第36話 夜這いの反対は朝這い?

 目を覚ました。時計のアラームが鳴る直前だった。いつもこの時間帯に起きているからなのか、体内時計で勝手に目が覚めるようになってしまったのだろうか。


 でも4時に一度起きたぞ。あれはまあ、体内時計とかは関係なしに光葉さんの体温が加わったせいで僕が暑苦しくなったのが原因か。


 あっ。そうだ。光葉さん……彼女がいたはずだ……。


「んっ……」


「やっぱり、いるんだ……」


「スゥ……スゥ……」


「気持ちよさそうに寝てていいですねぇ。今日は休日だし、存分に休んでくださいね……」


「んぅ……」


「はぁ……。それより、なんでここで寝てるんだ……。寝ぼけてたのかな? ねぇ、どうなの?」


「うぅ……」


「反応はなしか……。じゃあ、僕は朝ご飯作りますから。まだ寝ててもいいですよ」


 布団から出て、起き上がろうとした。しかし体が動かない。寝起きだから力が入らないというのもあるが、一番の原因としては光葉さんが僕の体に抱きついていることである。腕も脚も、全てが僕の体に巻き付いている。


 でも、僕もこうやって抱きついてしまったんだよなぁ……。普通にセクハラしちゃってるんだよなぁ……。訴えられるかもあとで。


 僕は横になりながら頬杖をつき、光葉さんの寝顔を見て、彼女の頬に触れる。スベスベでツヤツヤ。ぷにぷにで柔らかく、色白でキレイ。


「キレイだ……。かわいい顔してる……。すごく、すごくかわいい……。本当に美人だなぁ……」


「んっ……」


「寝顔もかわいすぎ……」


「んぅ……」


「光葉さん、マジでかわいい……。かわいすぎます……」


「うぅ……スゥ……スゥ……」


 突発的な衝動だったが、なんだか抱きしめたくなった。こんなに愛しく感じるものなのだろうか。僕は今まで生きてきて感じたことのないものだった。


 あぁ……僕って、こんなに光葉さんのことが……。


 彼女の温度を感じたい。彼女の匂いを感じたい。肌で、五感で、彼女のいろいろなものを知りたい。変態的な考えなのかもしれないけれど、でもこんなふうに思ってしまうものなのだろう。


「光葉さん……」


「ん……」


「失礼します……」


 彼女の体に手を這わせ、そして抱きしめた。向かい合ってる状態だからか彼女の寝息が耳元に届く。くすぐったい。


「まだ寝てますか……?」


「スゥ……スゥ……」


「それとも起きてますか……?」


「んぅ……」


「すみません……こんなの、キモいですよね……。じゃ、じゃあ、僕はもう起きますから……」


 動こうとした時、光葉さんは僕の首根っこに腕を回して止めてくる。それだと本当に動けないのだが、彼女は寝息のまま続けて、覆いかぶさるようにして僕の体の上に乗ってきた。


「あの……光葉さん……?」


「んぅ……スゥ……スゥ……」


「それだと動けないんですけど……」


「スゥ……スゥ……」


「あのー……。起きてますよね……?」


「んっ……スゥ……スゥ……」


「寝たフリしてもダメですよ。分かりやすすぎます……。流石に僕でも分かりますよ……」


「んぅ……!」


 光葉さんは起きている。これはもう確実に目を覚ましている。目を開けられてはいないのだが、しかし完全に確実に起きているのは分かる。


「はい、じゃあ起きますよ。ご飯の準備ですから」


「んぅ……!」


「腕に力を入れないでください。若干苦しいです」


 そう僕が伝えると力を弱めてくれた。優しい。


「ん~……」


「えっ、今度はなんですか?」


 光葉さんは体を這わせて、自分の顔を僕の顔に徐々に近づけてきた。


 そして耳元にやってきて囁く。


「夜中に……私の身体、触りましたよね……?」


 絶句した。


「私、あの時も起きてたんです……。まさか高崎さんからしてくれるなんて……。これはもうそういうことですよね……?」


「あの……光葉さん……」


「言い訳はあとから聞きます……。今はご飯を作りましょうか……」


 僕は彼女の体を抱きしめて、一緒に起き上がった。抱きしめたのは開き直ったからである。


 さて、僕は一体どうなるのだろうな。

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