第35話 夜這い② 光葉さん視点

(視点が変わります)


 ――――――――――――――――――――――――――


 少し時間を巻き戻します。昨夜、私は咲さんにちょっかいをかけられてしまいました。それも何度も何度も同じ話題でしたので、かなり不機嫌になっていたと思います。


 彼女は……咲さんは私の変化に気づいているはずなので、顕著に不自然な行動を取る私を面白がっていました。私自身も不自然かもしれないと分かっていますが、ですがこれは勝手に出てしまうようなものです。制御できないほどに、ダメと思っていても動いてしまう。


 そんな私を見てニヤニヤとしていた咲さん。なんなのでしょう……。そんなにおかしなことなのでしょうか……? 分かりません……。


「光葉ちゃん? 最近は大胆になりすぎてると思うなぁ……。変な行動をしていることもあるし、明らかに自分の都合のために慎吾くんに近づいてるわよね?」


「え……いや、そんなことないですけど……」


 嘘をつきました。簡単で分かりやすい嘘をつきました。


「いやいや……慎吾くんだって、常日頃から光葉ちゃんと一緒にいたいと思ってないかもだよ? 逆に光葉ちゃんだって、一人になりたいときってあるでしょ?」


「それは……ありますけど……。でも、私は自分の時間よりも、あの人との時間がほしい……と言いますか……なんというか……」


 またしてもニヤニヤとしている咲さん。私はそれに反応して怒ってしまう。


「むぅー……!」


「ほらほら、ほっぺたを膨らませないの。可愛いお顔がまんまるになっちゃうわよ? あっ、でも慎吾くんはそのまんまるなお顔も好きかもね」


「え……!? 本当ですか……?」


「知らなーい」


「むぅー!」


 私の怒り方は特殊なのでしょうか。咲さん以外の方にも、光葉さんは怒っている感じがしない、と過去に言われたことがあるため不安になる。こちらは本気で怒っているときもあるのに、威圧感が出せなければ意味はないと思います。


 それに怒ると、決まってかわいいと言われてしまうことがあります。なんなのでしょう。本当に不思議です……。


「そんなに慎吾くんのことが知りたいのー?」


「は、はい……」


「そんなに彼の近くでいたいのー?」


「それも……はい……」


「じゃあ、今日は添い寝でもしてみる?」


「ふぇ……?」


「言葉の通り、添い寝だよ添い寝。今夜の慎吾くんはおそらく強烈に疲弊しきっているはずよ。バイトも入れて家事もして、かなりの疲労が溜まっているから」


「でも、疲れているからって添い寝をしてくださるとは……」


 そう。限らないです。しかし私の考えは浅かった。


「まさか彼に直接伝えるつもり? 添い寝したいです、あるいは添い寝してください、って……」


「し、しません……!」


「だよね? だから……襲うのよ……!」


「ど、どこを、ですか……?」


「寝込みを!」


 咲さんの言葉にハッとさせられました。その発想はなかったです。


 疲労した体は休みをもとめるはずです。そして咲さんは夜中にもコーヒーを飲んでいるため起きていることが多いです。そこで咲さんが高崎さんを寝室に誘導し、寝静まったところで私が乱入するという作戦でした。


 できません……こんなの……。明らかな夜這いじゃないですか……。それに高崎さんは眠りたいのでしょう? なおさら一人で寝させるべきなのではないでしょうか……。


 でも……私は……。


「やります……」


「うん?」


「寝込み……襲います……。添い寝、したいです……」


「オッケー。任せてね」


 私たちは結託して夜這いを遂行しました。




 ☆☆☆☆




 それで、今はぐっすりと眠っている状態……だったのですが、高崎さんが起きてしまったみたいでゴソゴソと動いたため、それに反応した私もびっくりして目が覚めてしまいました。


 暖かい……。体全体が気持ちよくて、とても心地がよかったです。


 それにしてもどうしたのでしょうか。高崎さんは私のスマホを取って画面を見ました。おそらく時刻を確認しているのでしょう。それは私のスマホであるため、ご自身のものとはちがう壁紙が設定されているはずです。


「ん……? 4時? というか、これ僕の壁紙じゃないんだけど……」


 おや、気づいてしまったみたいです。流石に分かりますよね。


「おいおい……まじかよ……」


「う……んん……」


「なんでここにいるんだ……」


 私は毛布にくるまって聞いているしかできません。寝ているフリをするのは気が引けますが、彼がどんな反応をするのか気になってしまいそのまま続けました。


「ッ……。み、光葉さん……」


「スゥ……スゥ……」


「……」


 私は寝ているフリを続けます。それより、いつまでそのさん付けをやめてくれるのでしょうか。私は呼び捨てでも良いと思っているのですが……。


「やっぱり、キレイな顔してるなぁ……。かわいいです……美人です……」


「ん……んぅ……」


「向かい合ってると息があたってくすぐったいな……。仰向けになろう……」


 自爆しました。反応が気になるなどと自分の欲望に身を任せるとこうなります。私は体温の上昇が彼に悟られないために、必死で自分を静まらせました。顔も熱い……。恥ずかしさでおかしくなりそうです。


 でも……でも……。もう少しだけ……彼の近くで温度を感じたい……。


 そんな考えをしている私は、きっと重症なのでしょう。彼は男性で、私は彼に分かりやすく好意を伝えようとしている。でもそれは自分自身では考えてなくて、勝手に近くに行こうと思ったり、彼と一緒のことをしたいと思ったり、そんなことを頭で思い浮かべた瞬間に行動に移しているのです。


 周りが見えていないくらいに、私は彼のことが……高崎さんのことが……。


 もっと、近くに……。


 私は大きく体がを動かしました。当然胸が当たる距離。腕を彼の体に這わせ、脚には同じく脚を絡ませました。彼の大きな太ももが私の足の付け根……股のあたりに当たってしまいました。少し……変な気分になりそうです……。


「スゥ……。フゥー……フゥー……。スゥ……」


「まじで待ってくれよ……これは本当にやってるやつだよ……」


「フゥー……フゥー……。んっ……」


「はぁ……」


 さきほど高崎さんは息が当たるのをくすぐったく感じていました。私はそこで、もっとくすぐったくしてやろうと思い、口の近くにあった耳元に息を吹きかけました。わざとらしくないでしょうか……。


 ですがバレることはありませんでした。あくまで眠っていると踏んでいるのでしょう。実際には私が自分で動いているのですが。


 もっと肌で感じたい。もっと彼をドキドキさせてみたい。そんな好奇心が興味が私を次の行動に移させます。


「んっ……しゅ……」


「ん?」


「しゅきぃ……れすぅ……」


 言った。言ってしまいました。ついに、ついに言葉に表してしまいました。それも彼に直接、耳元で……。


 心臓が動きすぎて破裂しそうです。爆発しそうな私の体は、もう元には戻らないでしょう。はぁ……本当に、言ってしまった……。朝になって顔を見合わせた時に、どんな顔をしましょうか……。赤面するのは想像できます……。


「……」


 反応がありません。まさかこのタイミングで聞こえてなかったのでしょうか。いいえ、そんなことはないはずです。


 それなら私は……もっと特大のことを……。


「んっ……チュ……」


「えっ……?」


「んっ……スゥ……スゥ……」


 耳元に口をつけました。さてこれではどうでしょうか。体に這わせた腕を動かして、心臓に手を当ててみました。ドクンドクンと、私ほどではないですがとてもはげしく動いています。


 ですが、私も恥ずかしいのは同じです。いや、私のほうが恥ずかしいですね。こんなふうに優しい性格をいいことに色々とやって……。しかも彼は私に何もしてこないです……。


 私、今すごく嫌なことしてますね……。


「光葉さん……」


「んっ……」


 なんでしょうか。無言を貫き通します。


「流石に……我慢できません……」


 その言葉と同時に、彼は私の体を抱きしめました。


「んっ……! んっ……」


 このまま……もう一度眠りにつきたいと思ったのでした……。

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