第21話 海とナンパ男②
「何してんだお前……」
「そのセリフはさっき慎吾に言われたよ、デジャヴかこれ?」
「下品な墨入れてんな、相変わらずだなお前。龍と英語って……小学生の習字道具じゃねぇんだからさ、もうちょっとイカしたやつ入れろよ……」
「イカしてんだろ! 最高にイカしてんだろ! お前は頭がキレるタイプだからこういう純粋なカッコよさが分かんねぇだけだろ!」
「捻くれてるって言いてえのかお前」
「そうだけど何か? 不満ですかぁ〜?」
「慎吾、コイツ海に捨ててきていいか?」
それを僕に聞くな。あと喧嘩はやめろ。体にお絵かきしてるガタイの良い男とガタイが良くてタバコ吸ってる男が喧嘩してる姿見たら、明らかにトラブルが起きてると勘違いされてしまうだろうが。
女性陣だって怯えてるに違いないだろうに、どうしてコイツらは会ってそうそうに頭の悪い口喧嘩を始めるんだよ。昔から変わりなく仲良しなのはいいことだが、少なくとも面倒くさい対応しなきゃいけないから勘弁してほしいものである。
しばらく睨み合ってる二人の間に入り、残ってる僕の焼きそばを赤兎に食わせてやった。腹が減っていたようでガツガツと食べている。腹の減り具合をイライラに変換しないでくれ。
「えっと、コイツは僕の友達で、僕が管理人になる前に東京にいた時の居候先の人間です。部屋を貸してくれてたんです」
「元々が友達で、東京でも一緒にいたの?」
咲さんは理解が早かった。他の女性はタトゥーに興味津々の模様。
「ヒキニートのときに俺の家のメシ係してたんすよコイツ」
「あー、だからその延長的に料理が上手なのね〜!」
「どうすかコイツの料理。たまによく分かんない外国の料理出してくるでしょ」
「うんうん、出してくる時あるわね。インドのナンを作ってた時があったのよねぇ」
咲さんと意気投合してやがるコイツ。なんというコミュ強人間なのだろう。どうしてこうも人間性の違いから人と接するのが難しいと感じてしまうのか疑問だ。神様は平等に人間性を与えてくれはしなかったのだろうか。
「それにしても、体にお絵かきしてるお兄さんはさぁ、このお絵かきって痛くなかったのー?」
「お絵かきってなんだよ、かっちょいい髪型してるお嬢ちゃん」
「そのお絵かきって痛くないのかなーって思ってさ」
「もう慣れてるからなぁ……。最初は変な感じしたけど、回数重ねたら何も感じないもんだぜ」
「そうなんだ、カッコイイ〜」
「お嬢ちゃんもしてみるか?」
「してみたい!」
雪斗さんがそんなことを言っている。僕は赤兎の頭を叩いて注意する。
「変なことに誘うな」
「なんでだよ! 墨入れるなんてその国の文化だろ?」
「だからって女子高生を誘う必要はないって言ってんだよ、考えろ。雪斗さんもするのは自由ですけど、良く考えてくださいね」
「は〜い……」
そうだ。カッコよさやその時の興味本位、後先を考えずにすることじゃない。それは文化だし尊重すべきものだとわかっているが、必ずデメリットが存在しているものなのだ。
このバカの場合は首からチラッと見えたら怖がられたり、人に見られる場所に入れてる人は警察に話しかけられたりとそれは様々である。
だから僕はしないと誓っている。以前はそこに抵抗感などなかったのだが、やはり冷静に考えると面倒なことが多い。若気の至りでそういうものに憧れを抱くのは分かるが、今は若くもないしなぁ……。
「どうしたの慎吾」
「いや、雷牙は墨入れるのどう思ってんのかなって」
「やめたほうがいいと思うぞ。見えないところならまだ分かるけどさ、俺みたいに」
「そっか。そうだよなぁ」
僕の友達はこういう人が多い。若気の至りに身を任せて動く人間が多かった。
高校もガラの悪い奴らが集まってたし、今でも不良な人が多いのだろう。この二人はちゃんと仕事しているんだが。それなら僕はどうだ?
僕って、何がしたいんだろう……。
分からない。
☆☆☆☆
「ははは、雪斗さん日焼けしてるなぁ……」
赤ちゃんを抱きかかえながら砂浜でビーチバレーをしている姿を見ていた。赤兎とその奥さん、雷牙とその奥さん、それから咲さん時雨さんたちの女性陣。
光葉さんはやはり休憩していた。僕と一緒に眺める海の景色は彼女の目にはどう写っているのだろう。どんよりとした気まずさが現れた黒色の背景だろうか、それとも恥ずかしさが現れた明るい色の背景なのだろうか。
僕はというと、どっちかというとどんより側。なんだか落ち着かないし何より機嫌がどうなのかが気になってしまう。ソフトクリームでなんとかなるのかよ、本当に。
「あぷぷぅ〜!」
「おーい、お前の示したとおりに食べ物でどうにかなるのかよー。そんなので人間関係が改善されるとは思えないんだが?」
「ぷきゃきゃ〜!」
「マジでバカにしてんのかおい」
赤ん坊は僕を見て笑っている。そして近くから誰かが静かに笑う声がした。
「ふふっ……」
「……」
近くには彼女しかいない。
「な、なんですか光葉さん……。笑ってましたよね?」
「いえ、笑ってません……」
「今はっきりと『ふふっ』ていう笑い声が聞こえたんですけど」
「笑ってません……勘違いです……」
「そうですか……」
「嘘です、笑ってました……」
やっぱり。そしてなんだその嘘は。
「赤ちゃんを見て笑ってました……」
「僕ではなく?」
「赤ちゃんを見ていたんです……それで笑っていたんです……」
「赤ちゃんで面白いことあります?」
「かわいいから笑っていたんです……」
「そうですね、赤ちゃんはかわいいです」
「ご友人のお二人は結婚なさっているのですね……。それに雷牙さんはお子さんまでいる……」
そう、赤兎も雷牙も結婚している。雷牙に至っては子どももいる。早くから家庭を持ったアイツは今をどう思ってるのだろう。父親としてどうしたいとかそういう意志はあるのだろうか。
「雷牙の奥さんは年上なんですよ、二つ上」
「そうなんですか……? なら咲さんと同じ年ですね……」
「尻に敷かれつつもお互いに好き同士だったんです。あ、高校が同じなんです」
「良いですね、そういうのって……」
「そうですよねぇ……。憧れます……」
すると光葉さんは遠くにいる彼らを見ながら聞いてきた。
「結婚はしたいですか……?」
「願望はありますけど、相手がいないんですよねぇ……。ははは、僕って彼女もいたことないですし、今もいませんし……」
「そうですか……」
「光葉さんはどうです? でも光葉さんなら彼氏いそうだし、しようと思えばできるんじゃないですか?」
「いませんし、いたこともありません……」
「へ、へぇ〜……そうなんだ……」
意外だな。光葉さんって綺麗だし美人だし、抜けてるところもあるけどモテそうだけどなぁ……。
「どうして……」
「へ?」
「そう思ったのはどうしてですか……?」
「かわいいから、ですかね」
「ッ……。なんですか、機嫌取りですか……?」
「いえ、純粋に思っただけです」
「うぅ……。お、泳いできます!」
いきなり海に向かっていった光葉さん。変なことを言ってしまったと思わないが、だって聞かれたんだし正直に答えるしかないじゃん。
「今度こそ嫌われたか……?」
「ぷきゃ〜!」
「……」
赤ん坊のほっぺたをぷにぷにしてやった。仕返しだ。
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