第28話 鉱山の入口
テオは黙ったまま歩き続けた。
アメリアは自分のパーティーに戻ってしまったため、今、最後列を歩いているのはテオとミア、ウーゴの三人だけだ。
黙り込んでいたのはテオだけではない。
ミアやウーゴも深刻な顔をしてなにかを考え込んでいる。
テオは少しでも空気を変えようと、ミアたちに明るく話しかける。
「で、でもさ! こんなに大勢の騎士団や冒険者がいるなら、いくら強い魔獣だって倒せるよね。きっと今回が初めての神格獣討伐になるって」
「そ、そうだよね」
ウーゴはぎこちない笑顔で応えてくれたが、ミアは違っていた。
「そんな単純な話じゃないわ。今までもきっと大規模な討伐隊は送られたはず……。それでも倒せなかったのなら、人の手で神格獣を倒すことは不可能だってことよ」
テオは言葉に詰まる。重かった空気がさらに重くなり、ウーゴに至ってはガックリと
このままじゃマズい! と思ったテオは、なんとか前向きな気持ちにさせようとあれこれ考えた。
「たぶん、騎士団や冒険者の中にも【能力者】はいるよ! それに僕たちだって【能力者】なんだから、簡単には負けないよ!」
語気を強めるテオに対し、ミアだけは冷静に状況を見ていた。
「ねえ、テオ。今からでも参加を見送った方がいいんじゃないかな。私たちが予想してた以上に、ここは危険な場所だよ。三人とも怪我だけじゃ済まないかもしれない」
ミアの言葉を聞いて、テオは視線を落とす。確かに、アメリアさんの話を聞く限り、この戦いは相当の犠牲が出るかもしれない。
無事で帰れる保証はどこにもないんだ。
テオは自分のわがままでミアやウーゴを危険に晒していることに、申し訳なさを感じていた。これ以上、付き合わせる訳にはいかない。
「ごめん、ミア、ウーゴ。僕が無理矢理連れてきたせいで……あとは僕一人で行くよ。二人は帰って、ライアンさんには僕が謝るから」
「テオは帰らないの!?」
ミアは眉を寄せて聞いてくる。テオはミアの目をまっすぐに見つめて小さく頷いた。
「僕は行くよ。ギルドで依頼を受けた責任もあるし、アメリアさんたちを助けたいんだ」
ミアはなにも言えなくなる。テオの瞳に、揺るぎない意思を感じたからだ。
テオの話を聞き、今まで黙っていたウーゴが口を開く。
「テ、テオが行くなら……僕もいくよ。テオが死んじゃったら嫌だし……僕で役に立てるなら手伝うよ」
「ウーゴ」
テオは泣きそうな表情でウーゴを見つめた。二人のやり取りを聞いていたミアは、ハァーと深い溜息をつく。
「テオとウーゴが帰らないなら、私が一人で帰れる訳ないでしょ、まったく」
「いいの? ミア」
テオが驚いて尋ねると、ミアはなんでもないように返す。
「私がいなかったら二人とも無茶するでしょ? テオは後先考えずに行動するし、ウーゴは人のために自分が傷ついても気にしないし……私がちゃんと見てないと」
ミアはそう言ってわずかに微笑んだ。
――同い年なのにまるでお姉さんみたいだ。いや、下手をすれば母親のように僕たちを見てるのかも。
覚悟を決めたミアはスタスタと歩いて行ってしまう。テオとウーゴは遅れないよう、慌てて追いかけた。
◇◇◇
ブルノイア領の北西部にある鉱山。
鉄や銅などの鉱物資源が大量に採掘できるため、領内の産業を発展には不可欠な場所だった。
隊列が止まり、一番後方にいたテオは視線を上げる。
視線の先にあるのは、木々が生い茂った大きな山だった。事業場に続く出入り口は山の中腹にあり、ここからでも建物の一部が見える。
神格獣は、どうやらあの中にいるようだ。
「全員、聞いてくれ!」
大きな声を張り上げたのは、ブルノイア騎士団の副団長ライアンだ。
「我々騎士団が先行して鉱山内部へ入り、討伐対象の魔獣を誘導して外へ追い出す。その魔獣を全員で叩きのめすのが今回の作戦だ。冒険者の諸君も
ライアンはそれだけ言うと、騎士団に号令を出した。多くの騎士が馬を降り、鉱山の内部に続く入口に入る。
ライアンを先頭に300人ほどが進んでいった。
「僕らは入らないんだ……鉱山の中が一番危ないと思ってたから、これはありがたいね」
話を聞いていたテオは、ホッと胸を撫で下ろした。
「でも、鉱山内で騎士団が倒れたら、こっちは主戦力を失うことになるわ。そうなったら残るのは騎士団200人と冒険者200人。大幅な戦力低下ね」
――初めて討伐に来たのに全然動揺してない。やっぱりミアの精神力は僕やウーゴと比べものにならないな。
テオが感心していると、ミアは指を顎に当てなにかを考え込む。
「この鉱山……入口は一つだけなのかな?」
「入口? さあ、どうだろう。他にも出入り口はあるんじゃないかな?」
よく分からなかったが、テオはなんとなくそう答えた。
「もし入口が少なかったら、魔獣を外に出すのはそれだけ難しいと思うけど、ライアンさんはなにか策があるのかな? 魔獣を外に追い出すための……」
「う~ん、どうだろう?」
ミアの心配はもっともだが、それを自分たちが考えても仕方ない。
そんな話をしていた時、かすかに足元が揺れていることに気づいた。
「ん? なんだ?」
テオはギョッとしてわずかに膝を曲げる。ウーゴもオロオロして辺りを見回した。唯一冷静だったのはミアだけだ。
「地震? いえ……これは――」
ドンッと山の上から粉塵が上がる。なにが起きたのか分からず、周りの冒険者が騒ぎ出した。
テオは山頂から現れたものに目を見張る。人の顔をした四本腕の魔獣。下半身は蛇のような胴体で、どれくらいの長さかここからでは確認できない。
クルリと身をひるがえすと、山の斜面を一気に下ってきた。
あまりの出来事に、周囲の冒険者はパニックになる。
鉱山の入口からはライアンたち騎士団が慌てて出てきた。なにを言っているか分からないが、大声で叫んでいる。
そんなことはお構いなしに、魔獣は次々と騎士団に襲いかかった。魔獣が腕を振れば、数人の騎士団がまとめて飛んでいく。
さらに長い胴体を振るえば、数十人の騎士が
テオはなにもできず、ただ立ち尽くすばかり。甘く考えていた。強いといってもレッドベアと同じ魔獣の一種にすぎない。
そう思っていたのに――
視線の先にいるのは、完全に別次元の魔獣。屈強な騎士団は相手にならず、冒険者たちも怖がって手を出そうとしない。
なにもかもが想像以上、相手は常軌を
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