プロローグ

「今日はどんなご飯を作ろうかな……」


 慎吾しんごはボーっと天井を見つめてメニューのことを考えた。現在進行系で友人宅に居候をさせてもらっている慎吾は、その友人のために毎晩ご飯を作ってあげている。その友人は慎吾の親友であり、今でも仲良くしている存在だった。


 ひとまずキッチンに向かった。冷蔵庫を開けて食材を確認する。中にはいっているものはどれもスーパーのお買い得だった商品ばかり。買い物に行くのも基本的には慎吾の役目である。


「じゃがいもに人参、それに玉ねぎ……。うーん、とりあえずこの辺りの食材を使って料理をしたいなぁ。賞味期限とかも考えないとだし」


 チルドの引き出しを見てみると、タイミングよく豚バラ肉のパックがあった。慎吾は瞬時に料理を思いつき、早速調理に取りかかる。


 大きめの鍋とフライパンを用意してコンロの上にまずは置く。フライパンには油を注ぎ火をかける。鍋は少量の水を入れて火にかける。まな板を取り出し軽く水で濡らすと、すぐに玉ねぎの皮を向き、筋に沿って包丁を入れた。それらを油の中に入れ塩をふりかけ炒める。


 じゃがいもと人参は適当に皮を向いて、これまた適当に包丁を入れる。サイズ感などどうでもいいと慎吾は考えている。それらを鍋の中に投入する。みりんと醤油、それから砂糖と塩。そしてあとはもはやどんな料理にも変わってしまう魔法の調味料である『すき焼きのタレ』を鍋の中に適当に慎吾はぶち込んでいく。


 料理はできるが味付けや配分は目分量でほとんどが適当である。しかし美味しい。なぜか美味しい。親友にも慎吾の作る料理は好評なのである。


 炒め終わった玉ねぎもフライパンから鍋に移した。すべての野菜を鍋に入れ、グツグツとなればあとは肉を入れるだけ。


 これぞ超簡単、すべて目分量の適当肉じゃがの完成である。慎吾は一人で誰かにこのレシピを紹介でもするかのように自信満々な顔をしている。


「よーし、これで肉じゃがは完成したことだし、赤兎せきとたちが帰ってくるまで本でも読んで過ごしておくか……」


 キッチンを離れた慎吾。24歳という年齢だが、彼は一度も腕時計をつけたことがない。邪魔で鬱陶しく感じてしまうからである。時間が知りたくなった慎吾は机においてある自分のスマホの画面を確認して時間を見る。


 時間よりも目を引くものが、そこには映し出されていた。



「えっ……」



 言葉に詰まる慎吾。理解が追いつくまでにかなりのラグが発生してしまった。それは一通のメールだった。ただの一行のメールだった。


 今の時代メールを使用する人間は少ないだろう。なぜならスマホのアプリケーションで気軽に連絡を取ることのできるアプリが存在しているからだ。つまりこのメールはそのアプリを使用していない人間からのものである。


 営業のメールではない。それは慎吾にとって大切なつながりのある存在からのメールだった。



【お前の祖母が倒れた。戻ってこい】



 叔父からのメールだったのだ。慎吾は冷や汗が止まらなくなった。それも当然、祖母が倒れたのだ。嫌な予感がするに決まっている。


 慎吾は親友……赤兎に電話をしてこのことを伝えようとした。すぐに通話は繋がり、赤兎の声が聞こえる。


「せ、赤兎、僕だ」


「んー? どしたー? 電話してくるなんて珍しいなー」


「あ、あのさ、おばあちゃんが倒れたらしいんだよね……僕の……」


「え? まじ? あー……」


「さっき叔父さんから連絡が入ってさ、すぐに戻ってきた方がいいらしくて……」


「分かった、戻れ。気をつけてなー」


「あ、それと肉じゃが作っておいたから、食べてね」


「そんなことどうでもいいわ、はやく家から出ろ、そんではやくばあちゃんのところに行けやボケ」


 赤兎の言葉を受け、慎吾はすぐに荷物の支度をした。最低限でいい。必要なものを持っていく。


「さ、財布。あとはスマホ……はある。それと鍵! とりあえずこれだけ持っていけばいい!」


 急いで慎吾は家を出て東京駅の改札口までタクシーで向かったのだった。




――――――――――――――――――――――――――




 大体午後7時くらいに更新します。とりあえずエタることはなさそうです。

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