第20話 海とナンパ男
「焼きそばうっまぁー! 出来立てだからあっつぅー! こんなんじゃ内から体が温められちゃうよー!」
「それにしても今日は暑いわよねぇ。日差しも強いし、日焼けしちゃうの確定してるわね」
「あれ? みんな日焼け止めクリーム塗ってるよね? さすがにこれだけの日差しだと、日焼けで肌が赤くなって痛いはずだよね」
「そうねぇ。でも、あら? 雪斗ちゃんは日焼け止め塗った? 私、塗ってる姿を見てないのだけれど……」
「あ、それならアタシも見てないかもー! 下手したらもう日焼けしてるかもね、咲さん!」
「肌を傷めなければいいのだけど……。心配だわ、あの子結構忘れっぽいから……」
咲さんと秋風さんが雪斗さんのことについて話していた。日焼け止めをしないと、このカンカン照りの天気では確実に日焼けをしてしまうだろうなぁ。女性って日焼けをあまりしたくないから、みんな同じような考えなのだと勝手に思っていた。
雪斗さんはどうなのだろう。スポーツをやってる彼女なら、日焼け止めなどしないようにも思う。
「ゆきー、アンタ日焼け止めした?」
「え? してないよ?」
「やっぱり……。なんかちょっと既に日焼けしてるような跡が……。あーあ、真っ白できれいな肌が赤くなっちゃうわよ?」
「えー? 別にいいよ日焼けくらい。外にいたら誰だってなるんだしさ」
「そうじゃなくて、痛い思いするわよって話よ!」
「え、なにー? 梨花ちゃん、僕のこと心配してくれてるのー? やっさしー!」
「いや、そんなんじゃ……! まあ、そういうのもあるけど……って、くっつかないでよ暑苦しい!」
「んふふー! 梨花ちゃんツンツンしてるから、そういうデレが見れて僕うれしいなぁー!」
「なっ! ちょっ、からかわないでよ! もう!」
「あっはは! 怒ったー! にげろー!」
「こらー! 待ちなさいよゆきー!」
走り出す雪斗さん。それを追う秋風さん。二人してまさに青春の真っ最中とでも言える光景だ。なんとも美しい。
やっぱり仲がいいな、あの二人。僕もああいうスキンシップが取れる存在が居てほしいものである。……でも待てよ、僕の場合は相手が男だから男同士でいちゃつくというわけか。
「オエ〜……」
「大丈夫かよ慎吾」
「いや、なんでもない……。気分が少しね……」
自分で想像して自分で具合を悪くしてしまった。ゲロの自家生産だ。
しかし男同士なら気分が悪くなるが、相手が女性だった場合はならないよな。やはり異性といちゃつくことがしたいという僕の意思の現れなのだろうか。
それなら女性の相手なら誰だろう。
「うーん……」
「ペロペロ……」
無意識に光葉さんを見てしまっていた。
「ん?」
「ペロペ……」
目があった。完全に彼女の目はバッチリと僕を認識した。
「プイッ……」
最悪だ。
キモかったよな僕。やっちまった。
☆☆☆☆
腹を満たしてからまた海に戻る。僕はみなさんが食べた焼きそばのプラスチックのパックを回収して、まとめてビニール袋につめた。このままゴミ箱に入れるほうがスペースも取らないし、何よりパックは重ねて小さくすることもできるため楽なのである。
はっ! 僕は下宿でやっているゴミの縮小化を無意識に行なっていた! また意図していないのに体が自然に反応して動いてしまったということか!? なんという恐怖! 習慣って怖い!
と、まあこんな感じでまた赤ん坊をあやしているわけなのだが、あの二人が帰ってこないのである。さきほどの海の家で聞いた会話が頭をよぎった。男二人組にまさか絡まれているのではないか……。
「雷牙ー! 交代してくれー!」
「んあ? 俺これから嫁とビーチバレーを……ぶほっ!」
ものすごい勢いで奥さんがスパイクしたボールが雷牙の腹にぶち当たった。
「ビーチバレーという名の日頃の恨みをぶつけられる球技だろー?」
「ぐっ……うぐ……」
「そんなんじゃ動けないだろー? 変わってくれー、というか僕トイレ行きたいんだけどー?」
「わ、わがっだ……」
本気で苦しそうだな。あいつの方こそトイレに行くべきなんじゃないのか? あんな豪速球食らったらさっきまで食べてた物全部吐いてしまうだろ。
とにかく僕はトイレに行くという口実の元、浜辺にいるであろう二人を探すために、ようやく火の下に姿を出した。
「あっつ! 日差しつっよ!」
当たってないから分からなかったが、こんなにジリジリと焼かれるような日差しだったのか……。上半身はTシャツなわけだが、これだと変な形で日焼けしてしまいそう。日焼け止めは当然塗ってない。
「たしか雪斗さんは白色の水着で、秋風さんは赤色っぽい水着だったよなぁ……。ビーチには人がいるし、白色の水着だって人気な物だろうし、見つけられるかな……」
あたりを見回すと、何やら二人組の女子たちがいるのが見えた。水着の色は白色と赤色。ビンゴである。
そこはビーチの駐車場からかなり近くの場所だった。そして一人の男と会話をしている様子である。どこかで見たことある風貌、肩から胸にかけて入っている龍と英語のタトゥーは見覚えがあった。
近づく僕。
「だから、アタシたちはあっちの砂場で友達と来てるって言ってるでしょ!」
「そこをさ! お願い! ちょっとでいいから!」
「梨花ちゃん、どうする? この人、ボクたちが言ってること分かってるのかな?」
「分かってる! マジで分かってる! だからお願い! お願いします! ちょっとでいいから! ちょっとだけ一緒に来てほしい! だからおねが―――グハッ!」
後ろから頭を叩いてやった。なにやってんだコイツ。
「何やってんのお前……」
「いったぁ〜……。何すんだよテメ……って、なんで慎吾がここに……?」
「この子たちと海に来てるんだよ。お前の方こそ何してるんだ、ナンパはやめろよ赤兎」
「ちげーよ! ナンパなんてするわけねぇだろ、俺嫁いんだぞ!?」
「じゃあ何してんだよ」
「一緒に遊ばないかって、この子たちを誘ってたんだよ」
「ナンパじゃねえか」
「だからちげーよ! ビーチバレーの人数が少ないから混ざってくれって言ってたんだよ!」
「どうせ嫁と来てんだろ? 二人でやれよ」
「なんで1on1になるんだよ!」
とりあえずこのバカを説得して、このバカとその嫁を僕たちのテントの近くに移動させた。二人にはあとで謝っておこう。こんなバカに突き合わせてしまって申し訳ない。
僕は皆さんに赤兎を紹介し、遊びに混ざらせてほしい旨を伝えた。タトゥーを入れている不良な男だから始めは警戒していたが、僕に引っ叩かれているのを見て次第に仲良くなっていった。
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