか？　と問う紫蓮に康家は首を横に振る。ドローンも正しく使えばいいだけのこと。壊す必要はない。

　山丸童子のところへはニャーコのミサイルで行くのかと尋ねるカゲチヨ。因みにカゲチヨとトウコは留守番。志織とチヨ婆と堅爺も当然留守番。知夜里も留守番しろと言った紫蓮はニャーコをトウコに預けた。

　歩いていくと言った紫蓮について行く康家と美月と香苗。知夜里は紫蓮の元に走り寄り、頑張ってねと言った。

　頷いた紫蓮は知夜里の頭を撫でてやり、再び歩き出す。同じ道順を辿り人牧場に着いた紫蓮たちは、外から様子を伺う。

　紫蓮は囮になると言って牧場の真ん中まで走っていって、大声で叫んだ。マヌケ童子出てこい！　と。代わりに中鬼が出てきたことに対して、トウコの言う通りだったなと思った紫蓮は、中鬼と戦う。

　引力と斥力を扱う中鬼は走ってくる紫蓮に反発する斥力を使った。押し返される紫蓮はクルクルと回りながら効果範囲外まで抜け出し更に近づく。

　今度は引力で紫蓮を引き寄せた中鬼。勢いよく転びそうになる紫蓮に火を吐く中鬼が火炎を放つ。咄嗟につま先で地面を叩き回転しながら避ける紫蓮。

　更に手が鉄のムチのようになっている中鬼の攻撃から掴まれないように躱し、反撃する。微塵切りのように細かく手を斬り裂いていく紫蓮に慌てた中鬼は逃げた。

　それを見た奥にいた山丸童子がその中鬼を衝撃波で叩いた。心臓が潰れた中鬼は悲痛な叫び声をあげる。回復したら戦えと言う山丸童子に震えた中鬼たちは必死になって紫蓮を襲う。

　だが紫蓮はまず引力と斥力を扱う中鬼を狙った。能力の範囲外に出ては走り寄る紫蓮に、敵わぬと逃げる中鬼。火を吐く中鬼が間に入って守る。

　ならばと火を吐く中鬼を、火炎を避けながら斬った。痛みに悶える中鬼の首を斬って頭を割る。

　引力と斥力を扱う鬼は面倒だと思った紫蓮は、鉄のムチを扱う中鬼を狙う。当然そこには山丸童子がいる。

　行けと言う山丸童子に逆らえない中鬼は、ヤケクソで紫蓮に突っ込んでくる。

　回転斬り『回天』で中鬼の心臓部を斬った後首を斬り、そのまま脳をスライスした紫蓮。止まった紫蓮は山丸童子を見上げた。

　巨体の肉体だが恐れることはなかった。まだアイツがいるだろう？　と引力と斥力の鬼を指さす山丸童子。その通りだなと言った紫蓮は山丸童子を無視して中鬼を討伐に向かう。

　中鬼は俺はもう何もしないから山丸童子と戦ってくれと命乞いをする。何もしないならそのまま死ねと言う紫蓮にヤケを起こした中鬼は必死に抵抗する。

　だがその中鬼には引力と斥力は同時に起こせなかった。そして効果範囲もある程度決まっている。人に対して無敵に思われる中鬼以上の能力も、タネさえ分かっていれば回避出来る。

　あの外国に旅に出た大鬼程の能力ではない。この程度なら対処できる。そう思った紫蓮は近づいて首を斬り落とした。頭も潰す。

　山丸童子は拍手した。そして歩いて来てこう言った。俺もお前の仲間に入れてくれと。カゲチヨを従えたのが紫蓮だと思った山丸童子。手を差し出してくる。瞬間、その手を紫蓮は斬り裂こうとした。

　スグに引っ込めた山丸童子はバレていたかと舌を出した。手には衝撃波を込めていたのだ。紫蓮がその手を差し出せばへし折っていたところだ。

　紫蓮も舌打ちする。鬼刀『紫鬼』で斬れていれば能力を発動できた。あの衝撃波は少し厄介だ。

　勿論、山丸童子の身体能力の方が厄介だ。山丸童子は相撲の立合いのポーズをとる。そして突進してきた山丸童子。

　紫蓮は居合いの構えをとって集中した。そして突っ込んでくる山丸童子の腹を、居合斬り『一心』で斬った。

　衝撃波を飛ばす余裕もなく斬られた山丸童子は上半身と下半身が二つに分かれて慌てふためく。だが追撃してこない紫蓮を見て、急いで体をくっ付ける。

　紫蓮はお前の力はこの程度か？　と問う。顔を赤くして怒る山丸童子は、立合いの構えをとって、全力で突進してくる。

　馬鹿の一つ覚えだと笑った紫蓮だったが、山丸童子はジャンプした。紫蓮の真上から衝撃波を飛ばしたのだ。

　それに対して既に『紫鬼』に血を吸わせていた紫蓮は能力を使い衝撃波で返す。

　驚いた山丸童子。それは一鬼の能力。紫蓮が一鬼だと知らない山丸童子は、紫蓮は一鬼も従える人間なのかと錯覚する。

　従えているのではなく同一人物なのだが、どちらにせよ一鬼が人間の味方をしている事に気付いた山丸童子は、慌てて頭を下げる。

　上下関係に拘る山丸童子は、弱い者を虐げて強い者に媚びへつらうのだ。

　それを見て笑った紫蓮は弱肉強食ならばここでお前も死ぬべきじゃないのかと言う。

　絶望の表情をした山丸童子は全力で走って逃げた。それで逃げられると思っているのかと言って走る紫蓮。準備していた康家と美月と香苗が紫蓮と共に四方から取り囲む。

　鬼刀『黒天』と鬼刀『羅烈』の能力を見た山丸童子は皆やられたのかと震えた。そして康家の持つ『月光』の能力だけ分からなかったから、そちらが穴だと思って突っ込むが『月光』もまた大鬼刀。

　勝ち目も逃げ場もなくなった山丸童子は追い込まれる。紫蓮が跳んだ。跳躍して頭を狙う斬り『跳び割り』で山丸童子を仕留めに行く。

　山丸童子は決死の覚悟で真剣白刃取りをしようとした。勿論衝撃波も加えて。紫蓮は振る腕に力を込め渾身で『紫鬼』を振る。

　山丸童子の真剣白刃取りは失敗に終わった。頭から股まで真っ二つになる。着地した紫蓮はそのまま流れるように構え直し心臓を斬った。

　勝利にガッツポーズをとる康家と美月と香苗。だが紫蓮はどこかつまらない顔をしていた。鬼との戦いを楽しめなかったのだ。

　それは逃げ惑う山丸童子から連想された。戦わずに逃げる鬼たち。自分を恐れ逃げる。鬼は人を食うくせに、鬼が食われる立場になると死にたくないと逃げ惑う。

　かつての人間たちと何も変わらないじゃないかと思った。勿論かつての人間たちも良い人間はいた。だが悪い人間も多かった。今は良い人間はより多いだろう。単純に鬼が生まれただけ。

　考え過ぎだ、そう思った紫蓮は『紫鬼』を鞘に収めようとした、その時だ。『紫鬼』が折れた。

　康家は慌てる。折れた刀は元には戻せない。一度、山丸童子の肉をカゲチヨたちのところに持って帰って話し合おうと言った康家に、頷いた紫蓮は何かを考えていた。

　山丸童子の肉は脳だけをカゲチヨとトウコに分けるという形で落ち着いた。他の部位を月鬼の時にも使った圧縮鞄に詰め込んだ康家は、紫蓮に一鬼としての右腕をまた三本貰えないかと頼む。

　紫蓮は何かを考え込んでいた。そして、腕を六本渡すから新しい『紫鬼』ともう一つ作って欲しいものがあると言った。

　康家はその話を聞いた時、そんな物何に使うんだと訝しんだ。紫蓮には考えがあった。

　人間の味方としてこれから生きていく上でそれはとても大切なことだった。そもそも紫蓮は人としては一度死んだも同然なのだ。

　鬼に生まれ変わった彼が鬼と同調しなかった。それだけでは勿論ないし、人のために戦うのも悪くないと思っていた紫蓮。だがそれは強い者を倒すという目的があったからだ。弱い者を倒すためではない（・・・・・・・・・・・・）。退屈なのはごめんだ。鬼の心臓と脳を破壊されない限り永遠を生きる彼にとって、退屈こそが天敵だった。