第13話 バスケをするよ雪斗さん

「なんか動きたいなぁ……」


 休日。家の仕事をしたあとは対してすることがない。洗濯物は終わった、それを干すのも終わった、食器の洗い物も終わった、家の中の掃除も終わった。他に何かすることはあるだろうか。


 リビングの机に頭をくっつけてダラダラとテレビを見るだけの生活からさっさと抜け出してしまえ。これでは引きこもりニート時代とほとんど同じだろうに……。それなのにいっちょ前にやることやってる感出すのはやめろよ、僕。


 あの時はそれでもいいと思っていた。自分の人生はこんな不毛な生活習慣で成り立っているのだと感じてならなかったからだ。そんな生活から抜け出したいと思わなかったのか? ただの引きこもりのニートとして生きるのは楽だったろう。


 しかし楽でも楽しみはない。そうなんの楽しみもなかったのだ。何もなかった、何も楽しいと思えなかった。


「楽しいと思えることをしたいなぁ……」


 今でこそ僕は多くの人と関わっている。下宿の女性は五人……うん多いな! 多くの人だな! これらの方と楽しいと思えることをしようじゃないか。たしかに断られる可能性もあるだろうが何もしない一日を送るだけとは大違いだ。


「はぁ……」


 そんな時、タイミング良く雪斗さんがやってきた。


「誰かいるー?」


「雪斗さん。はい、僕がいますよ」


「ん? やあやあ、お兄さん! お兄さんは休日は何もしてないよねー!」


 ウッ。少し響きが悪いな。何もしていないと言われて、何度バカにされてきたことか。


「はい……何もしていない、ですね……」


「あれ? なんか具合悪い?」


「いえ! 具合は悪くはないですよ! 絶好調です!」


「そっかそっか! それじゃあ、お兄さんって運動できる?」


「運動ですか? まあ、はい人並みには……」


「今ヒマならさぁ、ボクとバスケしようよ。学校の古いボールパクってきたから、せっかくなら使いたいの」


「パクってきたって……いいんですか? 怒られちゃいますよ?」


「いいのいいの。どうせ古くて汚いボールだし!」


 本当にいいのか、それ。もしかしてボールを使ったということを理由に僕を共犯者にしたいのではないか? それだととんだ最低最悪な女の子のレッテルが僕の中で貼られてしまうぞ。


 雪斗さんを見る。


「どうしたのお兄さん?」


 ニッコニコ。もう超絶笑顔だった。


「いや、ないない。そんなこと考えもしないだろうなぁ」


「ん? 変なの……」


「それでどこでバスケをするんですか? この家の敷地内では当然無理ですよ? 庭にゴールを建てるとかなら分かりますけど、そんな物をこの家が持ってるわけありませんし、第一地面が土だからボールがはねませんよ?」


「それなら大丈夫。いいところがあるんだ」


「どこですかそこ?」


 僕は雪斗さんに連れられて彼女の言う『いいところ』に向かった。




 ☆☆☆☆




 なんだここ。


「到着ー! ここだよお兄さん」


 そこは大きな金網で覆われたバスケットボールのコートだった。意外と広くてしっかりした作りであり、ゴールもちゃんと二つある。それに離れたところに半分だけのコートも存在している。なるほどこれならバスケットボールの試合をすることもできるし、子どもたちがこうして休日に遊ぶことだってできる。


「家の近くにこんなしっかりした施設あったんですね。知りませんでしたよ」


「でしょ? 自治体がバスケ人口が増えてきたからって、三年くらい前に設置してくれたんだよ。すごいよね、自治体サマサマだよー」


「そうですね。これなら屋外でもできますし、いいですね」


「えへへ。ボクの言った通り『いいところ』でしょ?」


「そうですね……」


 でも待てよ? 何か変だ。ここは家から少し歩いたところにある施設だ。そしてこの施設の隣にはすぐに小学校が見える。それに校庭、及びグラウンドも近くにある。


 さっき自治体が作ってくれたって言ってたけど……。まさかここの敷地って……。


「雪斗さん……。ここって料金かかるんでしたっけ?」


「んー? 分かんなーい。払ったことなーい」


「ゆ、雪斗さん……? もしかしてこの施設って小学校の敷地内のものですか……?」


 声を震わせて言う僕に雪斗さんは平気な顔をして答える。


「多分そう。でも言えば使わせてもらえるはずだよ?」


「使いますって報告したんですか?」


「してない」


「行きましょうか、事務室に」


「なんでー!? 大丈夫だって後から言えば問題ないよ!」


「ダメですよ! これだと不法侵入です! まさかアレですか!? 顔パスで行けるとか思ってんですか!? ちゃんと手続きしないと無理ですよ!」


「ヤダヤダ面倒くさいよ! それにお兄さんも共犯者だよ、もう入ってるし!」


 あ。僕、もうやっちゃってるんだ……。


「ほら、ボールも持っちゃってるし」


「……」


「バスケする気まんまんじゃん」


 もうどうにでもなれ。


 その後、僕と雪斗さんは存分にバスケットボールをして遊んだ。小学校の体育の先生に見つかるまでの間にやった1on1の勝負は雪斗さんの圧勝だった。


 ちなみに体育の先生にはメチャクチャ怒られてしまった。雪斗さんは全部僕のせいにしてきたからか、僕が最近この辺に住むようになったことを色々と説明して、ようやく許してもらうことができた。


 なんだか賑やかで楽しい一日だと感じた。僕の完成は歪んでいるのかもしれない。

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