第2話 僕が管理人?

「あ、叔父さん」


「ん? あぁ、慎吾か……。どうかしたか? それより母の……あ、いや、ばあちゃんはお前になにか言ってたか?」


「え? 別に何も……。病院には行かないって言ってたくらいかな? それ以外には特に何も」


「まだそんなこと言ってるのか? 明らかにあれは捻挫の症状に間違いないのだから、私の医院で診てやると言っているのだがな……。本当に頑固なばーさんになっちまったな……」


「もともとおばあちゃんは病院とかがあんまり好きじゃないみたいだけど、さすがに叔父さんから見てもかなり痛めてるのかな?」


「ありゃ治るの相当先だぞー。まったく、これからどうするかだな」


「どうするかって、おばあちゃんの生活のこと? 叔父さんがおばあちゃんに付きっきりはできないから、僕がここに呼び戻されたんじゃないの?」


「ちがう。下宿の管理人のことだ」


「え? 下宿? なにそれ、僕そんなの知らないんだけど……」


「はぁ? あ、あ〜……そっか、お前知らないんだったか……」


「ちょっとまってよ。げ、下宿? 下宿ってあの下宿? 部屋とかを学生とか他の人に貸してるっていう、あの下宿?」


「そうだ。お前の想像してるちゃんとした下宿だ。だぁー、クソッ! 親父、死ぬ前に説明しとけよ!」


「ごめんね叔父さん……。僕一つもそんなこと知らないから、一から説明できるかな?」


「一から? 簡潔に説明してやる。親父……だからお前のじいさんか……。あの人がぽっくり行っちまう前に、何を思ったのか下宿を始めやがったんだよ。それなりに経営できてるから何も言えなかったんだけどな」


「か、簡潔すぎるなぁ……。まぁでも理解はできたよ。僕がヒキニート時代で何も知らない間に、そんなことしてたんだね。じゃあ今のその下宿の管理人はおばあちゃんってこと?」


「他に誰がいるんだ。んで、その人が今怪我しちまった。さてどうする?」


「……えっ?」


「管理人がいない。さてどうする?」


「も、もしかして僕が……やるってこと……?」


「他にやるやつがいないから、強制的にお前になる。話は終わりだ。明日から下宿の人たちに朝飯作ってやれよー」


「……えっ、ちょっ……えっ?」


 慎吾は管理人という職を手に入れたのだった。




 無事にヒキニートから下宿の管理人に昇格した慎吾は、まずは居候先である赤兎に連絡を入れた。




「もしもし赤兎? 僕だよ」


「んー? おう慎吾、ばーちゃんどうだったよ?」


「えっとね、転んで捻挫しただけだってさ……。あはは……」


「はぁ? それだけ? それだけでなんでお前を呼び戻す必要があんだよ? それともあれか、かなり怪我しちゃってるとかかよ?」


「まあそんなところだよ。おばあちゃんの面倒を僕が見なくちゃいけないらしくてさ、当分の間はそっちに帰れない……というか、もうそっちに帰ることはほとんど無くなるのかな?」


「へっ?」


「結構重症らしくてね、命に関わることではないんだけど、生活に支障が出てくるかもだからこれからはこっちに付きっきりになる。そういうことだからさ、僕の荷物とかを送ってほしいんだよね」


「ちょっと待てぇい! えっ、じゃあ何? 今後は俺が飯作るの? 掃除も洗濯も? 家事全般? ムリムリムリムリ! できるわけないだろ!? てかその前に食べ物なくなって俺死んじゃう!」


「今日はこっちに泊まるの確定してるし、下宿の管理人として明日の朝ご飯も作らないといけないし……ん? でも待てよ? 明日は普通に平日だし、もしかしたらお弁当とかも作らないといけないのか?」


「あ? なんの話してんだお前……。とにかくお前がいねぇと俺が死んじまうってわけだよ、たのむから帰ってきてくれ……。それより管理人ってどういうことだよ!」


「う〜ん……ごめん無理! じゃあね!」


「あっ、おい! 待てコラ、管理人ってなん―――」


 すぐに通話を終了した。


 このまま話していると毎度のごとく『ご飯作ってー』と言われる予感がした慎吾。さすがにこの状況で一度赤兎の家に帰ってから、またこちらに向かうのも苦しいしなによりしんどい。祖母の面倒も必要だし、今日から下宿の管理人になるしで、慎吾のとっては本当に色々とあった一日だった。


 一旦今は休憩しよう、慎吾はそう思い家の中に入ろうと歩き出す。祖母の家は声が通りやすく、うるさくしないように外で通話をするのが基本なのである。


 通話が終わり玄関に向かう途中、後ろから少女の声がきこえてくる。


「あれー? 不審者さーん? そんなところで何してるのー?」


「え……」


 キョロキョロと辺りを見る慎吾。しかし少女は指を指してどこにいる者に向けて言っているのかを簡単にあらわした。


「そこにいるお兄さんだよー。見ない顔だし、もしかしてストーカー? たしかにここにはかわいい女の子しか住んでない下宿だけどさ、これは正々堂々にもほどがあるよー。ま、悪い気はしないけどね〜!」


 指した指を慎吾の胸のあたりにチョンと付ける。姿はスカートにブレザー、おそらく近くの高校に通う女子生徒。大胆にもスカートの丈は改造して、太もものを強調している。髪型はボーイッシュ、茶色がかった髪の毛は光沢があってかっこいい。顔立ちもキレイで、どこかシュッとしている。


「や、やっぱりここって下宿なんですね……。ん? かわいい女の子しか住んでない……っておっしゃいました?」


「言ったよー? なぁになぁに? もしかして本当にストーカーさんだったのかなー? やっぱり不審者だー! 逃げろ〜!」


「あっ、ちょっと!」


 少女は走り出し、勢いそのままに玄関の引き戸をガラガラとスライドさせて、慎吾を締め出すようにすぐにピシャリと閉じてしまった。


「なんだったんだ……っていうか、なんでこの家に……まさかそういうことか!?」


 慎吾も後を追おうとしたが、直後に叔父の一郎に下宿のシステムや税金やら、その他のもろもろのやらなくちゃいけないことを黒色の高級車の車内で教え込まれてしまった。


 最後に家計簿を渡され、一通り目に通したあと、歯ブラシや下着や服などを買いにショッピングモールへ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る