最終話 最高の仲間

 騎士団長のオッペンは、目の前で起きている光景が信じられなかった。


「あのデルピュネーを、神格獣を倒すなんて……」


 三人の冒険者。聞いた話では全員新人で、D級のライセンスしか持っていないと言う。それなのに――

 驚いていたのはオッペンだけではない。集まっていた騎士団や冒険者たちも、信じられないといった表情で燃えさかる青い炎を見つめていた。

 高台にいたブルノイア公爵も、戦いが迅速に終わったことに驚きを隠せない。


「我々が勝った、と言うことでしょうか?」


 後ろに控える執事が困惑したように話しかけてくる。

 ブルノイアは顎髭を撫で、うむ、と難しい顔で頷いた。


「ライツたちがやってくれたのだろう。本当にすごいことをしてくれた」


 討伐の成功は間を置かず、テオたちが暮らす国【カンバリア】の王も知るところとなる。


「そうか……ブルノイア領の神格獣が死んだのか……」


 病に伏せるカンバリア王だったが、ベッドの上で上半身を起こし、朗報に相好そうごうを崩していた。


「して、神格獣を倒したのはどのような者だ」


 王に問われ、ベッドのかたわらにいた宰相が答える。


「まだ詳しくは分かりませんが、なんでも若い冒険者だったそうです。それもたった三人で神格獣を討ったとか……にわかには信じられません」


 カンバリア王は「そうか」とだけつぶやき、嬉しそうに窓の外に目をやった。暖かい日差しが窓辺に注いでいる。

 この出来事は国全体に明るい影響を与えてくれる。カンバリアは、そう思わずにはいられなかった。

 さらに神格獣討伐の噂は海を越え、遠方の国々にまで轟く。


 東の大国【ドハラ】――

 国の実権を握る皇太子のアジャンバラは、部下から一報を聞いてニヤリと微笑む。


「へ~、とうとう神格獣を倒すヤツが出てきたか……それは面白いね」


 酒が注がれた黄金の杯に口をつけ、豪奢なソファーに背中を預ける。まだ若く、美しい容姿のアジャンバラは、いつものように数人の美女をはべらせていた。

 他国のことにあまり興味を示さない男だが、今回に限っては食指が動いた。


「全員、能力者のパーティーか……ぜひ会ってみたいね」


 アジャンバラは甘えてくる女の頭を撫でながら、遠方の国に思いをはせた。


 北の軍事国家【ゴゾーバ】――

 強力な冒険者が多くいるゴゾーバでも、神格獣討伐の噂が広がっていた。

 首都のギルドではその話で持ちきりとなっており、最強の冒険者パーティー【アリステレス】の耳にも入る。


「神格獣を討伐したのか……倒したのは無名の冒険者と聞いたけど、本当かな?」


 アリステレスのリーダー、ボロッソはつばの広い帽子『キャペリン』をいじりながら話す。

 それを聞いた大柄の冒険者、タウロスはフンッと鼻を鳴らした。


「本当に倒したとしても、神格獣の中では最弱の個体だろう。【ギガントの実】なんて大した能力じゃねえ!」


 ボロッソはフフと笑みを零す。


「たとえ弱い神格獣であっても、今まで誰も勝てなかったんだよ。やっぱり凄いことだよ」

 

 タウロスはチッと舌打ちした。そんなタウロスを余所よそに、ボロッソは賑やかなギルド内を見回す。


「俺たちも負けてられないな。我々【アリステレス】も神格獣を討伐する。その力は充分あるはずだからね」


 ボロッソの言葉に、周りにいた屈強な冒険者はギラついた笑みを浮かべた。


 ◇◇◇


 デルピュネーを討伐してから三ヶ月――

 パルキアの近郊にある森に、テオたちの姿があった。森の奥には大きな滝があり、その滝面の上を、三羽の大型の鳥が飛んでいく。

 テオは木の枝を蹴り、空に舞い上がった。


「待てえっ! 逃がさないぞ!!」


 全身に青い炎を灯すテオが剣を振るうと、炎の一部が鳥の尾っぽまで飛んでいく。わずかな火の粉にすぎなかったが、火はあっと言う間に燃え広がり、鳥の全身を焼いていった。 

 だが、二羽の鳥には逃げられてしまう。


「ごめん! ミア、ウーゴ! 残りがそっちにいっちゃった」


 テオ・アルノ 13歳 C級冒険者


 ・ギャロップの実       希少性★

 ・クリュサオルの実      希少性★★

 ・ファントムフェニックスの実 希少性???

 ・ギュゲスの実        希少性★

 ・ヘテカの実         希少性★★



 崖下にいたミアは、テオの声を聞き「まったく」と言って持っていた杖をかかげた。

 杖の周囲には無数の水滴が集まり、その全てが鋭い氷の槍となる。


「行け」


 ミアの声と供に、氷の槍は一斉に発射された。凄まじい速度で飛んだ槍は、飛行する鳥に直撃する。

 アアアアと鳴き声を上げながら、怪鳥は体を凍らせ落下してきた。

 地面で動かなくなる鳥を見ながら、ミアはふーと息を吐く。


「ギルドからの依頼は"フレスベルグ"三羽の討伐。一羽でも逃がしたら失敗になるわ。ウーゴ! お願い」


 ミア・ハングルマン 13歳 C級冒険者


 ・ウィンディーネの実 希少性★★★

 ・フラウの実     希少性★★★



「うぅん、分かったあぁ」


 頭上からウーゴの声が聞こえてくる。

 空で旋回していた怪鳥に、ぬっと大きな影が伸びてきた。


「グゲッ!?」


 鳥は鷲づかみにされ、身動きが取れなくなる。目の前には巨大な人間がおり、その手にガッチリと掴まれていたのだ。


「捕まえたよぉ、テオォ、ミアァ。これでぇ、依頼達成だよねぇ」

「ウーゴ! お手柄だよ」


 テオの言葉に、巨大ウーゴはニッコリと微笑む。手で握りしめた鳥をゆっくりと地面に下ろした。

 鳥はぐったりとして動く様子はない。

 ウーゴは徐々に小さくなり、通常のサイズに戻る。

 ミアに体は大丈夫? と聞かれ、ウーゴは大丈夫だよ。と笑顔で答えた。


 ウーゴ・ココラス 14歳 C級冒険者


 ・アダマスの実  希少性★★

 ・ヘラクレスの実 希少性★★

 ・ギガントの実  希少性★★



「でも良かったね。特注で作ったゴムの服が間に合って。それがなかったら巨大化できなかったでしょ」


 ミアに指摘され、ウーゴは自分が着ている服を見る。普通の服では巨大化した時、全部破れてしまうため、どうするかを悩んでいた。 

 解決したのはパルキアの町にある服飾店だ。特殊なゴムで服を作ったことにより、巨大化しても裸になることはなくなった。

 ウーゴも新しい装備を気に入ったようだ。


「じゃあ戻ろうか。ギルドに行って討伐完了を報告しないと。ウーゴ。この鳥、運んでもらっていい?」


 テオにうながされ、ウーゴは「分かった」と言って三羽の鳥をまとめて肩に担ぐ。

 三人で町に戻る道すがら、テオはミアに声をかけた。


「それにしても、ミアが協力してくれて助かったよ。もう手を貸してくれないかと思ってたからさ」

「テオが『もう少し実績を積みたいから協力して』って頼んできたんじゃない。冒険者になったことをさっさとお爺さんたちに言えばいいのに」

「そうなんだけど……いまいち勇気が出なくって」


 ごにょごにょ言うテオに、ミアはハァーと溜息をつく。


「神格獣を倒すなんて誰にもできないことをやったんだよ。きっとお爺さんやお母さんも認めてくれるよ」

「そうかな……そうだといいんだけど」


 テオはC級のライセンスを取ったら家族に冒険者になったことを報告しようと思っていた。

 しかし実際に言おうとすると、否定されるのが怖くて二の足を踏んでしまう。


「せめてBランクに飛び級できてればな~。いまさら言っても仕方ないけど」


 そんなことをブツブツと言いながら、テオは隣を歩くミアとウーゴを見る。

 いつも姉のような眼差しで、文句を言いながらも自分を支えてくれるミア。

 無理を言っても笑顔で応えてくれる優しいウーゴ。

 そんな二人と一緒に冒険者になれたことを、テオは本当に幸せだと思った。

 太陽が西に傾き、三人の影が長く伸びる。

 テオたちはゆっくりとした足取りで、活動拠点であるパルキアの町へと戻った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。なんとか最後まで書き切ることができました。

 今後も新しい作品ができれば投稿していきたいと思います。

 その時はまた読んでいただけると幸いです。本当にありがとうございました。

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【神獣の実】が成る伝説の木。近くの山にあるんですが。 温泉カピバラ @aratakappi

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