第38話

 朝食。僕は関係が進展したことについて皆さんに説明した。


「ふーん。それで、二人はお付き合いをするってこと?」


「えっと……その方向で進めています……」


「どっちが先に告ったの? まさかこの期に及んで光葉さんから言ったなんてことないわよね? 男としてダッサいことするわけないわよね?」


「さすがにそこは僕からですよ。これは譲れません」


「よく言った」


 なぞの称賛をもらったはいいが、やはり朝食時に報告するのは間違っていたのだろうか。皆さんが丹精込めて作ったご飯になど目もくれず、一心に僕と光葉さんの話題になっているのだ。


 光葉さんは話の中で答えなくちゃいけないことはあるが、あなたの場合は食べてていいんだよと言ってあげたくなった。なんだか申し訳ないし。


「ささ、皆さんは食べながらでいいですよ。ほら、光葉さんも食べてください」


「いただきまーす。それじゃあさ、お兄さんはこれからどうするわけ? ずっとここに居るってこと?」


「ええ、そういうふうにしようと思っていますけど」


「それならなおさら職に就いたほうがよくない? ずっとアルバイトでフリーターとして生きていくなんて難しいに決まってるし、おばあちゃんが元気になれば管理人もしなくていいわけだし」


「ゔっ……」


「あららー。ダメージが強かったかなー」


 考えたくなかったけど、雪斗さんの言う通りで僕はとっとと手に職を持たせたほうがいい。ほうがいいというより、そもそも持たせるべきだ。そうでなければ僕はおそらく光葉さんにフラレそう。


 彼女だってこんなだらしなくて無職の元ヒキニートを彼氏として持ちたくはないだろ。


「就職します……」


「うんうん、それがいい」


「できなければどこかで雇ってもらいます」


「なにそれどゆこと」


「誰かの仕事場でのサポートとかしたり、色々と一緒に仕事したりするんですよ。というか僕が今現在やっていることがそれなんですよね」


「やってること? バイトとは別に?」


「はい。曲を作って、友達に歌わせます。そしてその友達の収益を少なからずもらいます」


「いわゆる作詞作曲をやってるんだ。すごいねー」


 信じてなさそう。まあでも信じても信じなくてもどうせ変わらないし、何も関与されないのであれば好都合だ。


「その友達っていうのは誰なの? アンタの友達なら二人しか知らないわけだけど」


「えっと、海の時にいましたよね。赤兎っていうやつなんですけど」


「え、あの人ってお金もらえるほどの有名な人なの?」


「そうですよ。ヒップホップならかなり有名だと思います。というか僕が作った曲ばっかりライブとかで披露してますしね」


「えっ、まって。その人って本名で活動してるわけじゃないでしょ?」


「ええ、赤ラビっていう名前で活動してます。ラップとか他にも普通の楽曲でも結構知名度あると思います」


 秋風さんは口を開けたまま固まった。雪斗さんも静かに驚きを表現する。


「そ、そそそ、それって、一発当たっただけでいくらもらえるの? さっき収益をもらうっていう話があったけど……」


「とりあえず僕が作りたい時に作るので依頼料は発生してませんね。でも当たったときは……そうですねぇ……。でも決して正当な報酬じゃないですよ? だって勝手に作曲してるわけですから……」


「いいからさっさと額を言えー!」


「お小遣い程度に渡してくるんですよ。『これ、今回のやつな』みたいな感じで」


「だから! 額は!」


「百万単位ですね」


 ん? なんか変な空気になってんだけど。


「光葉さん、この男は絶対に手放しちゃダメ」


「え、ええ……」


「あっ、でも家がなかった時代は金銭の代わりに居候させてもらってましたから財布はスッカラカンですよ」


「「えぇっ〜!?」」


 隣りにいる光葉さんはその話を聞いて、小さくを笑みをうかべた。優しく可愛らしく笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る