第41話 空に舞う
デルピュネーは苦しげに唸り声を上げ、藻掻きながらテオを振り払おうとする。
だが、幻の炎となっているテオに触れることはできない。
テオは魔獣の喉から剣を抜き、下に飛び降りる。すぐに身を屈め、もう一度駆け出す。神格獣に近づくと、長い胴体に剣を突き刺した。
そのまま体を回転させ、さらに傷口を裂いていく。テオが剣を引き抜くと、青い炎が傷から噴き出す。
テオは間を置かず、連続で攻撃した。魔獣の胴を駆け上がり、上半身を何度も斬りつける。腕を、肩を、顔を、胸を斬り裂き、その度に炎が噴き出した。
デルピュネーの体は炎に包まれ、断末魔のような絶叫を上げる。
体をくねらせ暴れ回り、手当たり次第攻撃を仕掛けようとする。テオは魔獣の頭を斬りつけ、相手の体を蹴って飛び退いた。
地面に着地して見上げれば、デルピュネーは青い炎を体に浴び、悶え苦しんでいる。
そんな魔獣に対し、ウーゴは猛然と突っ込んでいく。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
高々と振り上げたバトルアックスを、渾身の力で振り切った。
魔獣の胴を縦に斬り裂き、大量の血が噴き出る。さらに斧を引き、横に薙ぎ払った。斧はまたしても蛇の胴に食い込み、大きな傷を作り出す。
デルピュネーは怒り狂い、ウーゴに鋭い爪を向ける。
だが、ミアが放った氷の槍に体を貫かれ、バランスを崩して攻撃を外す。氷の槍は青い炎に包まれても溶けることはない。
テオは自分の能力に確信を持った。
――やっぱり、青い炎は任意の物しか燃やさないんだ。ミアの氷も、ウーゴの体も燃やすことはない。
そのことはミアやウーゴも理解しているようだった。神格獣は体に張り付いた氷を引き剥がし、この場から逃げようとする。それを止めようと、ウーゴはデルピュネーの胴体を両腕でガッチリと掴む。
これを見てすぐに対応したのはミアだ。
手を頭上にかかげ、魔力を込める。すると上空に水が集まりだし、ピキピキと凍って巨大な氷塊と化す。
直径十メートルはあろう氷塊は、ゆっくりと落ちてくる。
デルピュネーは頭上から氷塊が落ちてくることに気づいた。さすがの神格獣もこれには恐怖を抱き、ジタバタと暴れて逃げようとする。
しかし、ウーゴは動こうとせず、魔獣の体を押さえ込んでいた。
巨大な氷塊はデルピュネーの長い尾っぽに落ち、完全に潰してしまう。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
デルピュネーの絶叫が辺りにこだまする。上半身は青い炎で燃やされ、下半身は氷塊に潰され動くことができない。
ウーゴは魔獣から手を離し、地面に置いたバトルアックスを掴む。
大きく振りかぶってから、全力の斬撃を叩き込んだ。魔獣の体から、真っ赤な鮮血がほとばしる。
デルピュネーは藻掻き苦しみ、ウーゴに襲いかかった。しかし、ウーゴの体は鋼鉄でできた強固なもの。
いくら爪を立てようがビクともしなかった。それどころか斧による一撃を叩き込まれ、魔獣は顔面の骨を割られてしまう。
「アアアアアアアア……」
神格獣は弱々しい声を上げ、頭を抱えて逃げようとする。だが、尻尾を巨大な氷塊に潰され、動くことができない。
テオは神格獣に止めを刺すため、地面を蹴って駆け出した。
正面にいたウーゴはチラリとこちらを見て小さく頷く。テオはウーゴの考えを理解し、バンッと跳躍した。
ウーゴの肩に飛び乗り、さらに飛び上がる。目の前には燃え上がる神格獣がいた。
「喰らえ!!」
テオの振るった剣は魔獣の首に食い込む。激しい炎が噴き出し、首周りを焼いていく。デルピュネーは声にならない声を上げた。
なんとかテオを引き剥がそうと、腕を振るって攻撃する。だが、何度試そうと幻に触れることはできない。
魔獣の手は空を切り、ただ藻掻いているようにしか見えなかった。
炎の剣はさらに魔獣の首を斬り裂き、内側を燃やしていく。
ミアとウーゴも攻撃の手を緩めなかった。
ウーゴは目の前にある魔獣の胴体を、バトルアックスで何度も斬りつける。傷口はズタズタで、再生できるようなものではない。
肉を断ち、骨を断ち、内臓すら斬り裂く。
いかに巨大な肉体であろうと、ウーゴの前では意味をなさなかった。
ミアも自分の能力を最大限に引き出す。
周囲に数百の水滴を作りだし、空中に漂わせる。水滴は長く太い針のような形となり、その先端を魔獣に向けた。
「あの魔獣を貫いて!!」
ミアの号令によって数百の「針」が放たれる。
針はテオごとデルピュネーの体を貫いた。もちろん、幻の炎と化したテオにダメージなどない。
一方的にデルピュネーだけが苦しみ続ける。刺さった氷の針は傷口を凍らせ、肉体を壊死させていった。
炎による攻撃と、氷による攻撃。相反する二つの痛みが、容赦なくデルピュネーに襲いかかる。
「うおおおおおおおおおお!!」
テオは魔獣の首に食い込んでいた剣を振り抜いた。血しぶきが飛び、火の粉が舞い、デルピュネーの首は半分近く斬り裂かれる。
広がった青い炎は、首の内部を焼き尽くす。魔獣は力なく腕をダランと垂らし、上を見上げる。
半開きにした口からは炎が漏れていた。
テオは後ろに飛び退き、焼かれていく神格獣の様子を見る。まだ生きているものの、もはや抵抗する力がないのだろう。
デルピュネーは直立不動のまま空を見上げ、微動だにしない。
テオの後ろには、ミアとウーゴも歩み寄ってきた。三人は無言のまま、青い炎に包まれた魔獣を見つめる。
決着がついたのだ。誰もがそのことを理解していた。
魔獣の体は炎の中でボロボロと崩れ始め、やがて灰となり、空に舞った。
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