第22話 冒険者仲間
「じゃあ、ミアも食べてみて。はい」
純粋な目で青い実を渡してくるテオに、ミアは眉根を寄せる。
「これ……どんな能力がある実なの? まったく知らずに食べたくないんだけど」
「ああ、そうだね。これは【ウィンディーネの実】。精霊種って呼ばれる実で、水の力を使うことができるんだ」
「精霊種?」
ミアは不審がっていた。博識なミアでも、興味のない神獣の実のことは知らないのだろう。
「精霊種は【神獣の実】の中でも希少な部類に入るんだ。すごく価値が高くて、金貨5000枚以上はするんだよ」
「金貨5000枚!?」
ミアは急速に青ざめていく。
「そ、そんなのもらえる訳ないでしょ! もし本物なら、売った方が絶対いいに決まってるじゃない」
「うん、僕も売ることは考えたけど、せっかく手にいれた【実】だからね。もう二度と手に入らないだろうし、使った方がいいと思うんだ」
ミアは呆気に取られる。信じられないといった表情だ。
「とにかく! 売ることは考えてないから。ミアが使わないんなら、他の人を探すしかない。でも、僕はミアに頼みたいんだ。ミアは頭もいいし、信頼できる。だからお願いだよミア!」
懇願して青い実を差し出すテオに、ミアはハァーと息を吐き、受け取った【実】に視線を落とす。
「分かったわ。だけど……今回だけだからね」
「うん、それでいいよ! 食べて食べて」
喜ぶテオを横目に、ミアはハンカチて実を拭く。しばし実を眺めたあと、意を決したように口をつける。
シャクッと音が鳴り、実の一部が欠ける。モグモグと咀嚼したあと、ミアはテオに視線を向けた。
「これって……全部食べなきゃいけないの?」
「うん、そうだよ。残さずにね」
屈託のない笑顔で言うテオに、ミアはもう一度深い溜息をついた。
◇◇◇
実を食べきったミアは意識を集中する。テオにイメージが大事だと言われ、水の精霊を思い描き、その力を使おうとする。
静かに
しばしの時が過ぎると、ミアの指先から一滴の水がしたたり落ちる。そのあと大量の水がミアの周囲に渦巻き、螺旋状に
「うわ! 凄い!!」
テオが大声で喜ぶと、隣にいたウーゴも「ほ、ほんとに水が出た……」と呆気に取られた。
ミアは踊るようにクルクルと回り、周囲にある水と
「テオ、これでいいの? 能力を使いこなせてるのかな?」
ミアが不安気に尋ねてきた。テオは「ちょっと待って、確かめてみる」とミアに近づいていく。
恐る恐るミアの肩を触ると、パシャッと音が鳴り、テオの手がすり抜ける。
「え?」
「これは……全身が水になってる!」
興奮するテオに、ミアが「どういうこと?」と困惑した表情で聞く。
「【ウィンディーネの実】は、水を操るだけじゃなくて、体そのものが水になるんだ。身につけてる物や持ってる物も水になるから通常の物理攻撃はまったく効かない。雷や氷系の魔法は通常より効いちゃうんだけどね」
「ちょ、ちょっと待って!」
いつも冷静なミアが、すごい剣幕で詰め寄ってくる。
「私の体、どうなっちゃったの!? まさか、このまま一生ビチャビチャのままなんじゃ……」
「だ、大丈夫だよ。能力を使うのをやめれば元通りになるから。今は普通の体なんじゃないかな?」
テオに指摘され、ミアは自分の体を触ってみる。確かに体が水になることはなく、周りに渦巻いていた水も、全て地面に落ちていた。
「本当だ……」
自分の手を見つめ続けるミア。テオはコホンっと咳払いし、改めてミアに視線を向ける。
「神獣の実の能力は自分でコントロールできるんだ。だから普段の生活に支障はないと思うよ」
「そう、それならいいけど」
ミアは少し安心したように息をついた。
「実の力を完全に使いこなすには練習が必要なんだ。だからミアとウーゴもがんぱって使いこなして! すぐに冒険者の登録試験を受けに行くから」
ミアとウーゴはそろって怪訝な顔をする。
「登録試験って、そんなの受けに行くの?」
「うん、冒険者登録ができないと、そもそも依頼を受けられないからね」
「それを受けるとして……いつ頃ギルドに行く気なの?」
「う~ん、そうだな」
テオは少し考え込み、ミアに笑顔を向ける。
「
あっけらかんと言うテオに、ミアは目をすがめ、ウーゴは苦笑した。
◇◇◇
「この方たちですか? 登録試験を受けるのは」
ギルドの職員、クラウツが確認してくる。テオは笑顔で「はい!」と答え、後ろに控えていた二人を見る。
一人は白いマントを纏った小柄な少女。フードを目深にかぶり、伏し目がちに
もう一人は大柄で、鬼のようなお面を付けていた。筋骨隆々で、体格だけなら大人にしか見えないだろう。
当然、この二人はミアとウーゴだ。
身元を隠すため顔が見えないよう変装している。
「では、名前を教えて頂けますか」
「私はミア、こっちはウーゴです」
ウーゴはうんうんと頷き鼻を鳴らす。身元を隠すなら、名前も偽名を使った方がいいんじゃないか。テオは二人にそう提案したものの、ミアの「めんどくさい」の一言で却下された。
確かに、片田舎に住む自分たちに気づく者などいないだろう。とは言え、たまたま知り合いに出会う可能性もある。
――かっこいい英雄の名前とか付ければいいのに……。
テオはやや不満を覚えるも、ミアに強く言う訳にもいかない。このまま成り行きを見守ることにした。
三人はクラウツに案内され、ギルドの裏手にある空き地に足を踏み入れる。
ここはテオが冒険者の登録試験を受けた場所。B級冒険者でもある試験官のボルドが準備万端で待ちかまえていた。
「おう、お前らか。試験を受けたいってのは」
ミアがコクリと
「またガキか。だが手加減はしないからな。覚悟しとけよ!」
ボルドは剣を構え、ミアと対峙した。
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