第17話 海に行こう!②
「ところでこんなに良い車を持ってる人にどんな頼み方したんですか、高崎さん? 普通じゃ移動手段として使えるようなものでもないと思いますけど……」
「色々とあったんですよ、色々とね」
「もしかして自分の臓器と引き換えに!?」
「そんなにグロテスクな等価交換あります!? そんなわけないじゃないですか!」
「似たようなことですか?」
「似たようなことでもありません。普通にお願いしただけですよ……」
時雨さん、物騒なこと考えやがる。突然喋ったと思ったらなんなんだよ、臓器と交換って。どういう条件なんだよ、それ。
「分かった! 土下座したんでしょ!」
「……」
「ありえそう!」
「僕のどんなイメージから、この人は土下座しそうだなー、なんてことを考えるんですか……」
「じゃあどうなのさぁ!」
ひょっこりと後ろの座席から身を乗り出す雪斗さん。ちゃんとシートベルトを付けて安全に座ってなさいよ、危ないから。
「お願いした、ただそれだけです」
「えぇ〜……。つまんない……」
「どこに面白さ求めてるんですか……」
すると雷牙は落ち込む雪斗さんにスマホを渡した。運転しながら後ろ手に物を渡すなど、どこまで起用なんだコイツ……。
「土下座ってわけではないかもしれないけど、ある種土下座に似たようなものかもしれないから。この男の言うお願いしたがどういったものかは、写真を見てくれると分かると思うぞ」
「は、はい……。これって、お兄さんの写真ですか……? もしや自撮り?」
「ふざけたお願いの仕方だろ? マジで轢き殺したくなるツラしてて腹立つよ」
その写真は僕が雷牙に送ったもの。両手のひらを合わせて真顔で自撮りをしたというもの。至ってシンプルなお願いの仕方だと思うが、何をそんなに怒ってるんだよ。
車内で響く笑い声。どうやら僕の写真がおもしろおかしくて笑ってしまっているらしかった。特に笑っているのは雪斗さん。腹を抱えて苦しそうになっている。時雨さんも控えめながらケラケラと笑っていた。
光葉さんは相変わらず静かに笑っている。三人とも、どこがそんなに面白いんだ。
「おもしろ〜! 何このお兄さんの顔〜! 真面目な顔してるのに、これはムカつくよぉ〜!」
「大爆笑じゃないですか……。人の顔のことを悪く言ってはいけません」
「マジな話だろ。この顔で『車乗せて〜』なんて頼んでたら腹立つわ。ふざけすぎだろって怒る」
「そんなに!?」
「あと一番ムカつくのはな、この写真を深夜の2時とかに送ってくるってところだ。寝てるわ!」
また車内で笑いが起こった。僕はふてくされながら窓の外を見ていた。
☆☆☆☆
到着した。磯の香りが鼻を通る。
「はぁ? なんじゃここ! 駐車料金取るのかよ!」
「海水浴場ならどこもそうだろ……。今は昔と違って車を止めるだけでもお金を払わないといけなくなってんだよ」
「海なんて大人になってから行ってねーよ。ガキの頃ならガンガン遊びに行ってたけどな」
懐かしい。よく地元の海水浴場で遊んでいた。泳いだり、バーベキューをしたり、花火をしたりしてよく騒いでた。それももう六年前になるのか。時の流れは早いなぁ。
「時間って早くね」
「僕も今思った」
「でもお前は空白の時間があるから、常人と違ってもっと短く感じてんのかもな」
「それもあるだろうな……」
「ごめんって」
「別に怒ってない」
女性陣は早くも浜辺に向かっていった。僕と雷牙は駐車場の料金の確認をして車を停め、トランクの中から結構大きめのサイズのテントを取り出した。
「男は準備してねぇ〜。女子たちは遊んでおくから」
「おい待てよ! なんで俺たちだけ―――って、聞いてねぇ……」
雷牙の奥さんは女性陣みんなと賑やかに浜辺に歩いていく。尻に敷かれるってこういうことなのか。
そうしてすぐにテントを立て、荷物の整理をしたあとに女性陣と合流した。
「はぁ……。あのテント大きめだったから、準備するの疲れたんだけど……」
「アンタが選んだんでしょ? 文句言わないでよ」
「おまっ……! キツかったんだぞ……!」
「タバコの吸い過ぎで体力落ちてんじゃないの?」
「……すんません」
「吸ってもいいけど、この子の近くで吸わないでよね。ここのビーチは喫煙所が遠いから、誰かに子守まかせてから吸ってよね」
「はいはい……。それはまあ、慎吾がやってくれるから」
雷牙の子どもは僕を見た。不思議そうに見つめてきているが、これは赤ん坊特有のとりあえずじーっと見るという行動だ。よく知らないけど多分そんな感じ。
すると奥さんは赤ん坊を僕に渡してきた。
「ああそう。ならいいわ。アンタたちで交代交代で子守と荷物の監視しなさいよ。海って置き引きが多くて怖いのよねぇ……。やってくれるわよね?」
「「はい……」」
「よかった。じゃあ女子のみんな! 泳ぐわよぉ〜!」
わーい、というはしゃぎ声を聞きながら、僕は雷牙の子どもを抱いてブルーシートに腰掛けたのだった。
女性陣はみんな海の方に向かったとばかり思っていたが、僕と赤ん坊、そしてタバコの箱を握って不満そうな顔をしている雷牙がいるテントの中に入ってきた女性いた。
「赤ちゃん、可愛いですね……」
「光葉さんは泳がないんですか?」
「私、水泳は苦手なんです……。浮かぶだけならできるのですが……」
「でも、泳ぐ以外にも楽しむことはできますからね! こうやって眺めてるだけでも十分ですし」
「あなたはどうなんですか……?」
「僕ですか? いやいや泳ぎませんよ。みなさんが楽しめればそれでいいですし……」
「そうですか……」
太陽光が反射して海がキラキラして見える。数年ぶりに夏を感じた。
「……俺、邪魔か?」
変な気を遣うな。それこそ気まずくなるから。
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